クエスト:古文書の解読4
さて、俺が宿に帰った時にはもう日も沈んでしまっていたわけだ。
それで、俺は腹がもうペコペコだっていうのに宿の食堂は満席。
しばらく待つことになってしまった。
「もう、リュウが遅いからよ!」
ミケ猫はプリプリ怒ってるが、別にロレッタ姉さんと二人で飯食っててもよかったんだぞ。
「子猫ちゃんはうるさいねぇ。そんなんじゃリュウに嫌われるよ?」
ロレッタ姉さんは余裕たっぷりに壁にもたれて腕を組んでる。
でも、お腹が鳴ってるのが聞こえてます、姉さん。
「まあまあ、俺が遅かったのが悪いんだから」
ここで喧嘩をするのはやめてほしい。
割と本気でそう思う。
「そういえばリュウは何で遅くなったの?」
お、さっそく聞いてくるか。
なら、話さないとな。
俺がさっき出会った奇妙な子の事を。
「聞いてくれよ、さっき変なことが起きてさぁ」
なんて、俺は軽い調子で話したわけで。
人気のない奇妙なところに迷い込んだこと、そこで出会った羊娘について話すと獣人の二人が困ったように顔を見合わせた。
羊娘に心当たりがあるのか?
「ねえ、リュウ。アタシらの種族に羊の獣人なんていないんだけど」
何だって!?
ロレッタ姉さんの言葉に俺は耳を疑った。
「私も聞いたことないよ。角が生えてるのは牛だけのはずだもん」
実際の獣人の二人が言うんだから間違いはないんだろうな。
じゃあ俺が会ったあの子は何なんだ?
敵意がないってのは間違いないと思うんだけど。
「俺が会ったのは、じゃあ何なんだ?」
「何なのかなぁ」
「アレじゃないか? 時々クエストに出てる人探し」
クエストには詳しいロレッタ姉さんが言うには、時々行方不明になった人を探すクエストが出ているらしい。
そのクエストが成功した話は聞かないそうだ。
「ほとんどが若い女の子だって聞いていたけど、まさかリュウが巻き込まれたのってこれの類似例なのかねぇ」
今までの被害者は女の子なのか!
だから羊娘は俺を見て驚いてたんだったり。
そんなわけないか。
「俺が例外ってことか?」
「そうなるね。リュウがこの世界の人間じゃないから、とか?」
「よしてくれよ、俺はまだ目の前の事だけでいっぱいなんだから」
ロレッタ姉さんとミケ猫からの評価は自分でもおかしいって思うぐらいに高い。
本当にこれでいいんだろうか。
いや、『勇者サマ』として来てるんだったらそれでいいのかもしれないけど、俺はまだ何もしてないぞ?
「羊の角のある人間かぁ。今度集落の長老に聞いてみるのもいいかもしれないねぇ」
「私だって聞いてくるもん」
対抗意識があるのは別にいいんだけど、ここで騒ぐのだけはやめてくれよ。
腹ペコのお腹を抱えながら俺は二人の応酬に手が出せずに聞いていた。
そんな日も終わり次の日だ。
と、いってもミケ猫の相手をして、隣には裸のミケ猫がいる状況だが。
ロレッタ姉さんや、ミケ猫の相手をして気づいたんだけど尻尾もちゃんと生えてるんだな。
いつもは服の下に隠れてるんだろうか。
「なーに……もうあさぁ……?」
もぞもぞと布団にくるまる姿は可愛らしいんだけど、朝から興奮する気はないからな。
背を向けて、俺は服を着る。
「リュウ、もうちょっとだけ一緒にいようよぉ」
そうやって甘えてくるのは反則だと思う。
だけど、朝はお断りだ。
ミケ猫がどんなに着やせするタイプでも、だ.
何せ朝食ったら神殿へクエストに行かないといけないんだから。
「ミケは疲れただろ。俺はまたクエストに行ってくるから」
「むぅ」
何でそこで怒るんだよ。
おかしいだろう。
「じゃ、そういうことで行ってくる」
ベッドの上から動こうとしないミケ猫を置いて、俺は部屋を出た。
さて、今日も一日頑張りますか。
気合を入れて朝飯を食った後神殿に向かった俺だが、到着してみると何か騒がしい。
何だぁ。今日何かがあるなんて昨日の時点で聞いてないぞ。
「おはようございます、リュウさん」
オレリアさんが俺を見つけると慌ただしく寄ってくる。
本当にこの神殿に何が起きてるんだ?
「今日は騒がしくてすみません」
「それはいいけど、急にどうしたんだ?」
「何でも、偉い貴族の方が急に視察に見えることになったんです」
何だと?
じゃあ今日はクエストなし、とか?
「ああ、でもクエストはいつも通りで大丈夫ですよ。じゃないと、解読進みませんし」
解読を進めるのはいいんだけど、スマホは見つかったらマズいだろ。
「視察っていつぐらいから?」
「多分昼ごろじゃないですか?」
それなら昼間ではスマホ使おう。
昼の飯食ったら頭が痛いけどひらがなを読む。
本当はひらがなじゃあないんだけどさ、獣人の文字だし。
「リュウさんのことを聞かれても全力でごまかすんで任せてください!」
ごまかすのはいいけど、この文字は読めるのにこの世界の読み書きが出来ないってバレたら嫌だから余計なことは言わないでほしい。
ところで、貴族の視察ってことは女性が来たりするのか?
「ええ、とある貴族の当主でお忍びなんですって」
「……昼にミケが来るとまずいな」
「ああ、何となく面倒なことになりそうですよね」
ミケ猫が突撃してこないことを祈りつつ、俺はクエストに取り掛かった。
午前の作業ではとくにいい成果もなく、オレリアさんたちが自力で解読するのに使える情報だけだった。
昼には恐れてた通りにミケ猫がやってきた。
「ドーン! リュウにお弁当配達だよー」
包みの中身はシルヴィアさん特製だろ。
まったく、ミケ猫はいつからシルヴィアさんとそこまで仲良くなって俺に弁当を届けに来るんだか。
「今日は弁当食べたらすぐに帰れよ」
「何で?」
俺は念のためにミケ猫に忠告したんだが、ミケ猫は首をかしげるだけだ。
「何でって……色々あるんだよ」
「まさか、ここでもモテてるんじゃないでしょうね!」
「オレリアさんの事を言ってるなら、あの人が夢中になってるのは古文書解読の方だけだから」
多分、そうだ。
ミケ猫にロレッタ姉さんにシルヴィアさんと相手するだけで俺は大変なんだから。
貴族の視察が来ることをズバリミケ猫にいう事もできず、時間だけが唯過ぎていた。




