クエスト:古文書の解読1
魔法の明かりが文字を照らす。
俺はその文章を追うのに疲れて天井を向いた。
無理。読みきるの無理。
だって、これ全部ひらがななんだぜ。
どうやって読みきれっていうんだ。
「リュウさん。お疲れのようですね」
オレリアさんは俺が放棄した古文書をそっと脇によけてお茶を置いてくれる。
「あ、ありがとう」
「やはり読みにくいですか?」
うん、正直読みにくい。
でもどうやって説明したものか。
「この文字って、俺のいた世界で使われてる文字で『音』だけを表したものなんだ」
「そういうものですか?」
そういうものなんだよ。
だから漢字がないとわからないっていう。
句読点もないから余計に。
いっそのことスマホに頼って読みたい。
「あ、そうだ」
例のアプリはこっちの文字を俺の知ってる日本語に変換してくれる。
じゃあ古代文字とかってどうなんだろ?
翻訳機能があれば俺が楽できるんじゃないか。
「どうしました?」
「ちょっと試したいことが出来た」
俺はスマホを取り出して言った。
「光る板、ですか?」
「これ通したら読めるかなって思ってさ」
なんてオレリアさんに説明しながら俺はアプリを起動した。
これなら読めるかなぁ、なんてね。
「おっ」
読める、読めるぞ! じゃなくて。
「どうですか、リュウさん」
俺はオレリアさんの質問に答えるどころじゃなかった。
ひらがなだけだった文字が、漢字交じりになってとても読みやすい。
漢字って大事だったんだな、としみじみと思う。
書くのは面倒なんだけどな。
「リュウさん?」
「あっと、ごめん。この本だけどちゃんと読めるようになったよ。これで読むスピードは上がると思う」
本当なら読み方をオレリアさんに教えればいいんだけど、こっちの文字がわからないせいで教えれない。
いや、でもわかっても俺が教えたところで、ちゃんと伝わるかは不安だよな。
「本当ですか?」
「とりあえず、読んだ文を俺が口で言うから書き留めるか何かしてほしい」
これでさくさくっとクエストが進むといいな。
今回俺が頼まれたのは、前回のクエストでオレリアさんが持って帰った本の解読だ。
図書館の適当な本棚から適当に持ってきたものだから、量も多いし、多分種類も偏ってる。
普段に本なんて読まない俺には重労働だけど、読めるのが俺しかいないっていうんじゃ仕方ない。
オレリアさんみたいな眼鏡のお姉さんにお願いされるのも、悪い気分じゃないしな。
「準備できました。読んでください」
合図されて俺は音読を始めた。
音読って高校の時以来で、すっげー恥ずかしい。
でもほかに手段がないから仕方ないだろ。
っていうわけで、読み進めていたんだけど。
「はーい! リュウ!」
でかい音を立ててドアが開く。
どんだけ勢いよく開けたんだろ。
やたらテンションの高い声が部屋に乱入して俺たちの集中力を根こそぎ奪っていく。
「ミケ! 何の用だよ!」
「そろそろ、お昼の時間だから差し入れだよー!」
そう言ってミケ猫が差し出したのは食べかけのパンだった。
「食べかけかよ!」
「本当は丸々あったんだけどねぇ、途中でお腹空いちゃって」
それで差し入れに買ったパンを食べるとは。
ミケ猫の考えは全く分からん。
「お腹が空いたんだったら自分の分買えよ!」
「あははは、ごめんね」
口では謝りつつも、反省する様子もないミケ猫に俺はあきれたわけだ。
何しに来たんだよ。
そんな時にまさかの救世主が来た。
「……お邪魔します」
シルヴィアさんだった。
アノ時から初めて顔を合わせるもんだから俺はどうリアクション取っていいかわからない。
でもシルヴィアさん何か持ってる?
布に包んだ適度な大きさの包み。
俺はこれによく似た物を知っていた。
「……リュウさんに……差し入れを……」
少し頬を赤らめてシルヴィアさんがそれを差し出す。
俺も何だか照れながらそれを受け取ったわけだ。
視界の端でミケ猫がむっとしたような気もするがきっと気のせいというやつだ。
受け取った包みは俺の予想と同じ重みだった。
つまり、弁当だ。
食べかけのパンよりこっちの方が断然いい。
「シルヴィ、今度はリュウさんなんですか?」
ん?
オレリアさん、それはどういう意味?
シルヴィアさんは曖昧に笑って帰って行った。
何だったんだろう?
とりあえずは飯だ!
「まあ、いいですけど。私もお昼ご飯を食べに行くので二人でごゆっくり」
何だか意味ありげなことを言われて、ミケ猫と二人っきりにされた。
いや、ごゆっくりも何もミケ猫は帰るんじゃないのか?
俺は机の上の本を片付けて、包みを広げた。
ミケ猫はぶすっとした顔のまま、俺の正面に座る。
「お前、帰るんじゃなかったのか?」
「お腹が空いたの」
広げた包みの中身は箱に入ったサンドウィッチのようなものだった。
パンに具を挟んであるから、俺はそう判断したんだがこっちでの料理名は全く不明だ。
それにしてもこの箱、素材は何だろう。
プラスチックに似てるけど、そんな物がこの世界にあるか知らないし。
あったとしてもどうやって作るんだ。
ミケ猫は何か言いたそうにこっちを見ているが、何も言わずに大きく口を開けてかじりかけのパンを食おうとしてる。
「ミケ」
俺はあることに気付いて、ミケ猫に声を掛けた。
「何よ」
不機嫌そうな声に俺は本題を告げる。
「俺にはこれ、多すぎるから二人で分けよう」
シルヴィアさんは俺とオレリアさんの分で作ったつもりなのか。
このサンドウィッチ、俺一人で食べるには多すぎる。
「あんな女の作った物なんて食べないんだから」
いやいやいや、文句言ってる割にはサンドウィッチをしっかり見てる。
うーん。でも残すのはよくないよな。
どうしたもんか。
「じゃあ、交換だ。これの半分とお前の持ってるパンで」
まあ、かじりかけのパン一つぐらいなら半分食った後でも食べれるだろ。
「……もう、仕方ないね」
何故か急に態度を軟化させるミケ猫。
俺の対応の何が正解だったんだろう。
その辺が謎だ。
もしかして、俺が差し入れを受け取らなかったことで怒っていたのか?
そうだろうなぁ。
やっぱり食べかけのパンでも何も言わずにもらっておくべきだったかも。
俺にパンを渡して、嬉しそうにサンドウィッチに手を伸ばすミケ猫を見て俺はそんなことを考えた。




