クエスト:初めての遺跡調査1
俺たちが町に戻ると、ロレッタ姉さんがもう起きていて俺たちを探していたようだった。
「アンタたち。アタシのいない間にクエストとはいい度胸じゃないの?」
「昨日誰かさんの結果的に収支ゼロだったからてっとり早く稼いでおこうと思ったのよ」
合流したっていうのにさっそくロレッタ姉さんとミケ猫がにらみ合ってるぞ。
道端で喧嘩だけはやめてくれよ。
「おやおや、それだけの為にアタシのリュウを引っ張り出したってわけ?」
ロレッタ姉さん、その発言は冗談ですよね?
俺が勘違いするじゃないか。
「勝手に自分の宣言しないでよ!」
いや、ミケ猫。
それはお前も言ってたぞ。
と、俺が口を挟む余裕があるわけもなく、二人の言い争いは続いていた。
やることのなくなった俺は明日の予定について考える。
腕試しも終わったしロレッタ姉さんが戦うのメインのクエストかなぁ。
また姉さんが変身する事態にならないといいよな。
流石に狼女の姿にはインパクトあったからな。
いくらその後に姉さんの裸を拝めるとしても勘弁してくれ。
財布の心配もしないといけないし。
ほぼ現実逃避に近いことを考えていると、二人の言い争いは何とか終わったみたいだ。
ロレッタ姉さんが妙に機嫌がよくなってるけどどうしたんだ?
「子猫ちゃんから聞いたけど、冒険者として名を上げるんだって?」
「はあ……まあ……」
これ理由聞かれたら、俺はなんて答えたらいいんだ?
まさかさっさと世界を救って元の世界に戻りたいから、なんて言えないぞ。
「冒険者として名を上げるのはいいけど、どこまで上げるつもりなんだい?」
「指名受けれるようになるまで……が目標かな?」
これで笑われたりしたらどうする?
逆ギレなんてできるわけないし。
「よく言った!」
何故か俺の答えにロレッタ姉さんはにんまり笑った。
すごく嬉しそうだな。ミケ猫も隣でうんうん頷いてるけど一体何なんだ?
「ロレッタ姉さん?」
「将来有望だとは思ってたけど、そこまで野心があるなら突き進め」
ロレッタ姉さんが俺に近づいて、肩を叩いてくる。
ミケ猫は不満そうだけど何も文句は言ってこないな。
ロレッタ姉さんは突き進めって言うけど、どうしたらいいって言うんだろ。
「ロレッタ姉さん。名を上げるって言っても難しいんじゃないか?」
「子猫ちゃんもそんなことを言ってたねぇ。こんな時は遺跡調査や遺跡探索に限るんだけど」
「ミケもそんなこと言ってたな。貢献度が高いとかなんとか」
遺跡調査や遺跡探索ってやっぱり研究目的が多いのか?
そういうのに国が資金投入してたり?
この世界にあっちみたいな巨大企業とかはなさそうだし。
「古代文明の遺跡探索や調査は貢献度高いのさ。大体そんな研究者にはスポンサーが神殿や貴族だったりするのさ。コネを作る意味でも、簡単に名を上げる意味でもアタシはそっちをおススメするねぇ」
へぇ、やっぱ貴族や神殿が絡んでるのか。
上手く貴族とコネを作れば、指名される道も近いんだな。
とはいえ、ミケ猫は地味なクエストって言ってたけど、そこんとこどうなんだろう。
俺がそのことを質問すると、ロレッタ姉さんは頷いた。
「そりゃ地味さ。主役は同行する研究者だもの。アタシらが古代文字を読めるならともかく」
「ふぅん……そんなもんか。でもギルドには今んとこそんなクエスト出てなかったぞ」
「そういう場合は計画すら立ってないってことさ。募集出しても誰も冒険者が来なければ募集費払うだけ無駄になるからね。神殿の方に行けば、調査に行きたいけど護衛が集まるかわからない遺跡がきっとあるよ」
ロレッタ姉さんの言う事はもっともだ。
神殿か。そういえば至高神の神殿にはいつか行く予定だったな。
「それで、ロレッタ姉さん。行くならどの神殿なんだ?」
「智を求める女神の神殿さ。一回行ってみようか」
ロレッタ姉さんが楽しげに俺に聞いてくる。
俺には断る理由がない。
ジジイ以外はこの世界の神様は女神だし、行かない選択肢はない。
智を求める女神か。
ヘルプ画面で前に見たけど、確か絵姿はミステリアスって感じだった。
顔の上半分はフードで覆われてるんだよな。
「よし、行こう」
「子猫ちゃんはお留守番しててもいいんだよ」
「私も行くわよ!」
ミケ猫ならそう言うと思った。
と、いう事で俺たちは神殿に向かったわけだ。
正直、神殿って行くのは初めてだ。
元の世界でもせいぜい神社に行ったぐらいで、寺にも行ったことがない。
それで神殿にはちょっと興味があったんだけど、行ってみると驚くほど白い建物だった。
入り口は横幅も広く、高さも高い。
「へぇ……ここが神殿かぁ」
「冒険者か信心深い奴じゃなきゃ神殿には来ないからね。ミケ猫もリュウも来たことがないだろ?」
あ、神殿の事詳しく知らなくても普通なんだ。
俺はつい感心して言っちゃったわけだけど、不自然に思われなかったみたいでよかった。
入り口の脇には女神の彫像が向かい合うように立っている。
絵姿と同じ、フードで顔の上半分を覆って、分厚い本を抱える女神。
「ここが、智を求める女神の神殿。ありとあらゆる学者が信仰する女神の住まいってわけ」
「なるほど。学者に信仰されているなら、遺跡調査のスポンサーになったりもするわけか」
「そう。で、遺跡探索予定を聞かないといけないんだけど、担当者はどこかねぇ」
ロレッタ姉さんは先に進んでいく。
もしかして、ロレッタ姉さんには遺跡調査の経験があるのか?
まあ、姉さんも冒険者としては経験あるんだろうし、知り合いがここにいてもおかしくないか。
「あら、ロレッタさん? 珍しいですね。この神殿に来るなんて」
神殿の通路を進んでいると、お姉さんに声を掛けられた。
こげ茶色の髪を後ろでまとめて、眼鏡を掛けた人だった。
すごく賢そうっていうのが俺の初見での印象だ。
黒いケープの下からは白い服が見え隠れして、ちょっと気になる。
「ああ、オレリア。ちょうどいいところに。ちょっと遺跡探索や調査のクエストがないか探してるんだけど予定はないかい?」
神殿のお姉さんは目を丸くして、ロレッタ姉さんに聞いた。
「貴方が遺跡調査のクエストに興味持つなんて何かあったんですか?」
「昨日から一緒にパーティ組むようになったのが、そっちに興味あるんだとさ」
「そうですか」
お姉さんの視線が俺とミケ猫に向けられた。
ロレッタ姉さんがパーティ組むのがそんなに珍しいんだな。
何か俺の方を遠慮なく上から下まで見てないか?
「ロレッタさんが言うならそうでしょうけど、理由はもう一つあるんじゃないですか?」
「はははっ……お見通しか」
二人は一体何の話をしてるんだろうか。
俺の目的については話してないはず。
ミケ猫が『勇者サマ』のくだりを言っていたら話は別だ。
言わないと思うんだけどな。
「いいでしょう。今ちょうど一つ護衛が必要な遺跡探索があります。噂では盗賊の根城になってるところなので、護衛が必要でどうしようかと思っていました」
「よし、それで行こう。盗賊がいたら蹴散らすなりすればいいのかい?」
「ええ。ではギルドに募集を出しておきますので、お願いします」
何だかよくわからないけど、話としてはまとまったのかな?
「紹介するよ、リュウ。彼女はオレリア。ここの神官だ。オレリア、この子がマジシャンのリュウ。そっちの子猫ちゃんがシーフのミケイラ」
オレリアさんに俺たちを紹介するのに、ロレッタ姉さんは俺の肩を抱くようにしている。
これ絶対何か誤解されるんじゃないか?
オレリアさんが意味ありげに笑ってるし。からかうのはやめてくれ。
「リュウさんにミケイラさんですね。私は古代文明の英知を解き明かす事を目標とする神官です。どうか依頼するクエストではよろしくお願いしますね」
丁寧に頭を下げられては俺たちも頭を下げるしかない。
そうしてオレリアさんとの初対面の挨拶を終えた俺たちは、宿に一旦引き上げることにした。




