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「で、デケェ……これが神山市最高のマンション、Gマンションか……」
俺はバイクを止めてヘルメットを外し、マンション見上げる。
何階建てか、想像もつかないくらい高い。
このGマンションは、日本でもトップの財力を持つ神山財閥が経営している。
さらに、この神山財閥が物凄い。
俺達が住んでいるこの街、この市は全て神山財閥の領地である。
税金などはどうするのか?と聞かれれば、学校の授業を聞いている優等生なら勿論答えられるだろうが、生憎俺は授業はほとんど寝てた。
ただ、神山財閥はこの市に住むものなら誰でも知っている、それほどまでの権力を持つ、大財閥なのだ。
「住所はこの辺なんだけどな……」
俺は手紙を取り出して、住所を確かめる。
「おい」
「へ?」
俺は後ろから肩を叩かれる。
目に入ったのは紺色の髪。
「『銀狼』が『中心部』に何のようだ?」
紺色の髪を持つ少年は、敵対心剥き出しで俺のことを睨み付けてくる。
「……俺のことを知っているってことは、お前もこっち側の人間か。
『中心部』には一部を除き、不良はほとんどいない。
つまりお前が『幻影』か」
少年はニヤリと笑みを浮かべるとこう言った。
「呼び名など関係ない。
仕事だからな、遠慮なく排除させてもらう」
少年が俺の腕を掴むと思いっきり投げ飛ばす。
その衝撃で手紙を落としてしまった。
「くっ! やるじゃねえか、幻影。
噂通りの強さだ」
俺は何とか空中で体制を整え、着地する。
「一度手合わせしたいと思っていたところだ、遠慮なくいくぞ!」
俺は左拳で少年に殴りかかった。
ガッ!
「なっ!?」
俺の左拳が少年の手によって阻まれる。
「さすがだな『銀狼』、その左拳だけで南部を制しだけはある」
ドッ!
少年は涼しい顔をしながら俺の脇腹めがけ、鋭い蹴りを放つ。
俺は両腕でガードを試みるが、衝撃を受けきれず、壁目掛けて吹き飛ばされた。
「くっ!」
俺はなんとか空中で体制を整えると、壁を蹴って少年に反撃をする。
空中からの左拳だ、よけられねぇだろ!
フルパワーの左拳をうち下ろした。
ドゴォンッ!!!!!
──コンクリートの地面にクレーターができていた。
俺は振り下ろしていた手を引っ込め、少年の方を向く。
少年は5メートルほど前に立っていた。
コンクリートにクレーターができたことに驚きなど全く見せずに。
「なかなかやるな『銀狼』、『四天王』の中でも1、2を争うパワーだ。
さらにその戦闘センス。
久しぶりの強敵だ、少しばかり本気を出すぞ」
少年は首にかけていたネックレスを引きちぎると、リングを2つ指にはめた。
指輪の装着と同時に、少年の髪色が変化していく。
紺色から碧色へ、暗い色から鮮やかな色に、変色していった。
ゾワッ!
俺はその姿を見て戦慄を覚える。
この感覚は知っている。
恐怖だ。
少年の圧倒的な重圧が俺を襲う。
ある程度髪色が鮮やかになったところで、色の変化は止まった。
しかし、一目見ただけで分かる。
少年の強さは何倍にも膨れ上がったと。
「はっ! おもしろい!!
ここまでの強敵は初めてだ!
ここで引くわけにはいかねぇ!
いくぞ!」
俺は恐怖など投げ捨てて、少年に向かって走り出した。
「ふっ、この状態の俺相手に臆することせず、向かってくるか。
その勇気、気に入った!」
少年の拳が俺の腹にめり込む。
俺は何が起こったのか、理解ができない。
少年の動く姿が全く見えなかったからだ。
「……ま、まだだ!」
俺は腹の痛みを我慢し、攻撃を再開する。
ズズン!
「ガハァッ!」
衝撃がどうこうとか言う話じゃない。
痛みを感じるよりも早く、攻撃が二発、腹に入った。
──圧倒的な強さ。
「……ま、だ……だ」
「まだ倒れないか……
俺が戦ったことのある中でも、ここまで持ちこたえたヤツは初めてだ」
少年は拳を握りしめると俺にゆっくり近づく。
「これで……とどめっ……!?」
刹那、少年が頭を抑え呻いた。
「くっ……! 副作用か……!」
「……ガァァッ!」
俺は不意討ちになってしまうことを恥じたが、少年に左拳を打ち込んだ。
「ガハッ!!」
少年は腹に左拳を打ち込まれ、2、3歩退いた。
「……へへっ、……一発入れてやった……ぜ……」
バタン
俺は一発、拳を打ち込んだ後、うつ伏せに倒れた。
「……ゼェッゼェッ、はっ、さすが……神山最強と……言われてるだ……け…」
俺は倒れ込みながらも少年の方を向く。
少年は頭の痛みを振り払うように、頭を振り、俺に視点を合わせる。
「まだ喋れるとはなかなかタフなヤツだ。
……そうだな、お前たち、『四天王』が全員集まったら丁度くらいだな。
ま、指輪を2つ着けた俺に一発入れたことは誉めてやるかな……」
少年は俺の方へ疲れなど微塵も見せず歩いてくる。
「ん? この封筒……」
少年が封筒に手を伸ばす。
俺は朦朧とする意識の中、少年が言う言葉を聞いた。
「……お前は神山財閥の───」
そこまで聞いたところで俺の意識は途切れてしまった。