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ユサユサ
俺は肩を押されるのを感じて目をさます。
「お……歌音か……」
「おきなさい!」
な、何だかいつもの歌音と違うぞ?
「お、おう。
起こしてくれてありがとな」
俺は眠い目を擦りながら歌音に言う。
「べ、べつに、ご主人様のためじゃないんだからね!」
「……どこでそんなの覚えた?」
俺はメイド姿で指を向けてくる歌音に尋ねる。
「……この時計が、鳴ってたから……」
歌音が手に持っていたのは、陸特製ボイス時計。
「何で真似してんだよ」
「……銀の趣味かな、とおもって……」
「断じて違う!」
俺は歌音から時計を取ると、ベッドの際にある机に乗せる。
「ふぁーぁ、顔でも洗ってくる」
「……むぅ……銀のテンションが低い……」
朝からそんなに元気な方がおかしいって。
俺は洗面所に向かった。
「さーって、ちゃちゃっと終わらせますか」
昨日と同じように……少々ハプニングはあったが、朝食を済ませた俺は、Gマンションの21階に来ていた。
「今日の予定は午前は掃除、午後は外のパトロール兼掃除、夕方帰ってから昨日の荷物の整理……と、こんなもんかな」
俺は今日の予定を組み立てた。
「明日は日曜で早起きしなくていいらしいし、張り切っていこうかな」
俺は箒を手に取り、掃除を開始した。
──
……何だこれ。
俺は今、非常に理解に苦しむ状況に立っていた。
「ほっほっほっごくろうだのぉ」
「うんうん、若いのに感心感心」
「わしの……若い頃とそっくりじゃのぉ……」
「……フガフガ……フガ……」
現在地、30階。
夜風 銀はおじいさんとおばあさんの軍団に捕まっていた。
「ちょ、すいません、掃除中なんで……」
「えー? 何か言ったかのぉ?
わしらも歳なもんで、耳が遠いんじゃ、もうちょいと大きい声で言ってくだされ」
「……フガフガ」
「ほぉ、この髪色、あたしゃの好みぞぇ」
おじいさんやおばあさんの軍団は俺に近づいては髪をつついたり、服を触ったりしてくる。
「し、仕事中ですからそういうことは……!」
「何じゃてー?」
「フガフガ」
「あたしん家の旦那の若い頃にそっくりだぞぇ」
た、助けてくれぇーー!!
30階はお年寄りばかりが住む階になっていたのだった。