4
「ここが神山高校か……」
Gマンションは神山市の中心部の中心、まさに神山市の中心。
そこから東へ歩いていき、巨大な桜の木が有名な『神山公園』を抜けると、神山高校が見えてくる。
「やっぱ綺麗だな……」
正面の門から見えるのは、幻海学院にもある噴水。
ただ、幻海学院の噴水の周りは岩がゴロゴロ重なっているが、神山高校の噴水は違う。
周りはガーデニングされていて、それも全て綺麗に手入れされている。
校舎は白壁でできており、休み時間なのだろうか、生徒たちが徘徊している。
たまに俺の方を見てはすぐに目を逸らす生徒がいるが、それは俺がヤンキーにみえるからなのだろうか。
逆に女の子たちは銀髪がそんなに珍しいのだろうか? 窓に押しかけてみてくる。
茶髪の子も多いが、服装が乱れているものは少ない。
あきらかに俺に手を振っている子がいたので、俺がペコッと頭を下げると、
『きやぁぁっ!!』
何故か叫び声を上げて、さらに人数が増える。
「お、おぉ……」
こういうことに慣れていない俺は、恥ずかしくなったので、足早に神山高校を離れていった。
「……いやー、びっくりしたな……」
俺は神山公園の中を歩きながら溜め息を吐く。
今は公園の中を掃除中だ。
「いきなり写メを撮り初めたもんな……」
俺が神山高校を離れようとしたとき、誰かが写メを撮ったのを皮切りに、みんな……女子たちがケータイで撮影を始めた。
さすがにそれは嫌な俺は、走って公園まで逃げてきたのだ。
「お、あんなとこにジュースの缶が……」
ベンチの下にある缶を拾ってゴミ袋に入れる。
やっと袋が半分までゴミで埋まった。
「……それにしてもデカイ桜の木だな」
俺は一休みするためにベンチに座り、公園の中心にある木を見上げる。
神山公園自体もかなりの広さで、休日なら人が集まって、バーベキューをしたり、スポーツをしたりと楽しめる公園になっている。
設備も、公共の物とは思えないくらい整っていて、掃除も細かくされている。
「……! あそこにいる男は……!」
俺は公園の入り口を見つめる。
「ほら、次からは気を付けるんやでー」
「ありがとねぇ、荷物を運んでもらっちゃって……」
「ええねんええねん、情けは人のためならずやからな!」
あの『イヴィル・ボルケーノ』のエースの1人、空野 翼【ソラノ ツバサ】がお婆さんを助けていた。
「……あの金の亡者と言われる、通り名『風』【フォン】が人助けとは珍しいな」
俺は物陰から空野を眺める。
──空野 翼
神山市 西部を統一する暴走族集団『イヴィル・ボルケーノ』の総長、副総長に次ぐ実力の持ち主。
金で雇われれば無類の力を誇る、危険な男。
俺達『シルバー・ウルフ』が西部に攻めいったとき、コイツが指揮をとって俺達を退けた。
ヤツの服装はどこかの高校の制服で、不良には見えない。
まぁ、アイツは金で雇われて不良をやっているらしいからな。
何故中心部に?
と思ったが、中心部に入るには、不良っぽさがなければ可能だ。
さらに、喧嘩などすれば、『幻影』が制裁を下す。
俺も喧嘩をする気など微塵もないし、仕事中だし、面倒ごとを起こすのは良くない。
俺は空野と会わないように、公園から出ていった。
ただ、次に会ったときは手合わせしてみたいな。
「『イヴィル・ボルケーノ』か……」
俺は舗装された道を歩きながら呟く。
「……結局のところ、神山市の統一はできなかったな」
俺は落ちている缶をゴミ袋にいれる。
幻海学院に入った頃からの夢だ。
俺はこの神山市を統一して、神山市をバイクで一周する、というなんとも平凡な夢があった。
後ろに彼女でも乗せて走り回るのも最高だな。
生憎、北部、西部には入ることができない、というよりも入ると暴走族が追いかけてくるので、落ち着いて運転ができないので、神山市 統一の夢を掲げたのだ。
『イヴィル・ボルケーノ』『ホワイト・ローズ』を倒せば統一は叶ったのだ。
ま、今はただの執事になっちまった俺はどうすることもできねぇが。
「おっ、綺麗な夕焼けだ」
俺はGマンションから近い、神幻川【ジンゲンカワ】の橋から夕焼けを眺める。
「……てか、もう夕方かよ」
右手にはパンパンに膨らんだゴミ袋。
いつのまにかゴミ集めは終盤に差し掛かっていたらしい。
「帰ろうかな」
俺はゴミ袋を担ぎ上げ、Gマンションへと歩き出した。
ガチャッ
「ただいまー」
俺は玄関で靴を脱ぐ。
ゴミ袋はちゃんと1階の収集所に置いておいた。
パタパタ
「おかえりなさいご主人さま、夕飯ですか? お風呂ですか?それとも……」
プチプチ
「わ・た・し?」
「何となく予想してたけど、先に風呂だ!」
俺は歌音の頭を掴む。
「……ぁふん、銀……激しい……」
ダメだ、コイツは変態だった。
「はぁ、変態は扱いにこまるな……」
「……あ……」
俺が手を離すと歌音は名残惜しそうな声を出す。
「ったく、先に風呂入ってくる」
俺は風呂場に向かって歩く。
「……銀、一緒に……」
「入らない」
俺は風呂場のスライドドアに手をかける。
「……さっきは頭掴んで悪かったな」
俺は謝罪と風呂の準備をしてくれていたことに対する感謝の意を込め、歌音の頭を軽く撫でる。
「……ん……ぁ……」
歌音が赤くなって動きが止まったので、俺は風呂場に入った。
「……歌音、誰が覗いて良いって言った?」
「……ぽっ……」
「ぽっ……じゃねぇ!」
ピシャッ!
こうして俺の見習い執事としての初日が終了したのだった。