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──掃除を始めてから約5時間が経過していた。
俺はノンストップ、ハイスピードで掃除をした。
お陰でついに20階だ。
ここまで来るのに4、5人の有名な人と出会った。
政治家や芸能人、音楽家などすごい人が勢揃いだ。
大抵は頭を下げて、挨拶をする程度だったが、たまに綺麗に掃除されている、と誉めてくれる人がいたので、その度にやる気が出てきた。
キュキュキュー!
「これで……終わりっと!」
俺は最後の窓を拭き終わり、伸びをする。
「んんー! 疲れたぁー!」
さすがに5時間ぶっ通しでの掃除はキツイ。
いくら体力に自慢があるとはいえ、これが限界だ。
ピーン
エレベーターの音が鳴った。
平日の午前なのであまりマンションには人がいない。
こちらへ歩いてきたので俺は頭を下げ、挨拶をした。
「おはようございます」
カツカツカツ
「……」
スルーされた。
「ま、こんな人もいるよな」
俺はその人の後ろ姿を眺めてみた。
耳にはイヤホンがついており、音楽でも聴いていたのだろう。
「今度会ったらしっかり挨拶しようかな」
俺はもう一度後ろ姿に向かって頭を下げると、掃除道具を持ってエレベーターに乗り込んだ。
ガチャン
「ただいまーっと」
俺は歌音から預かっていた鍵で部屋に入る。
「……歌音は、まだ仕事か」
俺は執事服の上を脱ぎ、椅子にかけておく。
ネクタイを緩め、ボタンを上から2個目まで外す。
この執事服……ちょっと窮屈なんだよな……
ネクタイをきっちり締めるため、ボタンを全て閉めなければならない。
それに執事服も少しばかり動きにくい。
今度、陸に頼んで特製の執事服でも仕立ててもらおうかな。
アイツ、器用貧乏だし、大丈夫だろ。
俺は息をつくと、昼飯を作るためキッチンへ向かった。
「おぉ、さすがだな」
俺はキッチンへついて感嘆の声を上げる。
「ピッカピカだ」
キッチンは見事に手入れがされていて、汚れなど一切ない。
最新式のIHはキラキラと輝きを放ち、食器棚はちゃんと整理されている。
さらに、冷蔵庫を開けるとそこにはあらゆる食材が勢揃いしていた。
「これだけあれば、何でも作れるかな」
俺は昼飯をどんなのにするかを考えながら食材を取り出していった。
コトコト
迷いに迷った挙げ句、昼飯はパスタにすることにした。
パスタがけっこう余ってたみたいだし、豚の挽き肉やトマト、玉ねぎなど、ミートスパゲッティの材料がたまたま見つかったからだ。
すでにミートソースは作り終え、今はパスタを茹でているところだ。
それにしてもこのキッチン、すごく使いやすい。
火力の調整も楽だし、フライパンは簡単に火が通り、なおかつ焦げない。
鍋も有名なメーカーの圧力鍋で、現在は塩茹に使っている。
「よし、こんなもんかな」
俺は圧力鍋からザルにパスタを移し、軽く水切りをする。
そして歌音の趣味と思われる、薔薇の描かれたさらに盛り付け、ミートソースをかけた。
「……我ながらうまくできたぜ」
俺はスプーンとフォークを取りだし、テーブルの上に置いた。
スパゲッティは湯気をたてており、ミートソースの匂いが食欲をそそる。
「んじゃ、いただきまー『ピーンポーン』……誰だろ」
俺は食事を邪魔されたことに少し怒りを覚えたが、訪問者を待たせるわけにはいかないので、玄関に向かった。