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Valentia~Charla de las cuatro estaciones   作者: 藍原ソラ
Un capítulo de primavera(春の章)
4/30

第四話

「……あの、ウェルチ?」

 家の裏手から森の奥へと歩き出したウェルチの後ろにティオが続く。

「何でしょうか?」

「さっき、僕の気持ちの真剣さを試すって言ったよね? 森の奥に向かってるみたいだけど……僕は一体、何をすればいいの?」

 家では詳しい説明をしなかったし、それはもっともな疑問だろう。ウェルチは、雪が残る足元に注意をむけつつも、口を開く。

「薬草の採取を手伝ってください。ちょっと在庫が少ないので、量が必要なんです」

「……それはいいけど……。それと僕を試すことに何の繋がりが……」

 ウェルチの横に並んだティオは、よく分からないという表情をした。確かに今の説明では、どこが試すことになっているのか分からないだろう。単なるお手伝い、そんな印象を抱くのも当然だと思う。

「簡単なお手伝いだと、そう思いますか?」

 ティオを見上げると、ティオは黙ったまま小さく頷く。

「でも、実はそうでもないですよ」

 そんなウェルチの言葉は予想外だったらさいく、ティオは数度瞬く。

「そうでもない?」

「はい。冬でも狼とかが出ることもありますし。昨日まで暖かかったから、大蛇とかも出るかもしれません。それに、道があるわけではないので目印を見失ったら危険です。この時期は雪で目印が隠れている場合もありますし。……それに、毒草とか毒虫とかの危険もありますね」

 そう言うと、ティオが大きく目を見開いた。

「えっ? ウェルチっていつもそんな危険な思いをして、薬草を採取してるの?」

 何だかピントがずれている。今気にしてほしいところは、そこではないのだが。

 だが、ティオは本気でウェルチの心配をしているのだ。ウェルチを見つめる真剣な銅褐色の瞳がそう物語っている。

ティオの気持ちに何だか温かい気分になって、ウェルチは数度瞬くと、小さく微笑んだ。

「わたしはずっとここで生活をしているので、森には慣れていますから。だから、大丈夫です。……心配してくださってありがとうございます」

 そう言ってから、ウェルチは表情を真面目なものへと変えた。

「……けれど、ティオさんは森を知らないでしょう? 未知のものは怖いと、そう感じるはずです。森に慣れたわたしが一緒だって、恐怖をなくすことは難しいと思います。わたしも自分の身を守る程度のことしか出来ませんし。……それでも、簡単なお手伝いだと、そう思いますか?」

ウェルチの問いかけに、ティオは黙って顔を横に振った。

 それでもその恐怖を乗り越えられるなら、そうまでしても手に入れたいものがあるというのなら、相手を想う気持ちは本物なのだろう。

 ウェルチはそう思いつつ、前を見据えた。道なき道をどんどんと進んでいく。歩きながら木の幹に括り付けたリボンを確認するのを忘れない。

 このリボンはウェルチが小さい頃、万が一はぐれた時もちゃんと家に帰れるようにと祖母がつけたものだ。色褪せたこのリボンだけが、家へと戻る目印となる。

 ウェルチの視線を追ったティオが、リボンを発見したらしい。小さくあっと声を上げた。

「あれが目印です。……覚えておいてくださいね。万が一わたしとはぐれても、きちんと帰れるように」

「う、うん。分かった」

 妙に固い表情で頷き、ティオは周囲を見回す。その顔色がやや悪いように見える。少し脅しすぎただろうかと思ったが、ウェルチの言葉に嘘はない。

 それでも引き返す気配はまったくないのだから、ティオの気持ちは真剣なのだろう。この森を進んで行ける勇気があれば、プロポーズでもなんでも出来るだろうに。

 そんな風に思わなくもないが、未知への恐怖と戦う勇気と告白の勇気は種類が違うのかもしれない。

 両親が生きていた時は、ここからずっと遠くの町で暮らしていたが、祖母に引き取られてからはずっと森の奥で暮らしているウェルチは、人付き合いがあまり得意ではない。

 幼い頃から薬師の仕事をする祖母の後をついて歩き定期的に町に顔を出してはいたものの、生活の大半は森の家で祖母と二人きりということが多かったせいか、たくさんの人に囲まれると緊張してしまう。

 人との交流が嫌いなわけではない。けれど、いざ話すとなると何を話せばいいのか分からなくなってしまうのだ。初対面だったりすると、特に戸惑ってしまう。

 そんなウェルチに恋愛の経験があるはずもなく、恋情や愛情がどのような感情なのか、実のところよく分からない。

 ただ、ティオに愛される女性は幸せなのだろうとは思う。頼りないところはあるが、穏やかで優しく気遣いの出来るティオは、町の女性からの人気も高い。

 ティオの性格から考えても、己が選んだ女性を生涯大事にし続けるだろう。そんな姿があっさりと想像できた。

 そんな風に一途に愛される女性が羨ましい。そんな風に思い、そのあまりに自分らしくない思考に心の中で苦笑した。

 森でのひとりの生活を満喫しているつもりでいたし、実際今の生活に不満はない。けれど、心のどこかで一抹の寂しさを感じているのかもしれない。

「……ウェルチ? 何か考え込んでるみたいだけど、どうかした?」

 心配そうに問いかけるティオに、ウェルチは静かに首を横に振る。

 たとえ寂しさを感じているのだとしても、全部自分で選んだことだ。後悔はない。

「何でもないです。……もう少しで着きますからね」

 そう言って、ウェルチは微笑んだ。

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