赤ずきん03
さて、どうしたものか。
僕は森の中に入った白ずきんちゃんの後を、一定の距離を保ちながら追跡していた。
ちなみに未だ作戦は何一つ思い付いていない。
どうする。おばあさんから奪うか? 白ずきんちゃんがおばあさん宅に着き、帰宅した頃合いを見計らって突入するか……子供に心を傷を与えるのは断じて許される行為ではないが年寄りなら――いいやだめだ。それは祖母と孫の関係というこの世の宝を壊すことになりかねない。年寄りにトラウマを植え付けるならまだその体への損害は少ないかもしれないけれど、そのトラウマの内容をしっかり先読みしておく必要がある。例えば孫が来るときは狼も来る、なんておばあさんの体に刻み込んでもみろ。孫はおばあさんに会いたいのに、おばあさんはそのトラウマから孫と会うのを断るだろう。そしてそれは孫の心の傷へ……。
無しだ。
あってはならない。
ミッション追加だ。
白ずきんちゃんがおばあさんと顔をあわせるまえに肉を奪う。
くそっ。どうすれば。
――そんな時だった。
僕が頭を悩ましていた時。
白ずきんちゃんの目の前を――蝶が横切った。別になんてことはない、春に森を少し歩けば出会えそうなどこにでもいる蝶だ。
しかし、鼻唄まじりで道を歩いていた白ずきんちゃんは蝶に目をやると。
「ちょうちょさんだー、わーい」
そんなことを両手を広げとびっきりの笑顔でいったのだった。
……。
……。
……なん……てこった……。
僕の目の前に、天使が降臨したのである。
なんだあれ、超絶可愛い。あれがこの世のものであるはずがない――萌え! あんな可愛い生き物を僕は他に見たことがないよ! それこそ食べてしまいたいくらいに! 食べてしまいたいくらいと言ってもそっちの食べるではないよ! あの一見綺麗だけれどよく見るととてもグロテスクな顔をしている蝶をみてあれほどの笑顔を見せれるなんて! 可愛すぎ! 惚れてしまいそう! ……あれ? 惚れる? ってことは僕、ロリコンだったのか? ないない。ないね。っていうまず人種違うし。てか動物としてのカテゴリーが違うし。いやでも百歩譲って、百歩譲ってだよ? こうやって可愛い幼女の笑顔を見て幸せな気持ちになるのがロリコンと言うのなら、ロリコンと呼ばれることもやぶさかではないかな。むしろ声を大にして言おう。僕はロリコンであると。
未だキラキラとした瞳で蝶を見つめる白ずきんちゃん。
それを木の影から、よだれを垂らしながら見つめる僕。文章だけで見るとただの変態である。
この出来事は、まるで物語には全く関係ない出来事に思えるかもしれないが……その実。そうではない。
ここで僕が眠っていた自意識を呼び起こしたことこそが――この物語の行く末を大きく変えることになったのだから。