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一方通行のコミュニケーション

「ゆーきーとーーーー!!!!」


騒然としている広場の中ですら僕の鼓膜はその空気の振動を受け止めた。


というよりもこの広場にいる全ての人が耳にしたであろう。

早々に広場を離れて行ったこのゲームに乗り気なやつらぐらいしか聞こえていない人間はいないと思う。


その音はさきほど彼のスタートのコールがあった場所から発せられていた。


教会のような建物にみんなの目が集中する。

その視線の先には一番高いところのテラスにたつ天使がいる。


「誰だあいつ…」

そんな声が響き始める中、僕だけが気づいていた。


「あやか!」


僕は遠くにいる彼女に向けて届くように叫んでいた。


でも、彼女はきづいたそぶりを見せない。


「ゆきとー!トスカーレ西の湖で待ってるから!ちゃんと来なさいよ!」


そう言って一方的な会話は終わる。


トスカーレ西の湖はトスカーレからそう離れてはいない。

その上、どこに行っても似たような風景の待つトスカーレ内と違いトスカーレ周辺に唯一しかない湖だ。

そういう部分で人と待ち合わせするのに困らない条件を揃えている。

他にもβ版のストーリーのスタート地点としても有名になっている。

名前はニアデル湖。

っとmikiに書いてあった。



彼女はテラスから教会の中に引き上げる。



僕のいる場所は広場の西側。

教会は広場の北側。


上手くやれればモンスターの徘徊するエリアである街の外に出る必要もなく会うことができる。


「あれが探してる人?」

レヴィが話しかけてくる。


「そうだよ。」


「こんなに大勢にリアルネームバレした人はきっといないよ。」

倒れこみたくなる。


ネットゲームの常識としてリアルの情報は基本的に話さない。

よっぽど仲良くなっているか、または嘘情報かだと思う。


「とりあえず、教会の方に行こうか。」

さっきまで引っ張っていた左手に僕の右手が引かれる。


そして繋がっている腕はぴんっとまっすぐに延びきったあたりで張った。


「どうしたの?早く行くよ。」


「いや。ここで待つよ。来なかったら湖を目指す。」

いくつかある西への道。

その一つであるここに絞って。


僕には綾香の指示に従うほうが正解だと思った。


「そう…。」

レヴィは僕の隣でがっかりしたような声を出す。


ずきっと走る胸の痛みは単純にばれてしまったことへの苦痛。


それでも続く言葉は僕の慣れた冷たいものではなかった。

「仕方ない意気地なしね。」

それだけ言って壁側に僕を引っ張りながら連れて行く。


僕はただ黙ってついていく。


「ここで待とっか。」

立ち止まったレヴィは僕の右手をそっと暖め続けてくれた。


「5分くらい待てばいいのかな。」

「それ位で。」


それから少しだけ互いに言葉の出ない時間を過ごした。


「なんか大変なことになっちゃったね。」

レヴィがその沈黙を破った。


「うん。まだ混乱してて頭が理解できてない感じだけど。」

僕は僕が思っている以上に先の見えない状態にいる。


ただ、僕には一つの指針がある。

綾香がいる。

綾香に会えば後は綾香が決めてくれる。


綾香には指針があるのだろうか…。

強い人だからきっとそんなことには困らないだろう。


会えば僕にも道を示してくれるはずだ。

綾香ほどの行動力があればユグドラシル攻略に乗り出すというかもしれない。

そうなれば僕は置いてかれないように強くならなければならない。


そんな想像も今は無意味だと思う。


会うことが僕の最終目標でその後は流されるだけ。

僕が悩む必要はない。



「さて、そろそろ5分かな。」

レヴィが背にしていた壁を離れる。


「行くよ!準備はいいよね?」


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