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始まりのビフォアー

フリーズが終わり処理速度が平常運行になった僕は綾香の姿をみた。


キャラクターネーム:ラビリス

どんなゲームでも初期の装備の見た目は質素で色合いもくすんでいると思うけど

そんな装備ですら彼女の煌く黄金の髪と艶やかな白い肌は隠せなかった。


…僕の右手の中に二つある黄銅の輝きはその輝きを損なうだけだろう。

そっと鞄の中にしまい、永遠に物質化されずデータとしてしか存在しない運命になる。



「ツッコミはないの?」

「いつものことじゃない。」


綾香の声にいつもと変わらない返事をする。

そして綾香はいつもと変わらない嬉しそうな笑顔を見せてくれる。


「そうだよね。私のあまのじゃくは今にはじまったことじゃないよね。」


名前をとっさに変えようと思って、それから今の今まで悩み続けていたのだろう。

そんな悩んでる顔をしてたであろう綾香の顔はいつでも想像に難くない。


そして、予想通りに少し怒った顔に変わる。

「で、どういうつもり?」


と予測された質問が飛んでくる。


「どういうって?」

とりあえず一呼吸をいれるために質問の意図がわからないふりをする。

それは僕の処世術というか、この彼女との付き合い方の答えだとも言える。


「なんで戦えるクラスじゃないの!一緒に冒険するんでしょ!」

よし、ちゃんと予想通りの返事だ。


幼稚園の頃からずっと一緒だった綾香。

今では綾香の考えてることがなんとなくわかるようになっている

綾香式の思考回路を理解するのは大学生になるまで一緒にいてやっとできたこと。

高校までは振り回されては怒られつづける関係だった。


「一緒に戦うだけが支えるじゃないよ。綾香の装備は全部僕が付加能力をつけるんだよ。」

険しくなっていた彼女の顔が少しだけ緩むのがわかる。

でも、これだけで満足ないのも知っている。


ただ、選びたくない。

そう、選んで欲しい。

僕のやるべきことを。


「気持ちはわかったけど、戦う武器買いにいくよ!」

僕の左手を彼女の右手が掴む。

掴み方が鷲掴みで色気もないけどこれが二人の手の繋ぎ方。



ーーー。


そして着いたのはダイバーズショップエリア。

別に何かお店があるわけではない石畳の路地だ。

なのにダイバーの販売員がたくさんいるのにはちゃんと理由がある。


関税がかからない。


この路地以外での販売では販売時に販売側の値段に5%の上乗せをつけて買うことになる。

その5%が関税と呼ばれるものになる。

関税は設定的にその買ったエリアである町の運営に使われているということになるらしい。


その回避策としてトレード販売、通称トレハンというものがある。

簡単に言えばオートで購買可能のバザー販売ではなく、トレードという手動の方法を使い販売するわけだ。

そうすることで関税がかかる部分を無くすわけだ。


しかし、両者の合意も必要だし、なんと言ってもめんどくさい。

結果、ダイバーズショップエリアに販売員は自然と集まるのだ。


「あれなんかどう?」

綾香の指差す先のお店には包丁やらお玉やら調理道具がたくさん並んでいる。


「戦うコック!素敵だと思うんだけど?」

「じゃあそれで。」

っと手を伸ばすとその手を叩かれた。


「冗談にきまってるでしょ!」

のったら怒られる…。



ーーー。


なかなか決まらないらしい。


「ちょっとそこらへんうろちょろしててよ。買ってくるから。」

と言われたので僕は近くの販売員の並べるものをみてまわることにした。


丁度、貴金属を扱っている店が目の前にあった。

「黄銅ってありますか?」

「4つぐらいならね。」

「いくらです?」

「んー…200でどう?」

「ありがとうございます。」


そんな単調なやり取りで彫金の素材を手に入れる。

これを一度溶かし黄銅としての純度を上げていくことでブラス素材になる。

それは少しだけ魔力をもち装備の装飾に使える素材になる。


綾香の装備は軽装の革装備。

ちょっとした刺繡をつけるのが限界だけどやってみたい。


鞄の中から携帯炉を取り出す。

初期装備なだけに熱は安定しないらしい。


投げ込んだ黄銅がとけるまで少し時間がかかった。

赤くなった黄銅も安定せず黒くなったり赤くなったりと忙しい。

その赤くなったタイミングにあわせてハンマーを打ち込む。

そうやって不純物を弾き出していく。


そうして出来たのかほんの小さなブラス素材。

御猪口に一杯程度の量だけど…。

初日でこれだけの量を確保することは非常にレアなケースらしい。


少しだけ誇らしい気持ちになった。

いつかはゴミのようなアイテムになるだろうブラスも今は超レア素材。

それをたったこれだけの量だけどこの世界で一番持ってるのは僕かもしれない。


きっとそんなことはないだろうけど…。

ニヤニヤしてしまう気持ちはとまらない。


「ばーーん!!」

そんなにやけた顔を吹き飛ばすように後ろから叩かれた。


「はい!ゆきと!」

さっきまでハンマーを握っていた手にはちょっと大きめの銃が渡されていた。

安土桃山時代風の火縄銃だ。


「ちょーカッコイイでしょ?」

「足軽気分が味わえる。」


「でしょでしょ!とりあえずクラス変えてみて!」


言われるままに火縄銃をメイン武器として装備に変える。


システムメッセージが流れた。


ークラス「雑賀衆」に変更しますか?-


目の前に浮かぶウィンドウの「はい。」と書かれた部分を叩く。


アビリティー狙撃を習得した!


「うん。渋いね。かっこいいね。」



そんなことをしているうちに僕らは許される時間を消費してしまっていた…。

死ぬことを許されていた時間を。

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