仮想世界のガイドライン
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来ない!
綾香が来ない!
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僕は始まりの街トスカーレに降り立った。
トスカーレは雄大な牧草地に石畳の北欧的な建物がならぶ歴史を感じさせる街だった。
簡単に言えば過去のフランスにタイムスリップしたような気持ちにしてくれる。
そんなお手軽旅行気分を味わえるこのゲームの中には見たこともないような未来の都市や、透明という言葉通りの水が溢れる街があると言う。
それを綾香と二人でみて回れるのだからちょっとした新婚旅行みたいな気分になってくる。
「まだ来ないか…。」
溜め息ひとつ。
きっと種族とか選ぶのに悩んでるんだろうな…。
いつも一緒に買い物にいくと何時間もかけて綾香は買い物を楽しむ。
それは、一緒に選べるから楽しいけど、今の僕は一緒に選ぶことはできない。
ただ待つだけ。
「仕方ない。早速彫金師を試してみるか。」
腰に取り付けてある鞄の口をがばっと開いてみた。
確かクラフトワーク系とか戦闘系以外のクラスは少し鞄のサイズが大きく設定されてあるらしい。
mikiにそう書いてあった。
鞄の中には黄銅の光が少しだけ詰まっていた。
分類は貴金属。
彫金師のクラスである僕がみると少しばかり説明文がでる。
黄銅の塊:貴金属:鉱石の中ではやわらかく加工が簡単。
魔力をもたない金属でもろく装飾としての効果は薄い。
要するに、彫金師の初心者が使うにはうってつけの素材ということらしい。
さて…。
黄銅の塊を二つ鞄から取り出し目の前に並べた。
それから…。
僕は鞄の横にぶら下がっているハンマーとノミをそれぞれ右手と左手につかむ。
迷うことなく…。
ノミを塊にあて、ハンマーで叩く。
悩むことなんてない。
最初から作ろうと思ってたもの。
二つの指輪。
初級も初級の装備。
リング。
指輪、ダイヤモンドもルビーもついてない黄銅でできた無骨な指輪。
同じ装備のはずなのに形だってまったく違ってしまった二つの指輪。
「はぁ…。こんなものか。」
どうやら彫金師としてのレベルが少しあがったみたいだけど綾香が喜ぶような指輪が作れるのはまだまだ先のことだろうな。
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来ない!
綾香が来ない!
と思ったところで目の前に金の光が集まってきた。
そして、集まった光がが拡散するとそこには天使がいた。
「遅くなっちゃった。」
金に煌く彼女は現実と同じぐらいかがやいてて、しっとりとした雰囲気のある石畳の世界に落ち着いた雰囲気を許さなかった。
周りのダイバーたちの目もその光に引き寄せられている。
「雪斗?待ちすぎて記憶をなくしたの?」
僕は思った。
この見たこともない世界で輝く彼女をみてまわりたいって。