名前にホープ
僕らの冒険は意外とすぐに始まった。
綾香がゲームを始める前にやりたいことがあると言ってそれに付き合ってる間に
LLOサービス開始の日になっていたのだ。
「いよいよ今日だね。」
「そうだよ!」
綾香はひとつの箱を抱えて僕の家に乗り込んできた。
そして、僕の手元にも同じ箱。
LastLifeOnline。
綺麗な装飾文字で書かれたその文字は不思議な銀色で魔法の力を感じさせるような雰囲気があった。
今や科学の進歩はフルダイブ式のゲームを完全に安全に成功させるという。
それに反するような魔法のきらめきを科学の力で再現する。
「ほら!またなんか難しいこと考えたでしょ!」
綾香の強気な瞳が近づき、僕の思考を制止させる。
「早く始めるよ!」
いつもの期待に溢れた顔が僕の気持ちまで焦らせる。
けど
「まって。」
「なんでよ!」
頬を膨らますしぐさが可愛い。
「クラスとか名前とかもう決めたの?」
「もちろん!」
迷いの無さが伝わってくる。
僕はと言うとまだ決められずにいるというのが本当のところだ。
「どうするの?」
「綾香!クラスはお姫様!」
「ストレート!」
ツッコミを入れてしまう。
「綾香。ネットゲームで実名を出すのはダメってmikiに書いてあったよ。」
「そうなの?じゃあ…アリス…かな。クラスはライダー希望しちゃう。」
ライダー
乗る人。
モンスターや機械系の乗り物に乗ることで戦うクラスだ。
使用武器は遠隔武器や槍。
短剣クラスから発生する。
っとmikiには書いてあった。
そして…。
単独で敵の包囲を抜けることができる単独型のクラスとも書いてあった…。
まるで僕を置いていくようなクラスだ。
「雪斗は決めてるの?」
「ん…まあ…。とりあえずダイブインしてからのお楽しみで。」
そうして僕らは二人で同じベッドの上でダイブインした。
いつもの二人だけの領域から見たこともない世界へ。
ゲーム機から有線で繋がってるヘッドギアをかぶる。
mikiによるとこのヘッドギアは人の脳へと5感全てをデータとして送り込む。
そして、脳から送られる電気信号をインターセプトし読み取り、身体につたわらないようにするらしい。
だから、身体は寝たまま脳だけがある意味、夢の世界で活動している状況と言える。
さらにmikiによるとこのゲーム、第六感までを送ることが可能という噂があるらしい。
つまるところ…第六感は脳ではなく他の部位から感じるものであるということだ…
とかなんとか考えはじめたところで僕の現実での意識は消失した。
ーーー。
暗転した真っ暗な世界からキャラクターメイキング画面が目の前に広がる。
自分の前に自分と瓜二つのキャラクターが表示される。
種族はヒューマ。
クラスは綾香を支えるために生産系クラス。彫金師。
金属の模様で魔力効果を追加したりするクラス。
そして、名前はシュラウド。
綾香のために何もできない僕だけど。
せめて風除けぐらいにはなりたいから。