いつも通りのデイアフターデイ
月曜日の昼下がり。
まどろみの中でゆったりと過ごす。
こんな時間にこんな贅沢に時間を浪費できる僕と綾香は大学4年生。
大学院行きも決定している僕らには何の焦りもない。
「ゲームしよ!雪斗。」
「ん…んぅ…いいんじゃないかなぁ。」
そんな話の内容をまったくきいてないような返事をしてしまったことを僕は後悔した。
「おらおらおらおらおらおら!!!!」
目の前に広がるグーパンチ。
一気に覚醒する意識。
すん止めの要領で拳が鼻先1㎜で止まる。
「あぶなっ!」
「ちゃんと聞きなさい!」
相変わらず暴力的。
僕の前に突き出された拳は、そっと開いて僕の頭を鷲摑みにした。
「痛い痛い痛い!首はそっちに曲がるようにはできてない!」
そんな喚きも聞き入れられず、必死で身体を首が折れないように曲げられる首の方向と反対に動かす。
そして、その苦行に耐えた着地地点は綾香の膝の上。
生足の上だ。
…柔らかくてすべすべだ。
「起きた?」
「すごく起きた。」
「ゲームする?」
「ゲーム?今回は珍しくインドア的だね。」
もともと綾香が不思議な提案をしてくることはまったくもって珍しいことではない。
日常茶飯事というのが事実だ。
「そう。でもね!すっごいゲームなんだって!」
「ゲームか。あんまりやったことないから綾香に付き合えるかな。」
綾香と恋人になってから色んな初体験があった。
そして、綾香はどんな初体験もすぐに上手になっていく。
そして、置いて行かれる僕。
そして、それがいつもどおりだったりする。
だから、僕はいつも悔しい思いになる。
だから、僕はいつか綾香に置いて行かれて一人になってしまうんじゃないかって怖くなる。
だから、僕は自信がない。
「一緒にやろうよ!私がついてるじゃない。」
そう、綾香についていけば失敗しない…。
「わかった。なんていうゲーム?」
「LastWifeOnline!!」
非常にネイティブな発音。
日本人の発音とは思えない非常事態だ。
「最後の妻がオンライン?」
「雪斗の妻は最初も最後も同じ人です!」
がっと頭を摑まれ情熱的なキスを浴びる。
勢い重視な生き方の人。
「それでゲームって?」
顔をぺちゃぺちゃと舐められながら話をそらすように話を戻す。
「LastLifeOnline。井形って言ったら雪斗も知ってるでしょ?」
…知っている。
天才の名を欲しいままにする男。
確か命に関わる今の科学じゃ治せない病気になったと聞いた。
天才薄命。
綾香もいつか消えるのだろうか。
僕の元から。
「現実みたいな現実以上の世界が待ってるんだって!行ってみたいでしょ!?」
「そうだね。綾香はこの世界のみたいもの大概見てしまっただろうからね。」
世界遺産やら山やら谷やら、アマゾンやらタイガやら。
そういうものはもう見てしまった。
綾香に手をひっぱられてるうちに、僕はこの世のあらゆるものを経験してしまった。
というのは言い過ぎだけど、普通の人よりは色々見てきた。
マッハ近くで走るバイクから転げ落ちる時の走馬灯とか…。
「じゃあ決定!予約とっておくね!」
そんな軽々しい返事を聞いた時の僕は、そのゲームを二人分手に入れることがどれだけ奇跡なのか知らなかった。