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承のフェーズ

「っとに……意味深な言葉残しちゃってさ!」


そう言いながら綾香は茶ずきんちゃんの営む店の椅子を蹴りあげた。


「神々の黄昏って……ラグナロクだっけ?」

レヴィは壁にもたれかかりつつ記憶を探るように宙を見つめながらそう言った。


神々の黄昏(ラグナロク)……。

ゲームやファンタジーものの小説を読んだことがある人なら一度は聞いたことがある言葉だろう。

オーディンや戦乙女(ヴァルキリー)とかそこらへんの有名な神々がでてくる最後の神様同士の戦いだったと思う。

僕がそこらへんを深く知っているわけではないけど、人並みには知識がある。


このゲーム……LastLifeOnlineでもどうやらキーワードになっているらしい。

けど、僕らはこの先のストーリーのことを知らない。


β版では竜からの逃亡まででクエストは終了できないようになっていたからだ。

当然、それ以上のネタバレ的な内容は攻略サイトのどこを探しても予測または嘘が記載されているだけだった。


「意外と安易だね。誰だっけ?このゲーム作った人。」

「井形ね、綾香。」

「そうそいつ!天才だったらもっと趣向のこったストーリーにして欲しいものね。」


「ったく。これだから牛乳(ウシチチ)はやだよな。乳でもそこの女に搾ってもらってろ!」

レヴィの言葉に店のカウンターの向こうで小さくなっている茶ずきんちゃんがびくっと震えた。


「言葉だけで安易とか決めつけるような幼稚園生もびっくりの小さい脳じゃこの先やってけないよ。」

「あっらぁ~。幼稚園生もびっくりのまな板男女が言うじゃない?」

互いに武器を構え出す二人。


もう正直付き合いきれないので僕は無視することに決めた。

というよりもストーリーが気になって仕方なくなっていた。


バトル開始しようとする二人に小屋の外を戦場にオススメする。

そうしてやっと静かになった店の中で茶ずきんちゃんは恐る恐るカウンターから顔を出し周囲を確認する。

右へ90度。

左へ90度。


そして、そっと僕の目を見た。

「もう大丈夫?」

「大丈夫だよ。二人共、夜になるまで帰ってこないから。」


そこまでやってやっと安心したのか茶ずきんちゃんは僕の手を握った。

「なんて感謝の言葉を言ったらいいのか……。」

涙ぐみながらそう言うこの子は本当に人間のような感情を表出してみせる。


今やこの世界の同じ住人である僕とこの子達は大差がない。


「うん。良かったよ。」

そういう言葉が自然にでてくる。


「レナード!ちゃんとお礼を言いなさい!」

姉さんの足にしがみつく弟、レナード君は僕の瞳を見上げて大きな言葉で感謝を伝えた。

「ありがとう、お兄ちゃん。」

そして、満面の笑顔で僕に満足感を与えた。


「ところで、レナード。つかまってる間に何かされなかったの?」

そんな茶ずきんちゃんの言葉に僕はストーリーのはじまりを感じた。


「えっとね。毎日襲われたよ。竜に。死にたくなければ剣を持て。この剣で未来を勝ち取って見せろって……。」

そう言いながらレナードは背中に背負っていた筒状の鞄から剣を取り出した。


それは突剣(レイピア)に分類される剣だと思う。

思うというのは確かに針のような剣ではあるのだがよく見ると両刃の剣になっていて突くだけでなく払うことも可能になっているからだ。


その両刃は錆びているが強固な素材でできているのか刃こぼれの様子はない。

紫のような濃い青を放つ宝石が柄には輝いている。


アイテムとしての説明書きには


青氷剣ーブルースフィア。

世界創生の時から存在したと言われるレジェンダリーウェポン。

その刃は敵の肉体を切り裂き、絶対零度の力をもって再生不能なほどに凍らせる。

だが、今はその見る影もなく忘れ去られた武器となっている。


とのことだ。


「毎日。この剣で竜の尻尾と戦ってたの!」

どういうことなのかなっと思う。

こんな子供の腕で耐えられるような攻撃が竜の本気とは思えない。

娯楽のつもりだったのか……意図があってのことなのか。

ただ、それがストーリー進行に必要な要素であることはなんとなく感じていた。


「僕が持ってても仕方ないからお兄さんにあげるね!」

レナードが両手でもつ剣を僕におしつける。


剣は僕の本分ではないし、ボス戦で何もできなかった僕が受け取って良いのか諮詢してしまう。

でも、精一杯に伸ばすレナードの腕を見て僕は受け取らざるおえなかった。


僕が右手で剣の柄を握る。

それからレナードはそっと離した。


軽い。

羽のように。

剣だけではない。

身体も軽くなったような体験。

この武器には隠しスキルが存在するようだ。


「大事に使ってね。」

少年の言葉に僕はうなずく。


それを見てレナードは嬉しそうにしていた。

それから少し辛い顔をした。


「どうしたの?」

茶ずきんちゃんが心配そうな瞳でレナードの顔を覗き込む。


「あと3人いるって竜が言ってたの……。」


「3人って?」


「竜のさらった子供達。エルディラ・カルム・ミーミルから一人ずつって……。」

これでストーリーの続き方を理解した。

トスカーレを含む主要四国を回り子供達を助ければいいらしい。


「お兄さん……。助けてあげて……。」

そう言う少年の瞳には希望があった。

こんな僕が希望になっていた。

今までの形なき期待ではなく希望。


叶えたいと思った。

そして、その返事を代わりにしてくれる人はぼろぼろの身体で戻って来ていた。

綾香は僕の顔を一瞥すると


「やってやるわよ!いっぱい感謝しなさい!」


「仕方ないから私も付き合ってあげる。乗り合わせちゃった運命共同体だからね。」

レヴィも迷い無くそう言ってくれる。

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