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3人のデュオ

「なんでこんな崖みたいなとこ登らないといけないのだ!この私が!」


「あら。下に残ってればよかったのに。」


ーーー。


僕らはナビーディア山脈を登っている。

ここは、温暖なトスカーレ地方にありながらまったくもって植物の無い山だった。

なぜなら、この山脈はトスカーレ北の境界。

年中方向の変わらない北からの風が作る気候は山脈にありえないような状態を生んだ。

圧倒的な寒さを誇る雪の降り積もる北側と乾燥し植物すら生えようとしない南側。

そして、年中風にさらされた山は断崖絶壁、落ちれば死。


そんな危険な山をバカみたいに登っているのには理由がある。

茶ずきんちゃんに依頼された弟救出のためだ。

この山の山頂にある竜の巣からこっそりと弟を持って帰ることがクリア条件になる。


ーーー。


絶壁を登る綾香はいつもどおりするすると登っていく。

僕らにはわからないような岩肌のくぼみを掴み器用に自分の身体を頂上へとあげていく。

そしてある程度登るとナイフをつきたて僕らのつけてる命綱を固定する。


このクエストが崖を登ることを強要するものではないことは知っていて欲しい。

ちゃんと崖に平行するように歩ける道がちゃんとある。

ただし、その工程は直線距離でいく今のコースの5倍は時間がかかる。

それに、敵が大量にでるのだ。

このコースも出るには出るが……。


「しゅら!右からカラス来たよ!」

その声にあわせて僕は背中の火縄銃を握り飛んでくる鳥系の敵に照準を定める。

2発目を撃つまで大きなラグが発生するこの武器は必中を求められる。

命綱にしっかりと体重をかけ身体の揺れを抑える。


バーーンっと響かせた弾は鳥の羽にあたり重心を崩したカラスは岩肌に直撃、死を迎えた。


こんなことの繰り返しで僕の負担はちょっと大きいけれど飛行する敵以外がいないここは普通に登るよりリスクが少ない。

もちろん、落下して死ぬリスクを除外してだけど……。


そんなこんなで2/3ぐらいを登りきったところでしっかりと休憩する広さがある段を見つけ一息いれることになった。

よく登ってみてみると段ではなく正規ルートのようだ。延々と蛇行して一番したからここまで繋がっている。


「こんなとこでまさかこんな目にあうなんてねぇ……。」

レヴィは溜め息をもらす。


「あら?この程度でねをあげるの?意外とだらしないのね。」

綾香は嬉しそうに挑発する。


しかし、ここで殴りあわれても体力の無駄遣いにしかならない。

「でも、レヴィってはじめてとは思えないスピードだったと思うけど?」


綾香がムっとした顔をみせ、レヴィがにやっとする。

それでここでの戦いは先延ばしにできるのだからいい。


「でもこのコースでよかったね。ここまでダメージ無しにこれたのは後々大きいよ。」

「そうね。最悪、翼竜の攻撃から逃げながら降りないといけないかもしれないし。」

考えただけでもぞっとする未来。


「っていうか。なんでこんなことしないといけないのよ。誰かが困ってるわけでもないでしょ。」


綾香の言うことはその通りだ。

命の無いNDCのために僕らの最後の唯一の命をかける戦いをするなんて馬鹿げてる。

でもそれでもやってるのは……。

小屋で待つ姉が本当に生きてるようにしかみえなかったから。

この世界の命になった僕らももとからここにしか命がなかった彼女達も今は同じ存在だと思うから。


こんなことを言ったらきっと二人には笑われてしまうのだろう。


「でもさ。私ら街でじっとしてるタイプでもないでしょ?」

僕が黙っている代わりにレヴィが話す。

私らに僕は入っているのだろうか……。


「助けを待つってタイプでもないしこの世界を背負ってクリアを目指すタイプでもない。そうじゃない?」

「まぁ……。そうね。」

綾香も珍しく賛同するあたり、私らとは綾香とレヴィのことだったのだろう。


「それならこうしてどうでもいい強敵と戦ってるくらいが達成感もあっていいじゃない。」

そう言いながらレヴィが立ち上がる。


「そうね。仕方ないから付き合ってあげる。」

綾香も立ち上がる。

そして、短剣を抜く。


「ほら!しゅらも立って!」

気づけば狼のような敵に囲まれていた。


そして、その囲いの向こうに明らかにこの集団のボスの他より二まわり巨体な狼がいる。


「ちゃっちゃとあのボス狼ぼこぼこにするよ!」


レヴィと綾香が同じタイミングでボスの方に向けて突撃する。

その隙を待ってたように背を向けた側の狼が飛び掛ってきた。

豚の集団と違って統率がとれている。


僕はバックステップで二人を追いかけながら突撃してくる3匹の狼に対して一匹目を撃ち倒す。

それでひるむ様子はまったくない。


次の弾を装点できない銃は銃ではない。

棍棒だ。


銃身を握りしめ突撃してくる狼の脳点めがけて垂直に叩き落とす。

ギャンと叫び声をあげてくれるもその声が3匹目を止める抑止力にはならない。


慌てて振り落とした銃を上に跳ねさせる。

だがさっきの振り落としと違って勢いはない。

見て取れる軌道にあわせて狼は銃に噛みつく。


そこからは惨めな武器の引っ張り合いになった。

「離せって!」

噛みついて離さない狼に向けて蹴りを叩きこむ。

でも、僕のような素人の蹴りなんて野生の動物に聞くわけも無く引っ張り合いは続く。


その間の前の二人はといえば前進しか考えていない。

ボスを守ろうと飛び掛ってくる狼の集団を蹴散らす。


突撃をいなした後に確実に急所に短剣を突き刺していく綾香。

突撃してくる鼻面に正拳を叩きこみ、次の狼には腹に蹴りを叩きこむレヴィ。


華麗と苛烈な二人に対して僕のやってることは地味だ。


だが、僕は時間稼ぎでいい。

二人がボスを倒せばこの集団は逃走を開始するから。


離さない狼を盾に使いつつ集まってくる狼を止める。

僕の前には7匹の狼がいる。

二人の背中を守っているのが僕だなんて少し信じられない。


「よし、ボス目の前!」

レヴィの声がする。


正面突破は上手くいっている。


走って加速をつけたレヴィがとび蹴りをしかける。

だが、ボスは身体が大きいだけの存在じゃなかった。

他の狼よりも圧倒的早さでとび蹴りをかわす。

そして、着地したレヴィに向かって牙をむく。


威力の高い攻撃だけに硬直でレヴィの回避は間に合わない。

「危ない!」

僕の慌てる顔に対して、レヴィの顔に恐怖はない。


それは知っていたのだろう。

綾香がレヴィと狼の間に入ってくることを。

疾風のごとくレヴィの背中に現れた綾香は切り上げる。

それをボスは後ろにバク宙の要領で回避。


それは昔見た演舞に似ていると思った。

示し合わせたような綺麗な演舞に。


でも、僕はそんなに見ている余裕もない。

ひたすら長銃なのを活かし、7匹の狼の突撃を距離をとってけん制する。

噛みつかれたままだから攻撃には使えないが止めるぐらいならできる。


二人の方は再び距離が離れ数秒の間をおく。

だが、前進以外ない二人の選択はまた同じタイミングではじまった。


綾香の刺突とレヴィの拳が弾幕を張る。

ボスも攻めあぐねている。

だからと言って二人が有利なわけではない。

確実なカウンターが入る。

綾香の刺突を小さなブレで回避しそのまま綾香にむけて突撃する。

だが、その距離が埋まるまでに間にレヴィの拳が入る。

結果、ボスは攻撃を一旦中断しバックステップする。

それを逃がすわけなく再び綾香の刺突が入るが身体を捻り避ける。


一度も互いに攻撃があたらない。


「あぁもうじれったい!」

こういう時、大振りになっていくのがレヴィのくせなのはもうわかっていた。


レヴィが回避を捨てたストレートを放つ。

そのストレートは風を巻き込み暴風ような一撃だった。


だが、あたらなければ意味が無い。

ボスは瞬発力を活かし横っ飛びの回避を見せた。

それだけでは終わらない。

横の壁を蹴りそのまま反撃に転換する。

レヴィは体重をかけた一撃を放ったままで回避をできない。

綾香の罵声が聞こえる。

「なんでそっちに回避させるようにしたのよ!」

綾香とボスの間にはレヴィがいてカバーができない状態のことを言っているのだろう。

つまり、さっきまで回避させる方向まで操る攻防をしてたわけだ。


牙をむきだしにして突撃をかけるボス。

「甘い!」

人間の言葉がわかるわけではないと思う。

ただ危険を直感したボスは勢いを殺そうとするがもう遅い。

レヴィは放った右手をそのまま横に振り回し、ボスの前足に引っ掛けた。

そしてからみつかせた腕ごとくるっと横に回転し壁にボスをうちつける。


ぎゃふっとボスの肺から空気が抜ける音がする。

しかし、それで死んだわけではない。

追撃を食らわないように叩きつけられた壁を蹴り大きく跳躍する。


「空中じゃ回避できないのよ!」

綾香がくるっと横に一回転。

それを追うようにスカートが花の様に開く。

それで綾香の隠していた武器があらわになる。

太腿にまきつけてあるナイフを掴むと次々に空中のボスにむけて投げる。


ドスッという音ではなくドドドドドと連続で刺さる音。

それを腹に受けたボスは力無く落下する。


「はーい。待ってましたぁ~!」

落下地点にはレヴィ。

前宙をしながら踵をボスの後頭部に当てる。

そして、地面にボスの頭部を踵落としで埋めた。


断末魔すらなくボスは消滅する。


それにあわせて僕を囲みつつある狼の集団も逃げ出した。

最後までへっぴり腰でひたすら時間を稼いだ僕もやっと一息つく。


「二人のコンビネーションは凄いね。」

僕は賞賛を純粋な気持ちで送る。


「「ちっ。」」

それに怪訝そうな顔で二人が答える。


この二人とならクエストもなんとかなりそうだ。

僕は戦力外だけど。


3人なのに2人のデュオ。

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