2人のファーストコンタクト
「その女誰?」
怒りを押し殺した低い声は言葉の内容以上に流暢に綾香の怒りを伝えてくる。
なんで僕はこんな展開を予測できなかったのだろうか……。
ーーー。
「豚もなんだかんだでいっぱい倒したね。」
湖に行く途中で見かけた豚を倒すうちに、そのドロップアイテムである豚っぽい肉が鞄に大量に入っていた。
「そうだね。少し銃の使い方も慣れた気がする。」
本当にそんなに遠くない目的地だったはずなんだけど……。
レヴィが豚を見つけるたびに道をそれるからもう空は夕暮れだった。
この世界は現実と同じ時間で進んでいるらしいから、きっと外の世界も夕暮れに染まっているころだろう。
僕の部屋の窓はオレンジ色の光をさえぎることもできずベッドに眠るオレンジに染まる二人を見つめているのだろう……。
僕の長銃を扱うクラスも順調に成長しいくつかのスキルを習得した。
原理はよくわからないけど2連射したり散弾がでたりする。
「さえないイケメンも強くなったねぇ!」
レヴィは自分のことのように嬉しそうににかっと笑う。
その顔にごまかされて僕はまた何も言わずにレヴィの隣を歩いている。
でも、明らかにおかしい。
歩きながら正面を見ようとしていない。
そして、敵を見つけた途端に湖と違う方向にもうダッシュ。
吹き飛ばし系の技ばっかりで敵を湖と反対方向にふっとばす。
僕を助けたときは一撃だったあの大技も、なぜか今は敵を一撃で殺すことは無い。
おかしい……。
「レヴィ……。」
「あっ!豚!!」
再び走り出す。
しかし、飛びつこうとしてるそれはどう考えてもただの草むらだ。
草を思いっきり蹴りとばす……。
「あっれぇ~。豚じゃなかった。」
ごまかす仕草も可愛い。
でも、そろそろ暗くなりつつある。
「レヴィ。そろそろ豚の相手してないで湖まで走ろ?」
「うんうん。いかんよシュラ君。そういう油断が命とりなんだよ。わかるかね?」
「今の二人なら10匹ぐらいの豚でも大丈夫だよ……。」
「何か言った?」
「言ってません。」
すぐ下手にまわってしまうのは彼女の調教の成果か生来か……。
「そろそろ暗くなるし、今日は戻ってトスカーレの宿探さない?」
強きなレヴィが少しだけもじもじとしながらうつむいてそう言った。
意味はわかっている。
だって僕はそんなに朴念仁というわけではないから。
どういう意味かわかってやっているのだ。
わかってないフリを。
こういうことは今までずっとあった。
僕の見た目だけに期待してがっかりして去っていくことは。
レヴィが僕の見た目だけしか見てないというつもりはないけど。
知れば知るほどがっかりさせてしまう。
それに、僕には綾香がいる。
だから
「うん。レヴィはそうして。僕ももう大丈夫だから一人で歩くよ。」
ずっとつながっていた僕の右手を離す。
辛かった……。
でもこれが僕らの正解だから。
「ありがと。」
そう言って僕は未練を見せないように歩き出した。
走ったら辛いのがばれそうだから自然に見えるように歩く。
でも、振り返らない。振り返るだけの勇気はないから。
そして、僕は地面に熱烈なキスをした。
口の中も砂がしっかりと入ってる。
「待ちなさいよ!」
レヴィは右手の代わりに右足を握っている。
「私だって一人じゃこれからの予定もないんだから連れて行きなさい!」
ぶっきらぼうなわがまま口調だけど、その裏は知っている。
綾香と同じだから。
言ってる言葉と思ってることは違う。
綾香と似ていると思った。
「わかった。最後まで護衛お願いします。」
「任せなさい!」
それから僕らは一直線に湖を目指した。
そうして見つけた物は豚の死体の山だった。
その上に立つ一人の女王。
それはもう絶対王政な感じの女王だった。
「こんな時間になったのはいつもの逃げ腰体質のせいだと思ってたんだけどね。」
「その女誰?」
天使と悪魔。
紙一重……。
金に輝く悪魔は僕を見下ろして凄まじい怒りに満ちている。
言い訳するしかない!
いや、正しいことを言うしかない!
「この人は僕の護衛をしてくれたひ……。」
「何様あんた!」
僕をかばうようにレヴィが僕と綾香の間に入った。
でもそれはかばうじゃない。
焚きつける……だ。
「私はそいつの飼い主よ!」
「飼い主とか、人のこと犬みたいに扱ってるんじゃないよ!」
レヴィが拳を握る。
「私達二人のことに口出しするな!!」
綾香がナイフを構える。
そして、警告をすることもなく綾香がナイフをレヴィに向け投げた……。
ああ、こうなってしまったら僕は我慢するしかない……。