よん。
「で、結局アンタなんなのよ」
「だから我は魔術学会の最大で最高な」
「あーそういうのいいから。分かりやすくシンプルに、かつ簡潔に説明して頂戴」
相も変わらずベンチに座ったまま、私と新田くんはなんとも言えない面持ちで目の前に正座するオッサンを眺めていた。
先程の──出現したての自信満々っぷりは影を潜めている。未だにブスブスと焦げ臭い煙を暑っ苦しい黒服のそこかしこから漫画チックに上げながら、自称魔術師さんは地べたの上に座り込んでいる。すごいなー、あんな大爆発に巻き込まれてピンピンしてる。
チラ、と公園の中心に目をやる。
文字通りの大魔球は穏やかさの象徴みたいな静かな公園のド真ん中に大穴を開け、まるでミサイルでも落とされたかのような惨状だ。天を貫くぶっとい火柱が立った時はさすがの私もこの世の終わりをイメージしました。
「我は魔術師である」
と、言葉がまとまったようで、そんな声をぽつりと上げた。
「魔術?」
「そう、魔術だッ」
オッサンはがばりと立ち上がると、真っ直ぐにこっちを見た。お、フザけた格好と現実離れした出来事のせいで分からなかったけど、この人も中々顔立ちは整ってる。……今日は残念なイケメンな知り合いが増える日なのかしら。
「なにを我関せずみたいな顔をしているのだ小娘! そもそも我は貴様らが不用意に大魔術なんぞを発動させてくれやがったせいでこんなクソ暑い中こんなバカみたいに暑苦しい格好して出向かにゃならなくなったというのにッ!
それがどうだこの状況! 暑苦しい気温の中で暑苦しい魔術師共が暑苦しく青春していやがるし! それを見せつけられたこちらとしてはそりゃー邪魔というか制裁の一つにも気合が入るワケでッ!」
「ちょっと新田くん、見られてたじゃない」
「ぐ……いや、ごめん。ちょっと注意力が散漫になってたっぽい……」
やたら暑苦しい勢いにゲンナリするけど、状況はなんとか理解しました。
「ってことはさっきのあの桜が原因なワケ?」
「むう。おかしいなぁ、魔術師には見つからないようにプロテクトかけてるハズなんだけどなぁ。一応今もこの公園に人払いの結界張ってあるし。……あ、オッサン、もしかして人間じゃなかったりすんのか?」
「ほう、察しが良いな小僧。そうだ、我こそ魔術───」
「あー、そういえばさっき魔術学会の最高最大とか名乗り上げてたわね。もしかしてホムンクルスとかそういう系?」
「……え、あの、」
「かもな。魔術も最近グッと力上げてきてたのは知ってたけど、そっかーホムンクルスかー。昔は生命の冒涜だとかなんだとかで禁術になってたらしいけど、まさかここまで精巧に創れるくらいになってるなんてなぁ。つーか霧島って一般人だろ、なんでそんな魔術のネタ知ってるんだ?」
「ふふン、こんなのちょっとファンタジー漫画読む人なら誰でも知ってるわよ。錬金術がどーだとか、たしかそんなんで。まさか直面することになるとは思わなかったけど。というかこのオッサンがホムンクルスってホントなのかどうか私にゃ分かんないのだわ」
「お、おい貴様ら」
「いや、多分ホンモノだと思う。俺の魔法って指向性な面が強くってさ、俺が意識した範囲にしか作用しないんだ。『魔術師』って限定してプロテクトかけたから、『ホムンクルス』ならそれをすり抜けられる。だから『魔術師が創り出したホムンクルス』とか『魔術が使えるホムンクルス』も同様に阻止できない」
「はーん、なるほどなるほど。結構大雑把なのね。で、なんで魔術師に見つかっちゃいけないワケ?」
「人の話を聞いてくださいませ貴様らァァアア!!」
「……こーいうのがいてメンドくさいからだよ」
「あー、なるほど」
とてつもなく納得した。
たしかに魔法を使うたんびにこんな暑苦しいのに追っかけられるのはメンドそうだ。
「やっと人の話を聞いてくれる気になったようだな!」
溜め息を隠しもしないで吐く私たち二人がどう見えたんだろう。オッサンは嬉しそうに瞳をキラキラ輝かせて両手を開いた。無邪気なんだか尊大なんだかハッキリしてほしい。
「我の言いたいことはほぼ言われ尽くしたのでまぁ大体そんなところのそんなふうである! というわけでいざ受けろ制裁! 我、ちゃっちゃとお仕事済ましてアイスとかパフェとか食べながら部屋の冷房ガンガンにして快適に過ごしたいのである!」
思わず絵面を想像して気分が悪くなる。神父さんでも牧師さんでもないのに、こんなキ印全開な真っ黒な服着たオッサンが甘味片手に頬を染める、そんな光景。実にキモい。
「というわけでいざ受けよ我が魔術!」
「おお!」
オッサンは広げた両手を勢いよく振ると、袖から飛び出してきた剣をそれぞれ一本づつその掌で握り締めた。わあ、神父服の魔改造みたいな印象だったけどそのものズバリっぽい。漫画で見た悪役っぽくてスゴくこう、なんていうかグッときますわ!
「ふん」
オッサンの構えをどう見たのか、新田くんがようやくベンチからゆらりと立ち上がる。なんかまだ機嫌悪そうだけど、口元には薄っすら笑みが浮かんでいるあたり、こやつも男の子よのう。
「怪我したって知らねーぞ、オッサン。俺は女の子以外にゃ優しくねえからな」
「ふふン、先は正義のヒーローの登場シーンに水を差すという王道無視な奇襲に遅れを取ったが、今度はそうはいかん! どうやら貴様は高位の魔術師のようだが……所詮人間は人間、人間の限界の先に生まれし我に敵う道理無し! あと我こう見えて五歳!」
五歳でこれか……いや、カッコ悪くはないけど、これで五歳は違和感あるなぁ。
「製作者のセンスを疑うぜ。……あとおまえ、俺たちの話ちゃんと全部聞いてなかったろ」
「ふぁーははは! 話なら後々いくらでも聞いてやろう。遺言として───なッ!」
「うわっ」
ホムンクルスの身体が突如、猛烈に光り輝いた。目も眩む閃光に私は思わず目を瞑り、
「そうら、まずは一つ」
耳元で、そんな低い声音と、弾ける金属の響を聞いた。