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九つ目の要塞は不穏な空気(1)

 今度アイム達が辿りついた国であるトアト国には伝説があると言う。かつて、戦争があったと言う伝説だ。戦争だけならば、単なる歴史として語り継がれるかもしれないが、その戦争伝説には伝説になるだけの理由があった。

 なんでも、別大陸からやってきた蛮族との戦争であったらしい。侵略者対大陸の守護者。そう言った戦争であったと語り継がれるそれは、確かに、華々しい伝説として呼ばれるに相応しい物語であった。


「事実はどうか知らんけどな。戦争なんてのは、どっちが良いとか悪い物でも無いだろうし。ただ、確かに別大陸との戦争はあったらしい。この国の現状がその証拠って話だ」

 リュンの説明は、トアト国に来てからずっと続いている話だ。最初はアイムの興味本位から始まった会話なのだが、どうにもリュンは饒舌になっているらしく、トアト国について、知る限りの情報をアイムに与えようとしてくる。

「現状、つまり、傭兵国家としてのトアト国は、その成り立ちのどこかで、軍事関係に大きく影響を及ぼす何かがあったと言う事を意味している」

 傭兵国家。なんだか物々しい言葉である。アイム達が住む大陸は現在、戦争や内紛なんて言葉とは縁遠い状況にある。実際の内情を知るすべは無いが、軍事力などと言うものが重要視されている状態では無い。

「その傭兵国家って言うのがピンとこないんですよ。傭兵って要するに雇われ兵士でしょう? 兵士なんて雇って、何をするつもりかは知りませんが、なんだか大陸の現状とは不釣り合いな気がします」

 それに、実際にこの目で見るトアト国は、言われる程物々しい訳では無く、どこか落ち着いた雰囲気を持つ国であった。

 商業や海運業を重視するのでは無く、国内の安定をひたすら突き詰めていると言えば良いのか、のほほんとしている。大通りには石造りの家々が建ち、商店が幾つか並んでいるが、客引きが盛んに行われている様子は無い。人通りも多いと言えば多いが、人混みになる程の数でも無い。通りかかる人の顔は、必死さが無く、焦りも無い。

 見る限り、とてもでは無いが軍事国家と呼べない国なのである。

「前の温泉街みたいな活気もありませんが、なんとなくほっとする物があると言うか」

 恐らく、アイムの出身国であるシライ国と雰囲気が似ているのだ。シライ国も同じく、大陸北方国であり、この国の様子は、北方文化と呼んでも良いかもしれない。

「傭兵国家と呼ばれているのは、この国の特徴を差した言葉であって、この国全体を表現する物ではありませんもの」

 セイリスはリュンの説明に補足する様に話す。

「ふうん。じゃあ、その特徴ってのはなんなのさ」

 この国と言うか、大陸を周ったアイムの目線からは、傭兵と言う言葉に違和感があるのである。

「要するに、雇われ兵の国って名前は、この国が兵士を雇っているんじゃあ無く、余所の国に兵士を雇わせてるって事なんだ」

 漸く本題に入れたとばかりに身を乗り出して、アイムに説明を続けるリュン。どうにも、彼は傭兵と言う物に関して、興味を大いに持っているらしい。いったい何を考えているのやら。

「別の国で入国審査官や、護衛用の兵士を見たことはあるだろ? 彼らの多くは、この国が輩出している傭兵なんだ。この国が他国に対して輸出している品目が傭兵って事だな。だから傭兵国家」

 なんだろう、そう言われると、農産品を輸出しているから農業国家と呼ばれるなんて事と同レベルに思えるが、傭兵とは人の事であり、人を輸出品にしていると言う事か。

「なんだかそれ、人身売買みたいで嫌なんですけど」

 傭兵国家と言う言葉から、物々しさが消えずに残ってしまっている。

「本人達に自由が無ければ人身売買なんだろうが、全員志願制だよ。他国に売り込むには、人身売買で集めた人材はあんまり役に立たんらしい。この国が輩出する傭兵は、この国で一通りの試験や訓練を経た奴等だからな。むしろ、その訓練方法を売りにしていると言った方が良いか。他国からもその訓練目当てにやってくる奴等も居る。一度、この国で傭兵として売り込まれれば、食うに困らないくらいの雇い手が居る」

 つまり、傭兵国家と言うより、傭兵教習国家と言う事か。

「この国が軍事力を高めていると言うよりも、大陸中で必要とされる武力を、この国が一手に引き受けて育てていると言った方が宜しいですわね」

 いくら武力がそれ程必要とされない世の中と言えども、大陸中まで範囲を広げれば、軍事力と言う物は必要になるのだろう。そこに目をつけて売り込んでいるのがこのトアト国と言う事か。

「そんな国で、どうやって仕事を見つけるつもりなんですか?」

 農業とは縁遠い国だと言う事は理解できたアイムは、トアト国で商業圏を広げると言ったリュンに疑問を持つ。

「とりあえず、会わなきゃならない人物が居る。結構なお偉いさんだが、ちゃんと訪問すると手紙で伝えてあるから、門前払いされる心配も無いぞ」

 リュンなりの計画があるらしい。いつ出したのかは知らないが、お手紙まで用意している始末だ。別にそれならそれで良いのだが、いつも通りの笑みを浮かべるリュンを見れば、今回も一筋縄では行かないんだろうなと考えてしまう自分が居た。


 着いた場所は要塞であった。海に注ぐ大河の沿岸に建つ、頑丈で大きな石によって作られた円柱状の塔を中心に、何度も増改築されたであろう宿舎と兵舎が周りを覆う。

 非常な程の頑強さに眩暈を起こしそうになるアイム。その威容に圧倒されたのだ。恐らく、そう言った意図も含めて建てられたのだと思われる。

「ここが、訪問予定の場所ですか……」

 そうであって欲しく無かった。一見物騒な国では無かったが、この様な要塞を見れば、前言を撤回せざるを得ない。

「そう驚く様な事ではありませんわ。戦争が有ったのも遥か昔。今は訓練と適正試験が業務の殆どと聞いています」

 なるほど、そう言われれば、この要塞も古代の遺物に見えてくる。そして現在は時代に見合った使われ方をしている。

「それにしては真新しい部分もあるが……、まあ、補修工事くらいは普通するか」

 当たり前の話である。古い建物をそのまま放って置けば、古代の遺物どころか廃屋に変わってしまう。

「建物を補修する以外にも、要塞を機能させて置かなければならない建前もあるのだけれどね」

 突然、アイムの耳に女性の声が聞こえて来た。セイリスの声では無い、もっと大人っぽい声である。

「あれ? どこに」

 周りを見渡すも、声の発生源は見当たらない。ふとリュンを見ると、彼は要塞をやや斜め上に見ていた。

 アイムがその視線を追うと、その先に要塞の窓があり、そこから恐らくアイム達に声を掛けたであろう女性がこちらを覗いていた。

「こんにちは。間違っていたら申し訳無いのだけど、あなた達が私に会いたいと手紙をくれた商人さん達よね?」

 女性は後ろで纏めた長い茶髪を揺らしながら、小首を傾げてこちらに尋ねてくるのだった。


 女性に案内される形で要塞に入り、彼女の執務室まで向かう事になった。道中では彼女と自己紹介を交わす。

 女性の名前はフラルカ、人間種族の女性で、なんとこの要塞で兵士長をしているらしい。

「兵士長と言っても、要塞内で二十人以上も居る内の一人だから、そんなに堅苦しく考えなくても結構よ。戦争なんてした経験した事も無いし、どちらかと言えば、生徒を教える教官みたいな立場かしら」

 フラルカは微笑みながら、自分の立場を説明する。自身はそれ程の人物では無いと言った内容だが、女性にしては長身で、凛とした佇まいを見れば、そうは思えなくなる。

 なにより、腰のベルトに差した鞘入りの細剣を見れば、彼女が一兵士である事を認識させられる。

「兵士長なんて物々しい肩書だから、てっきり男が出てくると思っていました」

 リュンは自分の交渉相手が女性であるとは予想して居なかった様だ、アイムはリュンが若干の苦手意識を感じている事が、なんとなくであるが分かった。

「それは仕方無い事ね。実際、この要塞で兵士長の立場で女性は、私を含めて三人くらいだから。内二人は、少し失礼かもしれないけれど男性より男性らしいから」

 女性らしさがあるフラルカはそこに含まれない以上、フラルカ以外の二人は厳つい外見をしているに違い無い。

「どうしてここで仕事をしようと思いましたの?」

 同じ女性として、セイリスはフラルカがこの兵士と言う仕事を選んだことに興味がある様子である。

「別にここで働こうと思った訳では無いのよ。ただ、ある程度の戦闘訓練を受けた女性なんて少なそうだから、仕事を探す上で有利になると思ってここで訓練を受けていたの。そうしたら、要塞自体が私を欲しがったらしくて、今の立場に居るって訳」

 ふうむ。そう言った成り行きで仕事を選ぶ事もあるのか。アイムなどは、産まれてからずっと農家として生きてきたので目新しい意見に感じる。

「さて、ここが私の執務室。狭いけど、ちゃんとした個室だから我慢してね」

 フラルカが廊下の途中にある扉の前で立ち止まり、その扉を開く。部屋は言う程狭い物では無く、窓からの光も良好で明るい雰囲気がある。中心より少し置くには大き目の仕事机があり、小物がバランス良く並べられている。案外、お洒落に気を使っているのかもしれない。

「じゃあ、さっそくだけど要件を聞きましょうか」

 フラルカはアイム達が全員部屋に入って来たのを確認すると、扉を閉じ、颯爽とした動きで仕事机とセットになった椅子に座り、こちらを見る。柔らかい物腰のままではあるが、その視線はどこか鋭い物に変わっている。

「話が早くて助かります。手紙を読んでくれたのなら、こちらの仕事を大まかには理解してくれていると思いますが、まあ、農業知識を売り歩く様な仕事です。他国でも同じ仕事しているのですが、ヒュウガ国でこちらの国がそう言った仕事を必要としているらしいとの話を聞きましてね」

 ヒュウガ国では、多くの富豪から仕事を請け負った。富豪相手だと言うのに、格安で仕事を受けたリュンに、最初は疑いの眼差しを向けた物だが、こちらの仕事に気を良くした富豪達が、次の仕事相手を紹介してくれた。

 どうにもリュンはそれを狙って仕事を行っていたらしい。

「ヒュウガ国で繋がりがある方と言えば、ショウさんかフィリルさんね。どちらかに聞き覚えがあるかしら」

 前者の方に聞き覚えがあった。ショウと言う商人が、この国を紹介してくれたのである。

「ショウ商人には、手紙を要塞内に通す際も、便宜を図って貰いました」

 本来、どこの誰とも知れぬ者が、手紙で話をしたいと送っても、門前払いされるのが落ちだ。ところが、リュンの手紙はきっちり要塞内の人物に渡されているのだから、確かに商人からの紹介は効果があった訳である。

「ああいった大商人は私達のお得意様だもの。この要塞から輩出した戦闘訓練経験者の一部は、商人の護衛に雇われているから。彼らの提案は、どんな内容であれ無下に扱う事はできないのよ。まあ、今回のお願いは、こちらにも利益のありそうな物だから良かったけれど」

 アイム達の仕事に対する需要は、確かにあるらしい。だが、それがどれ程の物になるかは、これからの交渉次第だろう。

「具体的にそちらが求める利益とはどの様な物か、教えて頂く事はできるでしょうか?」

 リュンはさっそく商人としての思考に切り替えたらしく、先程まであったフラルカへの苦手意識は感じられない。それにしても、いったいフラルカの印象のどこを苦手としていたのだろうか。

「大した仕事からそうで無い物まで、色々よ? まずはあなた達がどれだけの物を出来るかを教えてくれないかしら。それを教えてくれない限り、こちらもどこまで頼めば良いか分からないもの」

 優し気な話し方だが、自分の手の内を明かしたければ、そちらの手札を見せろと言われた様な物だ。要するにかなり強気な態度だと言える。金銭を出すのは向こうなのだから、当然と言えば当然ではあるが。

「農業知識に関してはそれ程の物と自負しています。なにせ若いとは言え、ランドファーマーが仕事仲間に居ますので」

 視線をフラルカが分かる様にアイムへと向けるリュン。

「あら、ランドファーマーが商人だなんて珍しい。生まれた土地から動かない人が殆どの種族だから……。あ、ごめんなさい。ちょっと失礼な言い方だったかしら」

 フラルカは謝るが、事実なのだから、失礼でも何でも無い。少しこちらに気を遣い過ぎでは無いだろうか。それとも、ある程度の距離を置きたいのか。

「生まれた土地を大事にしているって意味なら、褒め言葉にもなりますから、別に謝らなくても良いですよ。自分自身、ちょっと変わっているとは、思い始めてますから」

 リュンやセイリスを変人扱いする事はたまにあったが、最近、アイム自身も、自分がランドファーマーとしては変わった考え方の持ち主なのでは無いかと疑問を持っている。

 なにせ、今のところ土地に定住する事に未練が無いのだもの。

「変わり者のランドファーマーね。面白いけれど、その知識に関しても変わり者ならちょっと困るわ」

 農業関係の仕事を頼む上では、ランドファーマーとして普通に持っている知識の方が役に立つと言う事か。

「当然、一通りの知識は持っていますよ。今からこの土地で農業を始めろと言われても、一年で自分好みの土地にしてみせます」

 時間さえあれば、それくらいの事は出来る。ランドファーマーなどと言う種族名を名乗るのだ。他の種族に追随を許さないくらいの能力を、アイムだって持っている。

「一年ね。それは一人で出来ると言う事? それとも複数の人員で?」

 勿論、一人で出来ると言いかけて、言葉が止まってしまった。アイムは要塞周辺程度の土地と想定して話していたのだが、フラルカが言っているのはこの国全体の事かもしれぬと考えたからだ。

 耕作範囲が広がれば、出来る事も少なくってくるのが農業なので、安易に答えられずに口籠る。

「その言い方は、少々ズルい物では無いでしょうか? 一人で出来る範囲であれば、一人で行えば宜しいでしょうし、出来なければ人を雇えば解決しますわ。どれだけの技術や知識を持っているかと言う点に関しては、別の話になると思いますの」

 助け舟を出してくれたのはセイリスだ。アイムには無い発想で、フラルカの問答に答えてくれる。

「それもそうね。あなた達はどう見たって、大人数を動員できる立場では無いでしょうし、少数では不可能なくらい大きい仕事なら、こちらに人員を用意する責任が生じてくる」

 それを承知で、アイムに疑問を投げかけてきたのは、鎌をかけるつもりだったのだろうか。何にせよ、交渉事がそれほど上手くないアイムは、意見を聞かれない限り黙って置く事にした。

「知識や技術云々についても、手紙で既にある程度書いていると思いますが」

 こういった場で頼りになるのはリュンである。フラルカから正面を見ればそれ程でも無いが、横から彼の顔を見ると、少し顔が歪んでいるのが分かる。リュンは交渉事を楽しむ性質があるらしく、遠慮が無い場所では良く笑う。今はそれを堪えているのだろう。

 正しい判断だと思う。彼の笑みは、人を少々不快にさせる場合があるから。

「そうね。どこそこの国や町でこの様な事をした。恐らく事実なのでしょうけれど、誇張を含んでいたり、嘘の可能性を考えなければいけないのが、こういう場所での嫌な部分よね」

 そして難癖をつけて安く買い叩こうとする雇い人も居ると言うのも嫌な事だ。

「口で話しても大差無いでしょう? 嘘や出任せを疑うなら、そもそも外の商人を雇わなければ良い」

 信用云々に関しては、ある程度博打をするしか無いのが商人を雇うと言う事か。

「内でするのも限界があるのよねえ。わかったわ。とりあえず、仕事を幾つか紹介するから、出来ると思った物を選んで頂戴」

 こうして、相手から仕事に関する情報を聞き出せた訳だ。幾つかと言う事は、向こうは最初からこちらに仕事を頼む予定であったのだろう。これまでの会話は挨拶程度の意味なのかもしれない。

「絶対にして欲しい仕事と言う物ではありませんの?」

 それ次第で今後の対応も大きく違ってくる。セイリスの意見は仕事をする上で、聞いておいた方が良い話の一つである。

「しっかりとしてくれなければ困るには困るけれど、散々に失敗した所で、こちらが物凄く不利益を被るなんて事は無いわ。一番酷い結果を思い浮かべるのなら、わたしがこの要塞をクビになるくらいかしら。あなた達、もしかしてそれが狙い?」

 とんでも無い。どうして、ついさっき出会った女性の立場を貶めなければならないのか。

「仕事の重要度がどれ程の物かと言う事ですわ。本音を言わせて頂ければ、多少リスクがあろうとも、利益の大きい仕事を選びたいのが商人。旅商人が旅をするのは、他の国で名を上げる事が目的ですもの」

 いけしゃあしゃあとそんな事を言って見せるセイリス。仕事を提示してくれる相手に対して、もっと大きな仕事を寄越せと言える商人がどこに居ると言うのだろう。

 まあ、彼女はアイム達の付き添いみたいな物で、商人と言えるのかどうかは怪しい限りではある。

「リスクを背負うのはあなた達だけでは無いでしょう? こちらにも看過できない損害が出る可能性がある仕事を、一度会ったばかりの商人に任せて欲しいだなんて、ちょっと高望みし過ぎね。とりあえず、それほど長い期間は掛からない仕事を紹介するから、その結果でわたし達を信用させてくれない?」

 その線だけは引く事が出来ないと断言してから、どうするかとこちらに尋ねるフラルカ。勿論断る理由はアイム達には無い。単なる旅商人であるアイム達にとって、信用を得る事から始めるのは当たり前の事なのだ。


 紹介された仕事は、要塞周辺での耕作地に向いた場所の調査や、要塞内部の空いた土地を耕作地へと変える計画作りなど、雑多かつ、それほど長い期間を要さない物ばかりであった。当然、それらに対する報酬も少ない。

「やっぱり試されてると思って良いんでしょうか」

 フラルカに案内された休憩室らしき場所で、アイム達は今後の相談をする。一週間程度なら自由に使って良い部屋らしく、寝泊りも許可されている。とは言っても相談以外の用途では手狭な部屋であるので、要塞近くで宿は見つけるつもりであった。

「例えば紹介されたこれらの仕事を達成できたとして、要塞自体に帰ってくる利益が少ないのなら、俺達を試していると言えるな」

 仕事に対する見返りが少ないと言う事は、仕事の達成が目的では無く、アイム達が仕事をどの様に行うかを評価するのが目的となる

「でしたら、やはりこちらの手際を見るための仕事と言う事ですわね。どう考えても、部外者を雇ってまで行う仕事ではありませんもの」

 確かにフラルカが紹介して来た仕事は、別にアイム達でなくとも行える仕事である。

「本来の仕事の前に試しの仕事をさせるって、結構あるものなのかなあ」

 前に居たヒュウガ国でも、今回と同じように、仕事を行って腕前を見せてみろと言った話があった。

「ヒュウガ国の時ほど切羽詰まった物でも無ければ、厳しい物でも無いと思うがな。状況は良くなってるって事だ」

 信用と言う意味では、前回より今回の方がまだマシと言う事か。押し売り商人と、知人に紹介された商売人くらいの差はあるのだろう。どちらも、買い手側は全面的に信じている訳では無いと言うのは同じだが……

「アイムさんは、実際、どれ程の仕事が出来ると思いますの?」

 結局、手を動かして進めて行くのはアイムである。この場での方針決定権はアイムが持っている。

「紹介された仕事なら、どれも全部、要求以上の物は出来ると思うよ。向こうがこっちの仕事を見て評価するって言っても、詳しい専門家が居る訳でも無いだろうし、一定の水準で仕事が出来たら、似たり寄ったりな評価になると思う」

 例えば、耕作地の調査であれば、ランドファーマーの目を用いればかなり容易く行えるし、農作の計画作りなど、旅を始める前のアイムなら、毎日の様に行っていた事である。素人から見れば、かなりの高水準で成果を上げる事が出来る。

 もちろん、玄人から見ればその限りでは無いが、そんな人物が居れば、そもそもアイム達を雇う意味が無い。

「なら、出来る限り短い期間で出来る仕事が良い。俺達は、この仕事の後にある仕事を見据えている訳だからな」

 評価を得ようとするのは、その評価によって信用を勝ち取り、さらに大きな仕事を釣り上げるためである。

 一山当てるには、小さな山を積み重ねる事から始めなければならない。

「あら、それならこの農作業道具の調達と整理などはどうでしょうか。流通ルートさえ分かれば、すぐに実行できますわ」

 確かに農作業道具はどんな町でも調達は可能である。無ければ無いで、簡単な作り方くらいならアイムが知っている。難しいのは鍬や鋤など金属部分が安定的に調達できるかであるが、傭兵国家とまで呼ばれるトアト国で、金属調達に困ると言う事もあるまい。

「この仕事って、むしろ道具整理の方が必要とされていると思うよ。農具ってある程度知識が無いと、使い方ですら分からないし、必要の無い道具まで調達してしまう可能性だってある」

 だから専門家に、農作業を始めるための道具集めを依頼しているのだろう。使わない農具まで調達して余計なコストを掛けるより、知識を持った人物を雇う方が安上がりだと判断しているのだと予想できる。

「時間的には短く済みそうか?」

「実際やってみなくちゃ分からないですけど、そんな未開の土地じゃ無いんですから、すぐに出来る事だと思いますよ」

 経費だって当然出ると説明されている。その額は、ある程度の数の農具を集める事は十分に可能であるし、それ以上の成果を望んでいる訳でも無いだろう。

「……ならそれで行くか」

 なにやら少し考えているリュンだが、今後の方針に異論は無い様だ。

「どうしたんですか?」

 リュンが何かを考えている時は、案外深刻な事の場合が多く、少し気になる。

「いや、紹介された仕事を見ていると、なんだかトアト国内で、作物を生産しようとしているみたいでな……」

「何言ってるんですか、そんなの当たり前の事でしょう? 紹介された仕事全部、国内でもっと多くの作物を収穫するための仕事ですよ」

 国家が自国の食料生産量を上げようとするのは不自然な事とは思えない。いったいリュンは何に疑問を持っているのだろうか。

「いや、なんで今になってそんな事を始めたのかと思ってな……。まあ、考えても仕方無い事か」

 国家の都合とやらが、旅商人に大きく関わってくる事は少ないし、あったとしても、向こうから一方的にである。

「そうですよ。それより、仕事と宿探し、日が暮れる前に始めないと」

 ここで泊る予定が無い以上、休憩室にいつまでも居る事は出来ない。

「あ、もう日が傾きかけていますわ。仕事より宿を探す事を優先した方が宜しいですわね」

 セイリスは休憩室の窓を覗き、太陽の場所を確認すると、急いで荷物をまとめて部屋を出る準備をする。

 アイムとリュンも同様に行い、さっそく宿探しを始める。その心中に一つ疑念を残したまま。


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