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ゆうかい  作者: 夕霧
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融懐編 6話

「レティシア」



レオナルドは自分の屋敷に戻ると、着替えもせずに、すぐレティシアの元へ向かった。

レティシアは洗濯物を干している最中で、レオナルドに名前を呼ばれると作業を止めて彼の方へ振り返った。



「仕事中に悪いな。大事な話があるんだ」

「…」



レティシアからの返事はないが、レオナルドにちゃんと目を向けているので、彼女が話を聞くことを了承したととり、レオナルドは話を続けた。



「オルヴォマは知ってるよな?」



レオナルドの問いにレティシアは頷く。



「オルヴォマがグラズノフに宣戦布告をしてきた。半年後にはグラズノフの同盟国として俺も戦地に行かなきゃならなくなったんだ」



レティシアは表情こそ変えなかったものの、指がピクリと動いたのをレオナルドは見逃さなかった。

レオナルドは少し困ったような笑顔を浮かべ、レティシアの頭に手を置いた。



「戦地に行ったらしばらくは帰ってこれないだ。たぶん長くなる。その間寂しい思いをさせると思うけど…ごめんな」



レオナルドはレティシアと同じ目線になるように、小さな頭を優しく撫でながらしゃがみこんだ。

するとレティシアは体の向きを変えて、また逃げ出そうとした。



「おっと!今日は逃がさないぞ!」



走り出そうとしたレティシアの細い腕をレオナルドが掴む。

いつもとは違うレオナルドの行動に、背を向けているので表情こそ見えないものの驚いたのか、レティシアはそれに抵抗することなくその場に立ち尽くしていた。

レオナルドは悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべ、大きな声で言った。



「というわけで一緒に散歩をしよう!」



なにが“というわけで”だ、と突っ込める彼の親友はこの場には居ない。





急な提案をしてきた上に、レティシアの承諾も待たず、レオナルドは鞄にパンとそれに挟む野菜をいくつか詰め込み、馬を一頭連れてきた。

まだ洗濯物を干す仕事が残っていることを、レティシアは目で訴えたが、「そんなの後!俺も手伝うからさ!」の一言で済ませ、少々強引にレティシアを連れだした。

レティシアを馬に乗せ、その後ろにレオナルドも乗る。

レオナルドは上機嫌に鼻歌を歌いながら、ゆっくりと馬を進めた。




20分ほど経つと、周りの景色には人工物が無くなっていた。

馬に揺られる二人の間に会話は全く無いが、レオナルドはそれを気にする様子もなく、所々音が外れたような鼻歌を歌っていた。

レオナルドは何かに気づいたような反応を見せると、軽く手綱を引いて馬を止めた。



「着いたぞ」



彼は一言そういうと、先に馬から降りて、レティシアに手を伸ばす。



「お手をどうぞ、お嬢さん」



また、悪戯っ子のような笑みを浮かべたレオナルドを、レティシアは無言のまま見つめる。

しばらくそうしていると、レオナルドは若干顔を赤くして照れたように笑った。



「あー、やっぱ俺はこういうの様になんないかぁ…でも何か反応してくれ、俺すっげえ恥ずかしい」



そうしてレオナルドが照れている間に、小さな手がそっとレオナルドの手に重ねられる。

するとあっという間に、レティシアは馬から降りた。

ほとんどレオナルドの手に力が入っていなかったのにも関わらず、よろける様なことも無く地に着地したレティシアを見て、ひょっとしたら手助けはいらなかったんじゃないかと、また恥ずかしくなった一方で、レティシアが手を置いてくれたことにレオナルドは驚き、そしてそれを嬉しく感じた。




着いたそこには、小さな泉があった。

周りは若緑色の葉をたくさん茂らせた木々に囲まれている。

風は体を撫でるように柔らかく、風が吹いた時に葉が擦れ合う音と小鳥のさえずり声が流れた。




「良い所だろ?ここでのんびりするのが最高に気持ち良いんだ」




レオナルドはそう言いながら、草の上に座り込み、鞄から持ってきたパンと野菜を取り出し、それでサンドイッチを作り始めた。

手際良く二つのサンドイッチを作り、その一つをレティシアに差し出した。




「こんな簡単な料理でも、場所が良いとうまく感じるもんだぞ」




いつものように、笑顔を浮かべながらレティシアにそう言った。

レティシアは差し出されたサンドイッチを受け取ると、レオナルドの隣りへ腰を下ろした。

大きな口で、レオナルドがサンドイッチを頬張る。

今度はレティシアが、小さな口でサンドイッチを頬張った。

特に会話をすることもなく、しばらく二人はサンドイッチを食べながらのんびりしていた。


レオナルドはすでに食べ終え、レティシアのサンドイッチもだいぶ小さくなった頃、レティシアが口を開いた。



「…オルヴォマの狙いは、ラグレーンの資源?」

「え!?今しゃべった!?しゃべったか!?俺の幻聴か!?」

「……」

「あ、うそごめん。そう。合ってる。合ってるから黙るのやめてくれ」



レティシアから話しかけてきたことに驚いたあまり、その場の空気も読まずに本音を言ってしまったため、怒ったのか呆れたのか、レティシアは顔を背けた。

慌ててそのことを謝ると、レティシアは再びレオナルドの方へ目を向けた。



「…狙いはたぶん鉄。ラグレーンの東部は特にたくさん採れる。攻め入ってくるならまずそこから来る」

「鉄…。まずは武器の材料を確保、てことか」



レオナルドはそう言うと、レティシアに向かって笑顔を向け、彼女の頭に手を置いて撫でた。



「協力してくれてありがとな。俺とニコライで、ベルティユちゃんもレティシアも守るからな!」



レオナルドがそう言うと、無表情だったレティシアが、驚いたように目を大きく見開いた。



「…私を、使わないの?」



今度驚いたのはレオナルドの方だった。

今までの会話の流れでは、レティシアが言ったその言葉の意味は、まるで



「私を…戦場に連れて行かないの?」



その言葉はまるで


レオナルドには







「…心配しなくていいって。レティシアの事は俺が守るから」







レオナルドはもう一度笑顔を浮かべ、レティシアの頭を撫でた。

レオナルドを見上げていたレティシアは、顔をうつむかせ、それ以上何も言おうとはしなかった。


何も言わなかった。

頭に乗せられてレオナルドの手から、逃げようともしなかった。
























『使わないの?』
























それはまるで





























氷の女王(兵器)を使わないの?

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