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ゆうかい  作者: 夕霧
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融懐編 5話

「で?」

「で?ってお前…。悩む親友に対してなんて冷たい…」

「対人関係くらい自分で解決しろ。何百年生きてるんだお前は」




お前と同じだよっ、と若干ふてくされながらレオナルドは呟いた。


彼は同盟国のグラズノフに仕事の関係で訪れていた。

これはちょうど良いと思い、親友であるグラズノフの王族、ニコライに「レティシアが何を考えているのか分からない。その上彼女に嫌われているようだ」と相談したが、冷たく返されたのだ。



「お前の所はどうなんだよ?またベルティユちゃんにひどい事してないだろうな?」

「あの時はレティシアが暴れ出したから抑えただけだ。ベルティユに危害を加えるような事はしなかったし今もしていない」

「それただの屁理屈だろ~」



レオナルドの言葉に、ニコライはギロリと彼を睨んだが、レオナルドはそれに気付かず、だらしなく頬をテーブルにくっつけて落ち込んでいた。

その様子に怒る気も失せて、ニコライは呆れたようにため息をついた。



「そもそも先ほどの言葉は矛盾している」

「え?」

「考えている事が分からないのに、何故“嫌われている”と思うんだ?」



ニコライの言葉に、何も言い返せずにいると、部屋のドアを軽くノックする音が聞こえた。



「入れ」



ニコライがそう返すと、ドアを開けて部屋に入ってきたのは、焼きたてのクッキーを乗せた皿を持つベルティユだった。



「ベルティユちゃん!」

「こんにちは、レオナルドお兄ちゃん!」



にっこりと可愛らしい笑顔をベルティユはレオナルドに向けた。

その満面の笑顔にレオナルドもつられて笑顔を浮かべる。



「元気そうで良かった。グラズノフには慣れたか?」

「うん。他の使用人さん達もとっても優しくしてくれるから!」

「そっか。でももしニコライにひどい事されたら兄ちゃんに言うといいからな!」



しつこい、と向かい側に座っていたニコライに足蹴りをくらう。

いでっ、と思わずレオナルドが声を上げると、ベルティユが小さく笑った。


ベルティユは持っていた皿を慣れた手つきでテーブルへと置く。

そしてレオナルドに近づいて、レオナルドお兄ちゃん、と声をかけてきた。



「ん?何?」

「あの、お姉ちゃん…元気?」



レオナルドを見上げる大きな目が、不安そうに揺れていた。

レオナルドは一瞬、答えに迷った。

傷はほぼ治ったものの、レティシアのあの様子でとても、元気だ!とは答えずらい。



「あー、傷は治ったよ。ベルティユちゃんと同じで家事も頑張ってくれてるし」

「本当?良かった!」



よほど遠く離れた姉が心配だったのだろう。

ベルティユは安心したように笑顔を浮かべた。


すると、再び部屋のドアがノックされた。

今度のノックは音が大きい上に、何か急いでいるようなものだった。

ニコライが入れ、と言うと、今度は軍服を着たニコライの部下が入ってきた。

軍服の男性は失礼しますと一声言ってから、早足でニコライの元へ向かった。

何処か焦った様な表情を浮かべている男性は、ニコライの耳元に顔を近づけ、小声で何かボソボソと伝えている。

ニコライの眉がピクリと動き、男性は持っていた書類をニコライに手渡した。



「…ベルティユ、大事な話をするから下がれ」

「はい…じゃあ、レオナルドお兄ちゃん」

「ああ、またなベルティユちゃん」


ベルティユは急いで部屋を出て行き、ドアが閉められると、レオナルドはニコライの方へ振り返った。

先ほどまで浮かべていた笑顔は消え、真剣な表情を浮かべている。



「何があった?」

「オルヴォマがラグレーンの資源を寄越せと言ってきた」

「は!?オルヴォマ!?」

「“返答は半年待つ。拒絶や半年以上返答が無い場合は、問答無用でグラズノフ、ラグレーン両国に侵攻する”だそうだ」

「近いうちに何処かの国がそう言ってくると思ってたけど、まさかオルヴォマが…」



オルヴォマとは、グラズノフ、ブローニング、ラグレーンがある大陸とは、別の大陸にある国だ。

大人しい国とはいえないが、積極的に戦争をするような国ではない。

むしろオルヴォマと同盟を結ぶ強国、グランフェルトの方がそこら中で戦争をしており、オルヴォマはグランフェルトを援助する、という事が多かったのだ。


しかし、今回はオルヴォマが単独でグラズノフに宣戦布告をしてきたのだ。



「返答は無しだ。半年で戦争の準備を整えるぞ」

「りょーかい。あの二人とラグレーンを守ってやんなきゃな」



ニコライとレオナルドは座っていた椅子から立ち上がり、それぞれ戦争の準備を始めに向かった。






レオナルドはブローニングへ戻る最中に、ラグレーンの王族姉妹の事を考えていた。

ベルティユの笑顔を見た時、レティシアはどのように笑うのだろうと思った。

まともな会話すらできていないのだから、笑顔なんてまず無理だろう。



「(というか戦争前に考える事じゃないよなぁ…でも…)」



戦争が始まれば、自分は戦地へ向かい、しばらくは自分の屋敷へ戻れなくなるだろう。

そうなる前に



「(笑った顔、見てみたいな…)」



妹と同じように笑うのだろうか


どうすれば笑ってくれるのか








何故、あのように無表情でいるのだろうか






いつから、笑わなくなったのだろう





















何が、あの少女から笑顔を奪ったのだろう

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