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ゆうかい  作者: 夕霧
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融懐編 3話

「これからよろしくな」

「……」


投げかけたその言葉を、少女は歓迎も拒絶もしなかった。

ただそこに、沈黙のまま立っていた。






レティシアが目覚めるのにはそう時間はかからなかった。

傷と包帯だらけの体でもしっかりした足取りで歩くし、何より弱っているような素振りは全く見せなかった。

隣国とはいえ、グラズノフからブローニングへ戻るには、馬を休ませず進んでも丸一日はかかってしまう。

レオナルドはできるだけレティシアの傷が癒えるまで彼女を妹と共に居させてやりたかったが、まだ復興作業が終わっていない自国を王族の自分が放っておくわけにはいかず、レティシアが目覚めたその日に、彼はレティシアを連れてグラズノフを出発した。


出発前、ベルティユは泣きっぱなしだった。

何度も姉を呼んでは、さびしい、さびしいと泣きながら姉に抱きついていた。

レティシアは何も言わなかった。

泣きながら抱きついてくる小さな妹の頭を、離れ離れになるその時まで、優しく撫で続けていた。


ベルティユはさびしいと言ったが、行かないでとは決して言わなかった。

レティシアはぼろぼろの体でも、弱音は一言も言わなかった。


彼女たちは自分達の立場がどういものなのか、ちゃんと受け止めていたのだ。







「(だからって、休息もいれずに進ませたとか…俺、最低じゃん…)」


予定よりブローニングに戻るのが遅れてしまい、一刻も早く戻らねばと思うあまり、傷を負ったレティシアを休ませることなく馬を進めてしまったのだ。

負傷した状態で馬に乗るのは、かなり負担がかかる。

それを丸一日続けるのは、大の大人でも大変なことなのに、華奢なレティシアには尚更負担が大きいはずだ。

しかし、レオナルドがそのことに気付いたのはブローニングの自宅に着いてからで、彼女に気をつけてやれなかったことを、激しく後悔していた。



レティシアとベルティユの国、ラグレーンは、グラズノフとブローニングの属国となった。

国と国との支配関係は、各々の国の王族によって示される。

その示し方は国によって違っており、グラズノフとブローニングの場合は、属国の王族を自分の元で働かせるというものだ。

働かせるといっても、仕事内容のほとんどは家事。

ラグレーンの政治に関するものは支配国のブローニングが行うことになった。



「(でも本当になんでもなさそうな顔してたな…。俺が気にしすぎてるだけか?)」



レオナルドの屋敷に着いてすぐ、彼はレティシアをに自室を与えた。

広い屋敷にはレオナルドしか住んでいなかったので、空いた部屋はいくらでもあった。

レティシアはそのまま、自分の荷物の整理をはじめたので、レオナルドも一旦自室に戻り、着替えを済ませて、もう一度レティシアの自室へ向かった。

レティシアの部屋の扉が目に入ったところで、レオナルドがたどり着く前に、部屋の住人が扉を開けて出てきた。

彼女は部屋に用意されていたメイド服に着替えていて、レオナルドが視界に入ると、彼の方へ向かった。



「お、似合ってる似合ってる!サイズは大丈夫か?」



レオナルドがそう問いかけると、レティシアは無言のまま、小さく頷いた。

レオナルドはレティシアに笑顔を向け、彼女に手を差し出した。



「これからよろしくな」

「……」



レティシアはその手をじっと見るばかりで、握り返そうとしない。

しかも無表情で何も言わないものだから、不思議に思ったレオナルドは少女の顔を覗き込んだ。



「どうしたー?帰ってからちゃんと手は洗ったから汚くないぞー」

「…」

「あれ?ひょっとして臭いのか?」



自分の手を握りたくないのかと勘違いをしたレオナルドがまじまじと自分の手を調べ、しまいにはにおいまで嗅ぎ始めた。



「…仕事を…」

「…え?」

「私は何をすればいい?」



レティシアがレオナルドに話しかけたのはそれが初めてだった。

ブローニングに戻る途中でも、彼女から話しかけてくるどころか、レオナルドが話しかけても頷くばかりで声を発しようとしなかった。

初めて声を聞いたのはニコライの屋敷で、たった一瞬だったし、レティシアの声がどのようなものなのか、今のでちゃんと認識できた。

綺麗な顔立ちに合った、透き通るような声だ。



「あぁ、仕事ならこの家の家事だ。でも今日はいいぞ。怪我だってまだ治ってないだろ?」

「…支障ない」

「え?いや、でもさ…」

「それが私の仕事ならやる」

「…」



きっぱりと言い切るレティシアを見て、レオナルドは少し迷ったが、廊下の奥にある扉に指をさした。



「じゃあ、あそこに掃除道具一式揃っているから…」

「…」



レティシアはレオナルドが指差した扉へ、何も言わず向かった。

その後ろ姿を見ながら、レオナルドは深くため息を吐いて、頭を掻いた。



「(難しい子だ…、あんましゃべんねぇし、何考えてんのかも全然わかんねぇ…。俺この子とやっていけんのか?)」



道具が納められた部屋から、掃除道具を出してきたレティシアに目を向けながら、レオナルドは頭を抱えた。



「(でも、怪我のことは俺の心配しすぎか…。普通に動いているし、なんせ氷の女王って言われてたぐらいだし平気なんだな。)」



普通の子とは違うのだと、レオナルドは納得した。


やっとしゃべったレティシア。

そして言っときますけどメイド服って、黒生地だとかミニスカとか無駄にレースとかひらひらとか付いてるやつじゃないですよ!

もっとシンプルで実用的な感じの!

え?おおざっぱ過ぎる?

気にするなHAHAHAHA!


…ごめんなさい

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