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ゆうかい  作者: 夕霧
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融懐編 8話

その後、クルトは連絡を受けてレオナルドの屋敷にやってきた兵士に引き渡された。

その兵士達と一緒に来た医者にレオナルドの怪我の手当てをしてもらい、大きな怪我ではなかったものの、レオナルドのグラズノフ行きが中止になり、ニコライがブローニングに来ることになった。


手当てを終え、医者が部屋を出て行くのと同時に、外で手当てが終わるのを待っていたレティシアが部屋に入ってきた。



「お、レティシア、お前は怪我しなかったか?」



レティシアはレオナルドの問いに小さくうなずく。

レオナルドはいつものように、レティシアに明るい笑顔を向ける。


「そっか、良かった」

「…っ、あ、あのっ…」



レオナルドの笑顔を見ると、レティシアは彼から目をそらした。

その表情は、どこか苦しんでいるように見える。


すると、レオナルドは、まだ部屋のドアの前から動こうとしないレティシアに、手招きをした。

おレティシアはそれに素直に従い、レオナルドの元へ歩み寄る。

椅子に座っているレオナルドの近くまで行くと、怪我をしていない右手が、彼女の頭の上に乗せられた。



「グラズノフ行き中止になってごめんな。今度は絶対ベルティユちゃんに会わせてやるから」

「…っ!」



レティシアの瞳が大きく開かれ、彼女は何か言いたそうに何度も口を動かすが、そこから中々声は出ない。

その間も、レオナルドの手はレティシアの頭を優しく撫で続けた。

















「よりにもよってこの忙しい時に怪我をするとはな」

「そう言うなよ…怪我人には優しい言葉の一つや二つはかけるもんだぞ」

「気を抜くからだ馬鹿者」

「ひでぇ…」



それから数日後に、ニコライが仕事の関係でブローニングを訪れていた。



「それにしても、見事に俺の頼み無視してベルティユちゃん連れて来てくれなかったんだな、ケチ!」

「ベルティユを連れてくる必要性が全くないだろう。それにあの子は丸一日馬に乗れない」



数日前、ニコライに、“怪我をしてそっちに行けなくなったから、ブローニングに来てほしい。できればベルティユちゃんも一緒に”と手紙を出したのだが、ニコライは数人の護衛を連れてきただけで、ベルティユは連れてこなかった。



「え?そうなのか?噂じゃベルティユちゃんって何でも器用にこなす天才だって聞いたぞ」

「ああ。仕事もすぐ覚えたし頭も良い。芸術や音楽の才能もあるし、大抵のことはすぐ習得するんだが…戦闘や軍事関連の事は全くできない。昔から、そういったことは全てレティシアがやっていたそうだ」

「レティシアが…」



レオナルドはそうつぶやくと、何かを考えるように黙った。

しばらくすると、彼は顔をあげてニコライに尋ねた。



「なぁ、なんで“氷の女王”なんだ?」



唐突なレオナルドの質問に、ニコライも顔をあげて、レオナルドに目を向けた。



「…私が彼女に初めて逢った前から、レティシアはそう呼ばれていた。レティシアと戦って重傷を負った私の兵達は皆、同じことを言った」













『氷のような目をした女の化けものがいる』













「“氷のように鋭く、冷たい”、“戦場に最強の王のごとく君臨する女”“心は氷でできているに違いない”。震えながら兵士達はそう言ってた。その話が広まり、周りが彼女を“氷の女王”と呼び始めた。私も初めて彼女が戦っている姿を見たときに納得した。敵には一切容赦なく、どれだけ敵を殺そうと、返り血を浴びようと、無表情で敵を屍に変えていく。それも外見は13、4歳の少女だ。さすがにあれには私も恐怖を感じた」





レオナルドはその話をどこか納得し、そしてどこかで疑った。

レティシアに初めて逢った時に見た、数人の男相手に戦ったことやクルトの刃を軽く避ける姿で、彼女が戦いに慣れていることを知った。

なによりクルトがレティシアに強い憎しみを抱き、殺そうとしてきたことが、彼女が戦場で多くの命を奪ってきたことを証明した。

ブローニングに来てからすでに数カ月は経っているというのに、ほとんど無表情でいるときしか見たことがないのも事実だ。


レオナルドも時折、彼女は何も感じていないのではないだろうかと思ったことがあったのも事実だ。









「(でも…本当にそうなのか…?)」










本当に心は氷のように鋭く、冷たいのだろうか?

無表情でいるのも、何も感じていないからなのか?







もし、それが本当なら















“私を使わないの?”

















柔らかな風が吹く場所で、彼女の言葉を聞いたときに感じたあの違和感はなんなのだろうか




彼女が少しずつ自分に心を開いてくれているように見えたのは、ただの錯覚なのだろうか







本当に












「レオナルド?」



黙ったままでいるレオナルドを不思議に思い、ニコライが彼の名前を呼んだ。

その呼びかけに気付いたのか気付いていないのか分からないが、レオナルドは急に顔をあげた。



「…俺、今の話は一旦忘れることにする」

「は?」

「だって余計な先入観があると、相手の事誤解するだろ?だから忘れる。思い出すのは、俺自身の目で、耳で、考えで、本当のレティシアを見つけてからだ!」

「…忘れることにすると言って、本当に忘れられるものじゃないだろう」

「そうだけど、まあとりあえず今の話を気にせずにいれば大丈夫だろ」

「…」



おおざっぱなレオナルドの考えに、ニコライはこれ以上釘を刺すのを諦め、深くため息を吐いた。

























オルヴォマ戦が始まる、5カ月と19日前の話

遠くから見たときの相手や、周りの噂



近くらか見たときの相手や、相手の本来の姿






大抵の場合は違っているもんです

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