【単発】侵食する猛薬と、その後に(陸・葵)
◆ 陸視点
「……マジでこれ、具に混ぜて大丈夫なんだろうな」
俺は自分の部屋で、ダークウェブで見つけた怪しい小袋と、握りたての鮭おにぎりを交互に見つめていた。
『思考麻痺型・超強力惚れ薬』――【※1滴で自我が崩壊します。危険につき取り扱い注意】なんて胡散臭い説明を半信半疑で読みながら、俺はおにぎりの具にその液体を数滴垂らした。
18歳になっても、幼馴染の葵と普通の関係から抜け出せない焦り。
ほんの少し、葵が俺にデレてくれればいい――そんな軽い好奇心と甘い考えだった。
ピンポーン。
「陸ー! 遊びに来たよー!」
能天気な声とともに部屋に入ってきた葵は、机の上のおにぎりを見るなり「美味しそう!」と一口で頬張った。
「ん〜! 相変わらず陸のおにぎりは最高――……ん?」
ゴクンと飲み込んだ瞬間、葵の動きがピタリと止まった。
◆ 葵視点
(あれ……なに、これ……?)
おにぎりを飲み込んだ直後、頭の芯がジワリと痺れ始めた。
視界がぐにゃりと歪み、思考が急速に白く塗りつぶされていく。
「葵……? 大丈夫か……?」
陸の声が聞こえる。
でも、「陸は幼馴染」とか「勉強しに来た」とか、そういう当たり前の記憶や理性が、猛烈な熱の波に呑み込まれて消えていく。
残ったのは、目の前にいる男への狂おしいほどの本能的な欲求だけ。
「あ……あ……陸……っ」
体の奥から湧き上がる激しい疼きに耐えきれず、私は喉から熱い吐息を漏らした。
理性のスイッチが、パチンと音を立てて完全に吹き飛んだ。
◆ 陸視点
「葵……!? おい、どうしたんだよ!?」
顔を真っ赤にし、瞳の焦点を完全に失わせた葵が、ハァハァと荒い息を吐きながら俺を見つめていた。
その瞳には、いつもの明るい葵の面影は微塵もない。トロりと蕩けた、危険な雌の顔だ。
(ヤバい……ヤバすぎる!! これマジで自我が飛んでる……っ!?)
危険を察知して後ずさりしようとした瞬間。
ドサッ!!!!
「ぐはっ……!?」
野生動物のような素早さで、葵が俺に飛びかかってきた。
畳の上に押し倒され、俺の上に跨がる葵。18歳の女子の力とは思えない強さで、俺の両首根っこを押さえつけられる。
「あ……葵! 離れろ、落ち着――」
「りく……陸ぅ……っ♡」
「っ……!?!?」
葵が俺の言葉を遮るように、激しく口づけを降らせてきた。
遠慮も何もない、お互いの歯が当たるほど荒々しく、深いキス。
口腔内を犯されるような濃厚な感触に、俺の頭までおかしくなりそうだ。
「んむっ……ふぐっ……んあ……っ!」
「はぁ……はぁ……っ! 陸……陸のにおい……もっと……ちょうだい……っ!」
唇が離れた瞬間、葵は俺の制服のシャツに手をかけ、ボタンをバリバリと力任せに引きちぎった。
布が破れる甲高い音が部屋に響く。
「おい待て! 服破るな……っ! 葵、目を覚ませ!!」
「嫌だ……! 欲しい……陸が欲しい……っ♡」
瞳孔の開いたうつろな目で俺を見下ろしながら、葵は俺の胸元に顔をうずめ、肌に噛み付く勢いで吸い付き始めた。
首筋に走る激しい痛みと、衣服越しに押し付けられる葵の熱い体温。
「陸……私を……ぐちゃぐちゃにして……っ♡」
普段の葵なら口が裂けても言わないような破廉恥な言葉を撒き散らしながら、さらに激しく身体を押し付けてくる。
薬の威力を舐めていた。
自我を失い、欲望の化け物と化した幼馴染に完全に押し切られ、俺の理性もまた、激しい熱の中に呑み込まれようとしていた――。
◆ 葵視点(数十分後)
「……ん……っ……」
頭の奥を支配していた強烈な熱が、まるで引き潮のようにスーッと引いていく。
まぶたを開けると、見慣れた陸の部屋の天井が目に入った。
(あれ……? 私……何してたんだっけ……?)
なんだか体がすごく熱くて、陸に勉強を教えてもらいに来て……おにぎりを食べて……。
「……あ」
そこで、途絶えていた記憶のピースが一気に頭の中に流れ込んできた。
『陸……私を……ぐちゃぐちゃにして……っ♡』
『もっと……陸のちょうだい……っ!』
自分の声。自分の手で陸のシャツのボタンを引きちぎった感触。
理性を完全に失って、陸の上に跨がり、欲望のままに襲いかかった一部始終が、恐ろしいほどの鮮明さで蘇ってくる。
「……っ!?!?!?」
全身の血が逆流するような衝撃。
慌てて横を見ると、肩を肌蹴させ、息を整えている陸がすぐ隣に転がっていた。
床には破れた制服のボタンと、散らかった服。
(う、嘘でしょ……!? 私、私……陸に何しちゃったの――――っ!?!?)
◆ 陸視点
「……ふぅー……っ」
ようやく嵐が去った。
薬の効き目が切れたのか、さっきまで欲望の化け物みたいに暴れていた葵が、突然ピタリと動きを止めてフリーズしている。
「……葵? 目、覚めたか……?」
俺が声をかけた瞬間。
「きゃあああああああああああああっ!!!!」
葵が部屋中に響く悲鳴を上げて、足元の毛布をガバッと頭まで被り、部屋の隅へダンゴムシみたいに丸まって吹き飛んでいった。
「り、陸……っ!? 私……私……っ! なに……なにこれえええっ!?」
毛布の隙間から覗く葵の顔は、茹で上がったタコどころじゃないくらい真っ赤だ。
目には涙をいっぱい溜めて、プルプルと小刻みに震えている。
「落ち着け葵、叫ぶな……」
「落ち着けるわけないでしょぉぉぉっ! 私……私、陸の服破いて……っ! あんな……あんな破廉恥なこと……っ///」
「……お前が変なテンションで襲いかかってきたんだろ。俺は被害者だぞ」
わざと意地悪く言ってやると、毛布の中の葵がさらに縮こまった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 違うの……! 急に頭が変になって……私、陸のこと……そんな目で見……いや、見……てないわけじゃないけどっ///」
パニックになりすぎて支離滅裂な言い訳を始める葵。
自我を失っていたとはいえ、あれだけ激しく求めてきた癖に、正気に戻った途端にこの純情すぎるリアクション。
ギャップが凄すぎて、俺の理性がまた危なくなってくる。
俺はため息をつきながら立ち上がり、毛布にくるまる葵の前にしゃがみ込んだ。
「あんなに激しく『陸が欲しい』って言ってたの、全部嘘だったのか?」
「うっ……うわあああんっ! 嘘じゃない……嘘じゃないけどっ! あんなの私じゃないもん……っ!」
泣きそうになりながら毛布から顔を出した葵の耳元に、そっと顔を近づける。
「……俺は、嬉しかったけどな」
「……え?」
葵がポカンとして動きを止めた。
「……薬のせいだったとしても、お前にあそこまで求められて、俺が冷静でいられるわけないだろ。……俺だって、ずっと我慢してたんだから」
「り、陸……っ……」
俺の言葉の意味を理解した葵の顔が、さらに爆発しそうなほど赤くなる。
「……責任、取れよな。シャツも破られたし」
「う……うん……新しいの、買う……」
「そうじゃなくて」
俺は毛布越しに葵の身体をぎゅっと抱きしめた。
「もう幼馴染なんて言い訳、通用しないからな。明日から覚悟しとけよ」
「……っ/// ……うん……っ」
毛布の中で、葵が小さく頷くのが伝わってきた。
最悪の惚れ薬から始まった事故だったけど、結果オーライってことで……まあ、良しとするか。




