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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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310/322

310話 後世への遺産

無形文化(歌・踊り・儀式・話芸・技法)


これらは本来、時代の流れの中で静かに消えていくはずの文化だった。


文字として記されることもなく、建物や遺物のように形として残ることもない。


人から人へ、親から子へ、師から弟子へと受け継がれていく、生きているからこそ存在できる文化。


だからこそ、一度継承が途絶えれば、二度と取り戻すことはできない。


歌の節回し。

踊りの足運び。

祈りの言葉。

職人の手の動き。


それらは書物だけでは残せない。


本来であれば、戦争や飢饉、疫病、人口移動などによって、数え切れないほどの文化が歴史の中へ埋もれていく運命にあった。


しかし日本は、そうした無形の文化までも、完全保存の対象と定めていた。


「文化記録隊」の創設


世界各地へ派遣された日本の外交官団の中には、必ず記録専門の要員が同行していた。


彼らは外交官であると同時に、記録者であり、観察者であり、文化の保存者でもあった。


彼らは都市だけではなく、村や集落へも積極的に足を運んだ。


彼らの任務は単純だった。


「今、この瞬間にしか存在しない文化を残すこと。」


彼らは民間人とも積極的に接触し、日常生活の中にある文化を、片っ端から記録していった。


記録対象の例


先住民の狩猟儀式


古くから歌い継がれてきた民謡


薬草を用いたハーブの調合法


船大工による木材加工技法


地域ごとに異なる踊りの型


農民たちが歌う収穫唄


祈りの言葉と発声方法


ヨーロッパ宮廷で受け継がれる舞踏


先住民に伝わる死生観の口承


鍛冶職人の鉄の打ち方


食文化における調理工程


地方ごとの祭事(火祭り、雨乞い、聖人祭など)


彼らはただ見るだけではない。


歌であれば、最初から最後まで録音する。


踊りであれば、全身の動きが分かるように複数方向から撮影する。


技術であれば、手の動きや道具の使い方まで細かく記録する。


祈りであれば、声の強弱や間の取り方まで残す。


他国の人々にとって、それらはただの日常であり、特別な価値を持つものではなかった。


だが日本は違った。


日本は、それらの一つひとつが、未来では失われるかもしれないことを知っていた。


だからこそ、すべてを映像・音声・文字へと変換し、体系的な資料として保存していったのである。


「デジタルアーカイブ技術」を使って体系化


明賢の指示によって、保護された無形文化には、厳格な保存手順が定められた。


第一段階


高音質録音と映像記録。


歌や儀式、踊りや会話を、可能な限り多くの角度から記録する。


第二段階


通訳・言語班による言語データ化。


発音。


語彙。


文法。


話者の年齢や地域差。


それらを細かく整理し、後世でも理解できる形へ変換する。


第三段階


学術班による文化的意義の分析。


なぜその歌が歌われるのか。


なぜその祭が行われるのか。


どのような社会構造の中で生まれたのか。


文化の背景まで含めて、詳細な報告書が作成された。


第四段階


宗教・歴史・社会との関係性を整理。


その文化が、宗教や政治、生活様式とどう結び付いているのかを分析する。


単なる記録ではなく、理解可能な知識へ変換するのである。


第五段階


保存。


記録媒体は日本国内の各地に設置されたアーカイブへ分散して収蔵される。


第六段階


バックアップ。


一か所が災害に遭っても失われないよう、火山やプレートを避け、複数の施設へ重複保存が行われた。


こうして、本来なら消えていくはずだった文化は、永遠の研究対象へと変わっていった。


文化保存は世界の学術レベルを数百年繰り上げる


本来であれば、十九世紀から二十世紀になってようやく本格化するはずだった学問。


民俗学。


文化人類学。


言語学。


建築史。


音響史。


それらが、すでに1640年代に体系化され始めていた。


日本アーカイブには、世界中の情報が蓄積されていく。


日本アーカイブの特徴


世界各地の言語の発音データ


民族ごとの儀式の全景映像


歌唱法や発声法の記録


食文化と調理工程


農耕法と季節行事


建築技法の三次元データ


職人の技術と道具の使い方


祭事の意味と歴史的背景


その量は年を追うごとに増え続けた。


一つの村。


一つの祭。


一つの歌。


それらすべてが、失われる前に日本へと記録されていく。


後世の研究者にとって、それは文字通り、宝の山となった。


後世の歴史はこう評価する


後の歴史学者たちは、一六四〇年を特別な年として位置付ける。


「1640年、日本が世界の文化アーカイブ化を開始した年を、歴史学では『文化保存元年』と呼ぶ。」


物質文化だけではない。


言語。


音声。


動作。


技法。


生活様式。


それまで歴史の中で失われていくのが当然だった、無形の文化までもが、体系的に残され始めたのである。


その結果、世界中の文化の観測データ、映像、音声、文字記録は、桁違いの量へと膨れ上がった。


後の時代の研究者たちは、あまりにも多くの記録が残されていることから、


「本当に『失われた文化』というものは存在したのか」


とさえ疑問を抱くようになる。


それほどまでに、日本が始めた文化保存事業は、世界の歴史そのものを変える規模へと成長していくのであった。

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