200話 資源の大陸アフリカ
南の大地へ ― レアアース遠征隊出航
電力と電子が国家の血となり、文明は次の段階へと進もうとしていた。
しかし、電子を操るためには、まだ既存の領土では欠けた血管があった。
それがレアアース(金属希土類)。
ネオジム、ディスプロシウム、イットリウム。
どれも電子機器・磁石・モーターに欠かせぬ元素であり、
国家の電化・電子化を真に独立させるためには、自らの手で掘り出す必要があった。
明建は、地図の果てに赤い印をつけた。
それはアフリカ大陸南端ケープタウン。
未開の山岳地帯にレアアースの鉱脈が眠っていると明賢は言った。
その印は小さかった。
だが、その一点に込められた意味は、あまりにも大きかった。
電子の国が完成するか否か。
その命運は、この遥か南の大地に委ねられていたのである。
レアアース遠征隊の結成
東京湾に集結する艦隊群。
艦尾にはそれぞれ「地一号」「地二号」「白嶺」「高砂丸」などの名が刻まれ、
艦内には大型採掘機、重機、発電車、食糧、そしてプレハブ住宅がぎっしりと積み込まれていた。
鋼鉄の甲板には、まだ新しい機械の匂いが残っている。
油と金属の香りが混じり合い、朝の冷たい空気の中に漂っていた。
明賢の命により、地質探査隊・南方遠征隊が正式に編成される。
その総勢は一万人を超え、技師、作業員、兵士、医療班が同乗した。
旗艦には通信機器と観測装置が満載され、まるで移動する研究都市であった。
出航前夜。
艦内の灯りは遅くまで消えなかった。
地質図を広げる者。
工具を磨く者。
家族への手紙を書く者。
それぞれが静かに、自分の役目と向き合っていた。
目的はただ一つ。
南アフリカ・ケープタウン近郊にレアアース採掘基地を建設し、日本国の電子産業を支える資源網を確立すること。
それは単なる遠征ではない。
国家の未来を運ぶ航海だった。
太平洋航路 ― 羽合、山番市、そして汎名へ
1634年秋の朝、艦隊はゆっくりと東京湾を出発した。
港に集まった人々は、遠征旗を掲げる艦隊を見送り、
新たな「地球の開拓」が始まったことを肌で感じていた。
波は穏やかだった。
まるで、この航海の始まりを祝福するかのように。
まずは羽合で燃料と食糧を補給。
太平洋の中央に築かれた補給港には、すでに海上保安庁の哨戒艇が待機していた。
補給作業は迅速だった。
ホースが繋がれ、燃料が流れ、木箱に詰められた食料が次々と艦内へ運び込まれる。
短い停泊ののち、艦隊は再び海へ出る。
次に艦隊は東方航路を離れ、山番市へ寄港。
北米大陸を背に、西へ、そして南へ。
艦列は雄大な海流に乗り、ゆっくりと進路を変えていく。
やがて視界の先に、巨大な人工の水路が現れる。
汎名運河。
その水門は静かに開かれ、海と海とを繋ぐ巨大な通路が姿を現す。
運河の水面は不思議なほど穏やかで、外洋の荒さとはまるで別世界だった。
遠征艦隊は一隻ずつ、慎重にその中へと進む。
鉄の船体が水路の壁に反響し、低い音を響かせる。
やがて水門が再び開き、艦隊は静かに大西洋へと滑り出していった。
巨大な輸送船の腹から響くエンジン音は、まるで地球の鼓動のようだった。
南アフリカを目指して
赤道を越え、風が変わる。
湿気を帯びた大西洋の風が帆柱を叩き、船体に塩を残していく。
昼は白く強い日差し。
夜は深く、濃い闇。
日が落ちれば南十字星が浮かび上がり、誰もが新たな大陸の匂いを感じ始めていた。
甲板に立つ者たちは、言葉少なに空を見上げる。
その星々の配置は、これまで見てきたものとは違っていた。
見慣れぬ空。
見慣れぬ風。
見慣れぬ海。
だが、そのすべてが、進むべき方向を示しているようでもあった。
「この先には、地球の骨が眠っている。」
地質隊長の一人が、そう呟いた。
その言葉に、誰もが無言で頷いた。
艦隊は嵐を避けながら慎重に進み、時に波に揺られ、時に霧に包まれながらも、確実に南へと進んでいく。
やがて、はるか南方。
水平線の彼方に、黒く連なる影が現れた。
それは山だった。
ケープタウンの山並みが、ゆっくりとその姿を現す。
陽光を受けて赤く輝く大地。
乾いた風が吹き抜ける岸。
岩と土がむき出しになった、荒々しい地形。
誰かが小さく息を呑む。
そこには、人の手がほとんど入っていない世界が広がっていた。
だが同時に、そこには確かに、未来が眠っている。
艦隊は速度を落とし、ゆっくりと進入する。
錨の準備が始まり、上陸隊が整列する。
新たな日本の地ではない。
だが、日本の未来を支える地。
この地で、新たな開発の火が灯ろうとしていた。




