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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第三章 外部拡張主義

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184話 35万人

夜が深まり、指揮所の中に静かな空気が満ちていく。

薄暗いランプの光の下、集まった幕僚たちは机の上に並べられた数字の列を黙って見つめていた。

そこに書かれているのは、ただ一つの数6,570。


それは単なる記号の並びにすぎない。

紙の上では、冷たく、静かで、動かない数字だ。

だが、その数字の背後には、言葉では数えきれないほどの生活が折り重なっている。

食事を作る炊事兵の湯気、補給車を走らせる整備兵の油の匂い、夜を徹して地図を広げる参謀たちの疲れた目。

そうした無数の営みが、この一つの数の背後で静かに息づいている。


師団長はゆっくりと数字を見つめ、静かに口を開いた。

「数字は実態を持たない。だが、その裏には無数の皿と汗、そして眠れぬ夜がある。」


その声は決して大きくはなかったが、指揮所の空気に深く染み込んでいった。


「これが国を守る厚みだ。」


その言葉に、幕僚たちは言葉を返さなかった。ただ静かにうなずく。

彼らもまた知っているのだ。

数字の背後にある現実を。

兵舎の灯り、泥だらけの靴、寒さの中で握る銃、そして遠く離れた家族のことを思う兵士たちの静かな時間を。


そして彼らは理解していた。

この編成は固定されたものではないということを。


戦いが訪れるとき、この師団は必要に応じて拡張される。

別の師団から支援が加わり、砲兵が増え、補給隊が厚くなり、兵力は状況に応じて変化する。

戦場というものは静止した図面ではなく、生き物のように動き続けるものだからだ。


だからこそ、この編成は柔軟であることを前提に設計されていた。

数字は決まっていても、その運用は決して固くない。


それは戦いのための備えであると同時に、平時における国の約束でもあった。

橋が壊れれば施設兵が直し、災害が起きれば輸送隊が物資を運ぶ。

師団とは単なる戦闘組織ではなく、社会を支える巨大な仕組みでもある。


外では風が吹き、掲げられた師団旗がゆっくりと揺れていた。

兵舎の間を歩く兵士たちの足音が、乾いた土を静かに踏みしめる。


師団は今日も、大地の縁を確かめるように、静かにその存在を広げていくのだった。


・師団あたり:6,594人

・師団数:45

・付帯人員(医療・整備・補給・司令幕僚・事務・兵站):+20%



師団7,889人

陸軍355,005人


陸軍再編が完了した1630年、国家はまるで大きく息を吸い込むように、その新しい体制を整えた。


四十五の師団が大地の各地に配置され、その総兵力は 三十五万五千五人。

それは単なる軍隊の規模ではなく、一つの国家が動かす巨大な力の形だった。


彼らの姿は、ただ銃を持つ兵士だけではない。

戦う者だけでなく、築く者、運ぶ者、支える者、癒やす者、無数の役割が一つの師団の中で重なり合っている。


師団の周囲には必ず衛生兵が立ち、負傷者を治療する準備を整えている。

整備兵は工具を手に油まみれになりながら車両や機械を直し、補給兵は帳簿と地図を広げて食糧と燃料の計算を繰り返す。


野営地の背後には、車両整備所が並び、医療テントの白い布が風に揺れる。

炊事場からは湯気が立ち上り、通信中継所では絶えず電波と信号が行き交っている。


こうして一つの師団は、まるで小さな都市のように機能していた。


東京陸軍司令部の作戦室では、世界各地からの報告が通信線を通じて絶え間なく届く。

北方では、雪上車のキャタピラがアラスカの氷を噛みしめながら進み、白い大地に長い轍を残していた。


南方では、湿気の濃いジャングルの中で施設兵たちが汗を流しながら道を切り開いている。

木々を切り倒し、土を均し、輸送路を確保する、それもまた戦力の一部だった。


サンフランシスコ司令部では、大陸横断鉄道の沿線を守る鉄道保安隊が巡回を続けている。

長い線路は国家の動脈であり、それを守ることは国の生命を守ることに等しかった。


一方、シドニー司令部では、砲兵隊が強い陽射しの中で砲を整備していた。

金属の表面が熱を帯び、整備兵が布で油を拭き取るたび、鈍い光がきらりと反射する。


この三十五万人を超える陸軍従事者の中で、実際に銃を構えて戦う兵士は決して多数派ではない。

むしろ、その背後にいる兵站を支える人々のほうがはるかに多い。


水を運ぶ者。

燃料を補給する者。

通信線をつなぐ者。

橋を架ける者。

そして倒れた仲間を担ぎ、命をつなぐ者。


そのすべてが揃ってはじめて、一つの師団は呼吸することができる。


日が沈むと、各地の野営地に灯りがともり始める。

炊事場では米が炊き上がり、湯気が夜の空気に溶けていく。


整備兵はエンジンの音に耳を澄まし、通信兵は切れたケーブルを手際よくつなぎ直していた。

遠く離れた場所で行われているそれぞれの作業が、見えない糸のようにつながり、巨大な軍を動かしている。


司令部を訪れた明賢は、その光景を思い浮かべながら地図を見つめていた。

世界各地に散らばる無数の灯りを、頭の中で一つの地図として結びつける。


彼は静かに呟いた。


「この光が、我々の国の血流だ。」


その声を聞いた幕僚たちは、静かにうなずいた。

彼らもまた理解している。


この軍は、ただ戦うためだけの存在ではない。


戦闘だけを目的とした軍ではなく、

国を動かすための陸の網それが今、ようやく形となったのだ。


夜風がゆっくりと吹き抜け、整然と並ぶ兵舎の灯りが揺れる。

空には無数の星が広がり、その光に呼応するように地上の灯りが瞬いていた。


この三十五万の兵士たちが、それぞれの場所で静かに役割を果たしている。


彼らは目立つ存在ではない。

だが確かに、国の大地を流れる静かな血流として、今日も国を支えていた。

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