182話 多数の師団
東京総司令部の設立
日本の首都・東京。
ここに「日本陸軍総司令部」が設けられた。
灰色の空の下、厚い鉄筋コンクリートで造られたその建物は、まるで都市そのものを支える柱のように静かに立っている。
この本司令部は、世界に広がるすべての陸軍師団を束ね、作戦・補給・教育・編成の最終決定権を持つ中枢であった。
地下には有線通信線が張り巡らされている。
各大陸の現地司令部と直結する回線は、遠く離れた地の報告を即座に運ぶ。
紙の地図の上で引かれた線が、そのまま電流となって世界を走る。
司令室の中央には巨大な地図。
赤と青の印が無数に並び、師団の配置と補給線が一目で分かるように整理されている。
静かな部屋。
だがその内側では、世界規模の鼓動が響いていた。
本土十一師団
東京本司令部の傘下には、日本列島全域を網羅する十一の師団が配備された。
それぞれは地域特性に合わせた防衛・補給・工兵・戦闘の複合部隊。
地理と気候、産業と交通を理解した上で配置されている。
•関東師団(東京・横浜・千葉・埼玉)
•北陸師団(新潟・富山・石川)
•東北師団(仙台・青森・秋田)
•中部師団(名古屋・静岡・長野)
•北海道師団(札幌・旭川・函館)
•九州師団(博多・熊本・鹿児島)
•近畿師団(大阪・京都・神戸)
•山陽山陰師団(広島・岡山・松江)
•四国師団(高松・松山)
•琉球師団(那覇・宮古・石垣)
•台湾師団(台北・高雄)
それぞれの師団は地元出身の兵士を中心に編成され、「自らの土地を自らの手で守る」という思想のもと、高い士気を誇った。
郷土の山を知り、川を知り、風を知る兵。
その知識は戦術と同じ価値を持つ。
山番市陸軍司令部
次に作られたのが、太平洋の向こうの大陸、山番市司令部である。
この司令部は、広大な北米大陸全域と中南米の一部を管轄した。
山番市の丘の上に建つ本部庁舎は、日本からの輸送船によって運ばれた鉄筋とコンクリートで築かれた。
通信塔が空に突き立ち、地下には発電設備と無線・有線の通信網。
壁一面に貼られた大陸地図。
そこに並ぶ無数の師団印。
点ではなく、網。
大陸二十余師団
その配下には、二十を超える師団が置かれた。
西海岸から東部のノーフォークまで。
そして南のパナマ、さらに南端のフォークランド諸島まで。
海岸線をなぞるように師団が配置され、大陸を守る「陸の鎖」を形作る。
山番市、サンディエゴ、バンクーバー、シアトル、ロサンゼルス、ポートランド、アルバカーキ、カルガリー、サンアントニオ、ヒューストン、カンザスシティ、ミネアポリス、シカゴ、クリーブランド、オタワ、ケベックシティ、アトランタ、ニューオリンズ、ノーフォーク、ジャクソンビル、マイアミ、チャールストン、ハリファックス、パナマ、フォークランド。
その広がりは、大陸そのものの輪郭をなぞっている。
この師団群の特徴は明確だった。
鉄道と港湾を中心に展開していること。
兵士だけではない。
工兵、補給部隊、通信兵が常に隣り合って動く。
一度命令が下れば、どの都市からでも即座に部隊が動く。
線路が兵を運び、港が物資を送り、通信塔が命令を伝える。
戦うためだけではない。
支えるための構造。
東京の指揮と山番市の現場が、一本の通信線で結ばれている。
世界規模の陸軍は、こうして静かに形を整えていった。
シドニー陸軍司令部
最後に、南半球のシドニー司令部。
ここはオーストラリアと南太平洋諸島を統括する基地である。
シドニー湾を見下ろす高台に、石造りの堂々たる司令部が建てられた。
南洋の暑さを防ぐため、厚い断熱壁と深い庇が特徴的だ。
強い日差しを遮り、海風を取り込む設計。
ここには海軍とも連携する統合作戦室が置かれ、太平洋南部の防衛と輸送を一手に担っている。
陸と海。
二つの力が同じ机を囲み、同じ地図を見つめる。
南洋九師団
配下には九つの師団が所属した。
•シドニー
•オークランド
•メルボルン
•ブリスベン
•アデレード
•パース
•ダーウィン
•ポートモレスビー
•グアム
この地の師団は、防衛一辺倒ではない。
支援と展開能力に重点を置き、鉱山都市や港湾都市の守備、物資輸送、災害時の緊急派遣など、多様な任務を担っていた。
広大な砂漠地帯。
熱帯の島嶼。
長大な海岸線。
環境が異なれば、求められる力も異なる。
そのため各師団は、輸送車両と工兵部隊を厚く持ち、迅速な展開を最優先に設計されている。
守るだけでなく、動く。
それが南洋陸軍の本質だった。
三大陸の骨格
こうして、三大陸に跨る陸軍の司令体制は形を成した。
東京。
山番市。
シドニー。
三つの都市は、それぞれの大地を繋ぐ三本柱となる。
北半球の中枢。
大陸の拠点。
南洋の展開基地。
通信線が海を越え、鉄路が大陸を貫き、港が世界を結ぶ。
陸軍の力は国土を超え、世界規模で動き始めていた。
明賢は司令部の地図を見つめ、静かに言った。
「これでようやく、世界に広がる日本を守る骨格ができた。」
その声は誇示ではない。
完成でもない。
骨格とは、肉と血を通わせてこそ意味を持つ。
守る力。
支える力。
動く力。
三大陸を結ぶその構造は、静かに、しかし確実に脈動を始めていた。




