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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第三章 外部拡張主義

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168話 機関科

二号炉 ― 実用化への鍛錬段階へ


2号炉は臨界当初からから、「完成品」として扱われることはなかった。


それは成果ではなく、出発点。

固定された装置ではなく、改良を前提とした存在。


育てる発電所。


その言葉が、公式記録にも残された。


この炉の役割は単なる発電ではない。

安定した出力を出すだけでは不十分である。


艦艇に載り、戦場に出る原子炉。

揺れ、衝撃、破壊、孤立。


そのすべてを前提に、あらゆる状況を想定した訓練と改良が始まった。


実験ではない。

実用化への鍛錬である。


静音性強化計画


最優先された課題は、静音性の極限化であった。


2号炉はすでに静かだった。

だが「静か」では足りない。


潜水艦に搭載される以上、求められるのは検知不能の領域である。


従来の強制循環ポンプは、どうしても振動と音を生む。


軸受の回転音。

冷却水の流水音。

微細な振動の累積。


それらは極小であっても、金属製の船体では拡大される。


そこで目指されたのが、次世代・自然対流型原子炉。

•冷却材の温度差による密度変化のみで循環

•ポンプ停止状態でも炉心冷却が成立

•振動源を極限まで削減


強制循環を前提としない設計。

物理法則そのものを利用した冷却。


温度差が流れを生み、流れが熱を運ぶ。


回転機械に依存しない。

電力に依存しない。


ポンプが止まっても、冷却は止まらない。


それは安全性の向上でもあった。

同時に、音源の根絶でもある。


研究班は、「音が存在しない原子炉」という領域へ踏み込んでいった。


前世でも到達が難しかった概念。

だが今、それを実機で試す環境がある。


振動計が設置され、床・壁・配管の各部で微小振動が計測される。


削減。

改良。

再計測。


その繰り返しが、静寂をさらに深めていった。


被攻撃時の対策訓練


2号炉では、平時運用だけでは評価されない。


想定されるのは、攻撃を受けた状況下での運転である。


そのため、建屋全体が訓練場となった。


想定は多岐にわたる。

•建屋外部への砲撃

•冷却系配管の破損

•電源喪失(完全ブラックアウト)

•制御室損壊

•炉心部分への直撃想定(最悪ケース)


机上の想定ではない。


一部系統を意図的に遮断し、非常電源を停止し、通信を遮断した状態での運転が実施される。


そのすべてで検証されたのは、次の三点。

•自動停止が成立するか

•手動操作へ即座に移行できるか

•炉心損傷をどこまで抑えられるか


制御棒は確実に落下するか。

圧力は急上昇しないか。

自然対流は維持されるか。


記録装置は秒単位で挙動を残す。


訓練中の制御室は静かだが、空気は常に張り詰めている。


「最悪」を前提に動く。


それが、2号炉の鍛錬だった。


発電所としての完成ではなく、戦場に出すための完成。


2号炉は、運転されながら鍛えられていく。


止まらないために。

壊れないために。

そして、暴走しないために。


 人が主役の炉


明賢の思想は、一貫して揺らがなかった。


「どれだけ自動化しても、最後に炉を守るのは人間だ。」


自動停止機構。

重力落下式制御棒。

多重冷却系。


技術は整えられている。


だが、それでもなお最終判断を下すのは人である。


だから2号炉は、機械中心ではなく「人間中心」の思想で運用された。


自動化に依存しすぎない。

装置の完成度を過信しない。


人が理解し、人が判断し、人が介入できる構造。


それが前提だった。


そのため、2号炉では人員配置が意図的に厚くされた。


合理化よりも、冗長性。

効率よりも、確実性。


配置人員


2号炉の制御体制は、明確に役割分担されていた。

•主任機関士(海軍機関科将校)

•副機関士

•炉心管理担当

•冷却系統担当

•電力・タービン担当

•放射線管理担当

•非常時対応要員


主任機関士は、全体の最終責任を負う。

数値の意味を理解し、異常の兆候を読む。


副機関士は常に隣に立ち、二重確認を行う。


炉心管理担当は、中性子、反応度、燃料状態を監視する。


冷却系統担当は、圧力、温度、流量の微細な変化を追う。


電力・タービン担当は、回転数と負荷の安定を保つ。


放射線管理担当は、線量変化を常に把握し、区域管理を徹底する。


非常時対応要員は、平時は静かに控える。

だが一度警報が鳴れば、最短時間で動く。


特に重視されたのは、点検員の存在だった。

•日常点検

•微細な異音・温度変化の把握

•計器値の「違和感」を読む訓練


数値が正常範囲内であっても、「いつもと違う」を察知できるか。


それが求められた。


耳で聞く。

手で触れる。

空気の振動を感じ取る。


2号炉は1号炉よりも複雑に設計されている。

だからこそ、単純な自動監視では足りない。


人間の目。

人間の経験。

積み重ねられた直感。


それが、最後の防壁だった。


海軍機関科の学び舎


2号炉は、やがて海軍機関科の専用訓練施設となる。


ここは単なる発電所ではない。

未来の艦隊の心臓を担う者たちの養成所である。


ここで学んだ人員は、将来

•原子力空母

•原子力潜水艦

•原子力巡洋艦

•極地観測船


その心臓部を任される。


炉を理解し、圧力を理解し、静音の意味を理解する。


教科書だけではない。

実機での運転。

実際の緊急訓練。


計器が示す数値の背後にある物理を学ぶ。


彼らは単なる技術者ではない。


「艦を生かす者」として育てられていく。


艦が進むための核心。

それを守る者。


それが彼らの役割だった。


二号炉の立ち位置


2号炉は、一つの性格に収まらない。

•発電炉であり

•試験炉であり

•教育炉であり


実際に出力を生み出す。

改良試験を繰り返す。

人材を育てる。

そして、未来の艦隊設計の基準となる。


技術的母体。

精神的母体。


2号炉は、日本の原子力艦の始点であり、その思想を形にした存在であった。


機械は鋼鉄でできている。


だが、それを生かすのは人間。


2号炉は、人が主役であることを前提に動く炉だった。

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