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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


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152/163

152話 碁盤の目

鉄の網、陸を縫う 北米大陸鉄道網拡張計画


ロサンゼルスからニューオリンズを結んだ大陸横断鉄道の完成から数年。


新たな時代の脈動は、止まることを知らなかった。


太平洋岸の港から出る貨物列車は、昼夜を問わず走り続ける。

鉄鉱石、石油、木材、機械、穀物。


積荷は絶えず、車輪は休まない。


それを見送る港湾労働者や家族たちの胸には、ひとつの確信が芽生えていた。


この鉄路は、一過性の事業ではない。


時代そのものなのだ、と。


だが、それは始まりに過ぎなかった。


明賢の命のもと、北米大陸全土を縫う鉄道輸送網拡張計画が発動する。


目的は単なる輸送量の増大ではない。


都市と都市。

港湾と採掘場。

農村と工業地帯。

そして、これから生まれる無数の新都市。


それらを一本の線路と道路で結び、文明そのものを網へと変える。


点ではなく、線でもなく、面へ。


やがて立体へ。


線路と道路、格子の大陸を描く


測量班は六分儀を携え、緯度と経度を精密に割り出していった。


地図の上に線を引くのではない。

大地そのものに線を刻む。


平原を貫き、荒野を横切り、丘陵を越える。


主要道路は二十キロごとに格子状に敷設された。


東西へまっすぐ。

南北へ正確に。


わずかな誤差も許さない直線。


その交点が町の核となり、市場が立ち、倉庫が建ち、やがて学校と診療所が続く。


道路は生活の骨格となり、鉄道は経済の動脈となる。


格子はやがて、大陸そのものの秩序へと変わっていった。


各線路の接続は、次々に報告される。


ノーフォーク方面から伸びた東部線は、

バンクーバーから伸ばされた北方線と五大湖畔で合流。


バンクーバーからの鉄路は、湖水の青を背に東西線と結ばれた。


さらに南では、ジャクソンビル方面の南線が、湾岸を走る海岸線鉄道と接続。


交点には必ず中継基地が置かれる。


給水塔。

整備工場。

通信局。


そして、住宅区。


線路が交わる場所には、人が集まる。

人が集まる場所は、町になる。


町はやがて都市となり、都市は網の結節点となる。


草原では、ハンマーの打音が乾いた空に響く。


ディーゼル機関の唸り声が、地平線の彼方へと流れる。


敷かれていくレールは、ただの鉄ではない。


それは方向を与えるもの。

流れを生むもの。


どこまでも続く直線の先に、次の接続点が待っている。


鉄の網は、いまや陸を縫うように広がっていた。


かつて点在していた都市は、線で結ばれ、やがて面として統合される。


大陸は、ひとつの巨大な構造体へと変貌しつつあった。


 日本から運ばれる鉄と技術


日本本土では、南方の広大な資源地帯、南大陸から輸送された鉄鉱石が、八幡の高炉の中で赤く溶けていた。


昼夜を分かたぬ炎。

炉の奥でうねる白熱の鉄流。


その奔流はやがて精錬され、高強度のレール材となり、巨大な車輪となり、精密なディーゼル機関部品へと姿を変える。


北九州の製鉄所では、長大なレールが真っ直ぐに延ばされ、火花を散らしながら冷却される。


室蘭の工場では、極寒にも耐える鋼材と車軸が組み上げられていく。


完成した部材は検査を受け、番号を刻まれ、梱包される。


それらは鹿島の港へと集積され、巨大な貨物船へと積み込まれた。


船団は二つの航路を選ぶ。


太平洋を横断し、山番市へ向かう航路。


あるいは、パナマ運河を抜け、大西洋側へ回る航路。


いずれの海路も、鉄の循環を支える重要な動脈だった。


やがて北米大陸の各港には、日本の国旗をなびかせた貨物船が列をなす光景が広がる。


太平洋の中継地であるハワイで補給を受け、運河を越え、ノーフォークやニューオリンズへ、次々と到着する船団。


甲板には、巨大なレール束。

鋼鉄製の車輪。

分解された鉄橋のパーツ。

重量級ディーゼルエンジン。


港湾クレーンが唸りを上げ、貨物は陸揚げされる。


そこからはトラック、あるいは仮設線路の機関車で、各地の組立工場や建設現場へ直送。


港は眠らない。


夜間も投光器が海面を照らし、荷役作業は続く。


鉄の流れは、止まることを許されない。


鉄路と文明の息吹


線路が延びるたび、街の灯が増えていく。


幹線道路の周囲には商店が並び、貨物集積所が建設され、倉庫が立ち並ぶ。


鉄路に沿って電柱が立ち、電線が空へ伸びる。


通信線は町と町を結び、列車の運行情報と市場の価格を即座に伝える。


列車の音は、もはや珍しくない。


朝の出勤時。

夕暮れの帰宅時。


低いエンジン音とレールの響きは、生活の一部となった。


貨物列車が通るたび、沿線の子供たちは手を振る。


工場の煙突は、その汽笛に応えるかのように白煙を上げる。


鉄と煙と振動。


それが日常となる。


「この大陸は、もうひとつの日本になる。」


開拓局の監督官が静かに呟いた。


その言葉は、鉄と土にまみれた作業員たちの胸に刻まれる。


それは支配の宣言ではなく、構造の宣言だった。


港と都市を結び、生産と消費を循環させ、海と海を閉じる。


やがて北米の地図は、無数の鉄と道路の線で塗りつぶされていく。


南北。

東西。


それは巨大な回路図のようだった。


すべての線路は港へ集まり、港には数十隻の輸送船が並ぶ。


汎名運河通過の順番を待つ船団。


太平洋から大西洋へ。

大西洋から再び日本へ。


鉄は巡り、資源は巡り、技術は巡る。


輪は繋がった。


そして新大陸の文明は、完全な循環を始めたのである。

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