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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


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150/159

150話 バンクーバー隊上陸

北方線開発 バンクーバー隊の使命


灰色の海霧を抜け、冷たい潮風を受けながら、艦隊は静かに湾内へと滑り込んだ。

目指すは太平洋北部の天然の良港バンクーバー。


甲板の上には厚手の外套を羽織った工兵たちが整列し、岸に広がる濃い針葉樹林と、遠く雪を頂く山々を見つめている。


彼らこそ「開拓第八部隊」。

北方線の開発を担う、新たな先遣の民であった。


「ここが北米北部の要衝か。」


指揮官の一人が低く呟く。

測量班長が湾の奥行きを確かめながら頷いた。


「水深は十分、波も穏やか。港を築くには理想的です。北はアラスカ、南は山番市まで陸路を貫く基点となりましょう。」


その視線の先には、氷雪と森林に包まれた広大な大地が広がっていた。


上陸後、港湾整備は即座に始まった。


埠頭を沖へ延ばし、大型船が横付けできる岸壁を築く。


燃料タンク、石炭備蓄庫、補給所。

次々に基礎が打たれ、木材が組まれる。


周囲の森林から伐採した材木は乾燥小屋へ運ばれ、仮設住宅や作業場へと姿を変える。


やがて霧の中、灯台が完成する。


白い光が北の海を横切り、輸送船に安全な航路を示す。


その灯りは、単なる目印ではない。


「ここに拠点がある」という宣言でもあった。


続いて始まったのは、鉄道と道路の敷設。


まず南進班が出発する。

目標はシアトル、さらにポートランドを経て、山番市から伸びる幹線との合流。


測量班は方位磁針と六分儀を用い、緯度経度を揃えながら、できる限り直線のルートを探る。


だが北西部の地形は甘くない。


山岳地帯。

深い谷。

急流。


岩盤を穿ち、トンネルを掘削し、谷には鉄橋を架ける。


寒風の中、氷雪を払い、凍った地面を砕きながら、作業員たちは一歩ずつ前進する。


白い息が空へ立ちのぼり、金属音が森に反響する。


「この線路が繋がれば、西岸は一本の背骨で結ばれる。」


指揮官が設計図を広げる。


南北に貫く鉄路。

港と港を結ぶ動脈。


「東へ、南へ、資源も人も一気に流れるようになります。」


森林資源。

鉱石。

漁獲物。


それらは鉄道に積まれ、山番市を経て大陸内部へ流れ込む。


そして内陸の物資が、再び北の港へと戻る。


循環が生まれる。


夕暮れ。


霧の向こうに、敷設されたばかりの短い線路が光る。


その先はまだ空白。


だがその空白こそ、彼らの使命だった。


北方線が完成すれば、西岸は孤立した点の集合ではなく、連続した構造となる。


港、都市、鉄路、道路。


それらが一本の骨格で結ばれたとき、北の海から南の湾岸まで、西海岸は真の意味でひとつの帯となる。


冷たい海風の中、第八部隊は黙々と作業を続ける。


霧の向こうにある未来を、鉄の線で確かに掴むために。


同時に、北上班もアラスカを目指して進軍を開始した。


北へ行くほど、自然は容赦をなくす。


降りしきる雪。

凍りつく大地。

延々と続く針葉樹林。


トラックのエンジンは凍結し、潤滑油は固着し、鋼鉄のレールは寒気でわずかに縮む。


工具に触れれば素手の皮膚が貼りつくほどの冷気。


それでも隊は止まらない。


旧松前藩出身の寒冷地専用の工兵たちは、その環境に慣れきっていた。


「雪が降っても地面は測れる。氷の下でも線路は通せる。」


彼らは凍結した河川の上に仮設橋を架け、冬季輸送路として活用する。


春になれば氷が解ける前に、橋脚を打ち込み、そのまま鉄橋へと造り替える。


季節そのものを工程に組み込む設計。


雪原に赤い測量旗が並び、白と赤が続いていく。


さらに西へ向かう別働隊は、内陸へ大きく舵を切った。


目標はウィニペグ、そして五大湖方面。


この横断路線は、北米大陸の北を「横に貫く」壮大な構想だった。


平原を走る鉄路は、地平線と並行にどこまでも伸びる。


やがて到達するのは、広大なスペリオル湖。


そこからさらに東へ。

将来はノーフォーク方面から伸びる東部線と接続し、北部横断の動脈を完成させる計画である。


南北の背骨に対し、東西の梁を通す。


構造は、少しずつ立体化していく。


通信班もまた、黙々と任務を遂行していた。


鉄路に沿って通信ケーブルを敷設し、拠点ごとに中継所を設ける。


凍土に溝を掘り、線を埋め、支柱を立てる。


「この線はただの銅線ではない。情報の道でもある。」


若い通信兵が誇らしげに語る。


列車の運行。

資材の不足。

気象の急変。


それらは即座に共有され、数千キロ離れた司令部へ届く。


鉄が物資を運び、銅が情報を運ぶ。


二つの線が、文明の神経となる。


数年ののち。


北米西岸から東岸へ、日本の技術と労働による「鉄の大動脈」が、形を帯び始める。


雪に覆われたバンクーバーの港から、春の湿原を越え、五大湖の青へ。


仮設街には夜ごと灯りがともり、焚き火の周りで工員たちが語り合う。


「いつかこの鉄路を、汽笛を鳴らして走る列車が渡るんだ。」


「日本から積んだ鉄と夢が、ようやくここまで来たんだな。」


白い息が夜空に溶け、遠くで機関車の試験運転の音が響く。


指揮官は黙って頷いた。


北の風は鋭い。


だがその冷気の中で、人々の胸には確かな熱が灯っている。


雪原に刻まれた一本の線。


それは単なる鉄路ではない。


北の大地を越え、海と湖を結び、やがて大陸を一体化させる未来の骨格。


凍てつく空の下で、その未来は、確かに形を取り始めていた。

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