表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
148/158

148話 鉄路は続く

西海岸、山番市を中心に、北へ、南へ、そして東へと伸びる線路は、まるで大地に張り巡らされた血管のように広がっていた。


太平洋から吹きつける潮風が砂塵を巻き上げる。

乾いた風の中をトラックが走り抜け、地平線の彼方には、レールを敷く工兵たちの列が黒い帯のように続いている。


「こっちの枕木、あと二十本だ!急げ!」

「了解!次のレール接続まで二時間で終わらせろ!」


掛け声が飛び交い、鉄のレールが一本、また一本と正確に並べられていく。


金槌の音、ボルトを締めるドライバー、ディーゼル機関車の試運転の汽笛。


乾いた大地に、文明の音が刻まれていく。


その先頭には山番開発局の旗を掲げた指揮車両。

測量班が三脚を据え、緯度と経度を確認しながら、わずかな誤差も許さぬ直線を描き出していた。


山番市。


いまや太平洋沿岸最大の拠点。


かつて仮設の桟橋に過ぎなかった港は、巨大なコンクリート防波堤に守られ、外洋の波を受け止めている。


港湾部ではクレーンが昼夜を問わず動き、鉄材、石材、木材、食料、機械部品が積み上げられる。


ドックには輸送船が何隻も停泊し、太平洋を越えて本土と結ばれている。


都市中心部には電線が縦横に張り巡らされ、夜になれば街灯が一斉に灯る。


砂と岩の大地に、秩序だった光の格子が浮かび上がる。


「東への線路はあとどれくらいだ?」


測量士が地図を広げる。

赤い線は山番市から内陸へ、真っ直ぐに伸びている。


工事監督が指先で示す。


「砂漠地帯の手前まで来ています。もうすぐニューオリンズ隊が東から伸ばしてきた線路と繋がるでしょう。」


その言葉に、周囲の作業員たちが一瞬手を止める。


東西から伸びた二本の線。


それが、ついに接続される。


「ようやく大陸がひとつの道で繋がるわけだな。」


誰かが小さく息を吐く。


太平洋。

メキシコ湾。

大西洋。


それぞれが、これまでは別々の海だった。


だが鉄路が通れば、一両の貨車がその全てを貫く。


山番市から積まれた貨物が、内陸を越え、南東部を経て、遠く北の湖へ届く日も近い。


夕暮れ。


太平洋の水平線が赤く染まり、線路の上に長い影が落ちる。


遠くで、東へ向かう工兵たちの隊列が小さく見える。


彼らはまだ知っていた。


自分たちが打ち込む一本のボルトが、歴史の接続点になることを。


だが確かに、東と西は近づいている。


やがてその日、二つの線路が触れ合う瞬間、この大陸は地理ではなく、構造として、ひとつになるのだった。


その背後では、別の隊が沿岸部のさらに南へと進んでいた。


山番市から離れるにつれ、地面は砂を多く含み、踏み締めれば乾いた音がする。

低い灌木を抜け、起伏の少ない丘陵を越えると、やがて温暖な海岸線が姿を現す。


青い海。

白い波。


そこではすでに、漁港の建設が始まっていた。


桟橋を打ち、魚の加工場を組み上げ、冷蔵倉庫の基礎を固める。


漁船が数隻、試験的に出航し、戻るころには桟橋の上に小さな競り市が立つ。


それは軍港でも大都市でもない。

だが、海と共に生きる拠点。


やがてそこに学校ができ、診療所が建ち、小さな商店街が並ぶ。


町の芽が、砂浜の上に根を下ろし始めていた。


一方、北方。


森林地帯では伐採隊がチェーンソーと機械で木々を倒し、木材はそのまま港の拡張工事へと回される。


入り江を浚渫し、桟橋を沖へ延ばし、防波堤を強化する。


この港は将来的に、羽合や副嶺島への航路を結ぶ中継地となる計画だった。


太平洋を横断する航路網の節点。


山番市を中心に、海もまた網のように結ばれていく。


工事現場の隅。


若い測量士が双眼鏡を覗き込み、遠く伸びる線路を追った。


「数年前、ここにはただの荒れ地しかなかったんだよな。」


その言葉には、まだ信じきれないという響きがあった。


隣の工兵が頷く。


「ああ。けど今じゃ海から山まで鉄の道が通る。次は大陸のど真ん中だ。日本の鉄道が、新大陸を貫く日も近い。」


彼らの背後で、ディーゼル機関車がゆっくりと動き出す。


白煙が夕空に溶け、レールが鈍く光る。


夜。


山番市の街に灯がともる。


整然と並ぶ街灯。

港の照明。

倉庫の窓から漏れる明かり。


太平洋の風が吹き抜け、遠くで汽笛が鳴る。


港に停泊した輸送船の甲板から、整備士の一人が東の闇を見つめて呟く。


「いずれ、この道が大西洋まで続くのかな」


その問いに答える者はいない。


だが、誰も否定もしない。


東西から伸びる鉄路は、いま確実に距離を縮めている。


かつて辺境と呼ばれた西海岸。


だが今、そこは終端ではない。


海へ開き、内陸へ伸び、南北を結ぶ。


港は門となり、鉄道は脊椎となる。


山番市は、太平洋の果ての町ではなく、大陸を繋ぐ新たな文明の玄関口として、静かに、しかし力強く動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ