表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/127

101話 航路選定

未踏の海図 ― 航路計画と未知への挑戦


未来から来た紙切れ


まだ、誰も正確に世界の果てを知らぬ時代。


日本国の中枢に設けられた、ひとつの静かな会議室で、異様な光景が広がっていた。


厚い木の机の上に並べられているのは、これまで誰も見たことのない形をした海図。

「現代の世界地図」の複写だった。


羊皮紙でもなければ、既存の航海図とも違う。


線は異様なほど滑らかで、大陸の輪郭は、まるで完成図のように迷いがない。


「これが」


若い航海士が、思わず声を漏らした。


「これが、全世界の海、なのですか」


言葉を失ったまま、彼は地図の上を指でなぞる。


見たことのない大陸。

聞いたことのない海域。

だが不思議と、そこには虚構の匂いがなかった。


明賢は、その反応を確かめるように静かに頷いた。


「そうだ。ただし。」


彼は、地図の中央に視線を落としたまま続ける。


「この形が正しいとは限らん。地形が変わってしまっている可能性もある」


一同が息を呑む。


「だがな」

明賢は言った。

「少なくとも、我らの足跡を導く灯にはなる」


紙の上に描かれた大陸の輪郭は、

この時代の人々にとって、

まさに、未来から差し出された贈り物だった。


明賢は、現代で得た知識とデータを慎重に分解し、誤差を織り込んだうえで、必要最低限の情報だけを海図に写し取っていた。


それは全知ではない。

だが、致命的な無知を避けるには十分だった。


星と磁針だけの航海


もっとも、未来の道具は、紙の上までしか来ていない。


艦隊には、GPSもなければ、ロランシステムも存在しない。


艦上で頼れるのは、超低速の通信装置、六分儀、磁気コンパス、そして夜空に瞬く星々だけである。


夜になると、航海士たちは必ず甲板へ出た。


冷たい風に晒されながら、六分儀で星の角度を測り、星図と照らし合わせる。


「この星が南中した角度が」


誰かが呟き、別の者が計算を引き継ぐ。


それは、誰も知らぬ海を渡るための、たった一つの拠り所だった。


間違えれば、大海原に飲み込まれる。


だが、星は嘘をつかない。


航路の決定と寄港地の設置


赤線が引かれるたび、世界が縮む


航路は、一度で決まったわけではなかった。


軍、外務省、国土交通省、造船所。

それぞれの立場から意見が出され、地図の上には何本もの仮線が引かれては消えた。


最終的に定められた航路は、明確でありながら、大胆なものだった。


東京湾を出航。

まずはハワイ諸島へ向かう。


ここで、前線基地を設置する。


補給、修理、医療。

太平洋横断の要となる拠点である。


「ここに一つ、港を作ろう」


明賢が、地図を指で叩く。


「将来、太平洋航路の中継地として使えるように」


その言葉と同時に、地図の上へ一本の赤線が引かれた。


次なる目的地は、アメリカ西海岸、サンフランシスコ。


未知の大陸と接触し、補給と情報を得るための重要地点だ。


さらに南下し、パナマ地峡へ。


ここでは、スペインとの交渉が避けられない。


運河はまだ存在しない。

艦隊は南回りで進み、中南米沿岸を慎重に下る。


そして、フォークランド諸島。


人影の薄いこの地にも、小規模な拠点が置かれることになった。


上陸隊と物資を残し、将来のための足場を築く。


「ハワイ、アメリカ西岸、パナマ、フォークランド」


そう整理したのは、外務省の官僚でありながら航海術にも精通する三条大輔だった。


「この四拠点が、日本国の新しい海の道を繋ぐ柱になる」


彼はその航路を、日の本の環と呼び、海図の端にその名を小さく書き込んだ。


アマゾンを目指す目的と帰還の約束


種子に託された未来


最終目的地は、南アメリカ大陸、アマゾン流域。


そこには、日本の工業発展に不可欠な資源、パラゴムノキの原生林が広がっている。


採取隊は、植物学者、軍人、工兵の編成となる。


危険な動植物、過酷な気候、未知の病。


それらを前提としたうえで、安全を最優先に種子を回収する計画だった。


回収された種子は、専用の冷却容器に封じられる。


温度、湿度、振動。

すべてが管理対象だ。


「これは、ただの種ではない」


最終会議で、明賢はそう言った。


「この国の未来を形作る、命の種だ」


誰一人、軽く受け取る者はいなかった。


回収を終えた艦隊は、来た航路をそのまま辿り、日本へ帰還する。


各寄港地には、先遣隊が残される。


彼らは帰らない。

少なくとも、すぐには。


気候を調べ、資源を測り、人が住めるかを確かめる。


それは、この航海が一度きりの冒険ではないことを示していた。


航路は、すでに描かれた。


あとは、実際に、その線の上を進むだけである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ