第五話 質疑応答の時間
「ありがとうございます。そちらの事情はよく理解できました。いくつか、質問をしてもよろしいですか?」
質問を申し出たのは城塚健司だ。ロボットの顔には口も表情筋も付いていないため、見た目から得られる情報は少ない。
「はい、もちろんです」
回答したのは熊ヶ谷真理子、母親の方だ。
AIの方は、説明の役目を終えたためか、正面を向いたまま無表情に固まっている。口も表情筋も使うつもりはないようだ。
「あなたの息子さんの体はとても条件がいいです。僕以外にも候補者はたくさんいるのではないですか?」
若くて健康でその上イケメンというのであれば、欲しい人はたくさんいるはずだ。
「いいえ、交渉中の相手はあなた一人です。たしかに息子の体を欲しいと言ってくれる方は数名おりました。例えば、手足や、臓器だけの提供を求める方、私達夫婦は生体部品としての切り売りは全てお断りしております。また、男性の体が欲しい女性の方、若い体が欲しい老人の方、中にはそれなりの金額を提示してきた方もいましが、これらの方も丁重にお断りさせていただきました。私達夫婦は、お金が欲しいのではありません。若い男性の脳が欲しいのです。私達夫婦の息子になっていただける方にしか、息子の体を提供することはできません。この厳しい条件が候補者を限定しています」
熊ヶ谷真理子は、旧式のロボットの目をまっすぐに見つめ真剣に話した。その口調、表情から条件を緩和する気はないという強い意志が読み取れた。
「僕には僕の両親が既にいます。僕がどんな姿になったとしても、その二人が両親であることは変わりません。それに、仮に僕が息子さんの体に入ったとしても、記憶や性格は僕のままです。見た目が同じでもそれはあなたの息子ではなく、僕なんです。あなたの息子さんにはなれません。それでもいいんですか?」
人間的なふるまいをする息子を求めているのであれば、AIよりは幾分かましになるかもしれない。しかし、性格が違いすぎればAIよりひどい結果になるかもしれない。
「おっしゃることは理解できます。あなたの脳が息子の体に入ったとしても、それは息子が生き返るという意味ではない。あなたに息子を演じてもらったとしても元通りの家族に戻れるということはない。しかし、それはあなたのご両親も同じことです。脳があなただとしても、見た目は私の息子になるのです。あなたのご両親も全く見た目の違う他人の姿で現れた存在を息子と認識するのはそれなりの覚悟が必要です。おそらく元の家族に戻ることは難しいでしょう。しかし、元通りにはならなくても新しい関係を創っていくことならできます。現在のご両親を捨てろとは言いません。あなたはあなたのご両親と、私達夫婦の二つの家族の息子になるのです」




