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浜辺の出会い ②

「殺されかけた!?」


 レイラは王子の言葉に、ただ驚くことしかできなかった。

 王都レスボラへは一度も行ったことがないが、おおよそ血生臭いこととは無関係だと思っていた。


 国王は大変民思いの人物で、だからこそレイラたち〈ゴールドバロン海賊団〉は処刑されることなく活動を続けていられるのだ。それだけ人望に熱い人物だから、その子息であるルイス王子もそうなのだろう。そんな親子を憎み、反乱を起こすような人物が存在していたなんて……。


「その……、反乱を起こそうとしている人物って、どんなヤツなの?」


「この国の(さい)(しょう)で、僕の母方の叔父(おじ)にあたる人物だ。名前はシャロフ・ネビータ。叔父は自分が何の権力を持っていないことが不満で、僕たち王族――というか父と僕の権力を奪い、この国を手に入れようとしているんだ。悪徳商人たちと手を組んで」


「なるほどね。悪徳商人たちは自分たちの財産が国に管理されていることが気に入らなくて、王さまを憎んでる。あの人たちはもっとお金儲けをしたいはずだものね。そこで、王権をひっくり返したいその宰相と利害が一致して手を組んだ。そんなところ?」


 宰相もまた、悪徳商人たちが儲けた金で私腹を肥やそうと企んでいるのだろう。そういうのを、東洋のことわざでは「同じ穴のムジナ」というのだと、レイラは知っている。


「君は頭がいいんだな。だいたいそのとおりだ」


「でも、宰相なのに権力を持ってないっていうのは? 仮にも王妃の弟、つまりは王さまの義理の弟にあたる人なんでしょう?」


「王家のしきたりでは、国王の配偶者の兄弟姉妹に王族と同等の権力は与えられないことになっているんだ。だから王の執務を代行することはできても、そこに王と同等の権力は行使されないんだよ」


「えっ、そうなの? 知らなかった」


 こうして王子とこんなキッカケでも知り合えなければ、王家のしきたりなんて知ることもなかっただろう。


「しかし、レイラ……と言ったっけ? 叔父の狙いはどうも、国を乗っ取ることだけではなさそうなんだ。僕には、もっと大きな……とてつもなく大きな別の狙いがあるような気がしてならない」


「別の狙い?」


「叔父はどうも、海賊を根絶やしにしようとしているらしい。そして、悪徳商人たちの船でこの世界のすべての海域を牛耳ろうとしているようなんだ。僕が船の上で襲われたことも、偶然ではないかもしれない」


「そっか。王さまはあたしたちみたいに、残虐な行為をしていない海賊には恩情を与えて下さっているものね。それが、宰相は気に入らないということか」


「そうなんだ。叔父は海賊そのものを毛嫌いしているから、父上が恩情をかけていることが理解できないんだろう」


 それなら、シャロフ宰相はどうしてわざわざ船の上でルイス王子を手にかけたのか。


「まさか、宰相は王子を亡き者にしようとした罪を海賊に被せようとしてるの?」


「その可能性は高いと思う」


「そんな……!」


 海賊がみな、残虐な略奪行為を行っているわけではない。レイラたち〈ゴールドバロン海賊団〉のように、宝は奪っても人の命までは奪わないということを信条としている海賊団だっているのだ。

 それなのに。よりにもよって王子に危害を加えた罪を海賊だから被せてしまえばいいなんて卑劣なことこのうえない。身に覚えのない罪で投獄される海賊もたまったものではないだろう。


「……すまない、レイラ。実は、僕もそう……なんだが」


「えっ?」


「海賊というのはみな、荒くれた者たちばかりだと思っていたんだ。だが、レイラは違うようだな。謝らなければならない」


 王都で実際の海賊と接点を持たないまま育ったルイスは、〝海賊〟という存在をおとぎ話の中の悪役でしか知らなかったのだろう。それはそれで仕方のないことだとレイラは思った。

 レイラが都での暮らしを知らないように、彼もまた海賊という種類の人間がどんなものなのかを知らなかっただけなのだ。


「謝らないで、王子。……確かに、この町で暮らす海賊はみんなどこかに(きず)を抱えたならず者たちだよ。でも、みんなが荒くれ者っていうわけじゃないんだ。中には乱暴なヤツもいるけど……。あたしたち〈ゴールドバロン海賊団〉は人に危害を加えることを良しとしてないんだよ。宝は奪っても命までは奪わない、それがあたしや父さんの信条だからね」


「そうか……。君たちのような海賊もいるんだな。こんな目に遭わなければ、僕も一生知ることがなかったかもしれない」


 ルイスが目を細めてそう言った時、階下でドアの開く音がした。


「……あ、父さんが帰ってきたみたい。あたし、ちょっと下に行ってくるわ。王子は気にせずにゆっくり休んでて」


「ああ、すまない」


 ベッドに横たわったまま小さく詫びるルイスに微笑みかけて、レイラは(しょく)台のロウソクの灯りを頼りに階下へと下りていく。

 玄関へ行くと、父バリーは酔い潰れていて、ドリーに担がれていた。プンと強く酒の匂いがする。


「レイラ、親父さん連れてきてやったぜ。やたら上機嫌でさ、完全に酔っ払っちまってるよ」


「悪いね、ドリー。父さん、重かったでしょ?」


「いや、平気だよ。じゃ、オレは帰るから。――なあレイラ」


「ん?」


「船の上で話したことだけど、……やっぱりいいや。おやすみ」


 彼はレイラに夕刻の話を蒸し返そうとしてやめ、自分の家へと帰っていった。

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