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15.5話 恋華の《血の契約》

「ティティちゃん、おいで

 

 んー、よしよーし、かわいいなぁー」


豪華な装飾の施された部屋の中で、恋華は小動物のようなモノと戯れていた。


その身体は白く、金色紋章のような物が全身に描かれており、どこか高貴な雰囲気を纏っているのに、そのネコは、どこか異質な雰囲気を孕んでいた。



「まったく、あなたは何体召喚する気なんですか……?」


 部屋の扉が開く音共に、目の前に広がる光景に呆れたセシスの声が部屋に響く。


 部屋の中に居たのは白いネコ一匹ではない。小鳥や、イヌ、ハムスターなど、数々の小動物が部屋の中で息をしていた。


「かわいいから……つい、ダメですか?」


「ダメとかじゃないんですよ、普通、召喚獣は召喚後、一時間程度で消えるんですよ、それをそのネコは何日いますか? もう3日目ですよ、本当、意味が分からない。」


 額に手を当てながら、呆れるセシス。その呆れの理由は、恋華の召喚獣の異常性だった。その異常性に無自覚な恋華は、心行くままにかわいい召喚物を召喚し続け、もう十匹近くの召喚獣が部屋にいた。


「わたし……そんなに変ですか?」

 

「ええ、変ですよ、別に悪い意味じゃありませんが」


 セシスの反応におどおどする恋華だが、未だ手はネコを捕まえたままで、なでながらセシスの言葉を聞く姿に、セシスはまたも呆れていた。


「これ、置いておきますよ。まったく、召喚獣に餌なんて、おもしろいことを言う人です」


 セシスはそう言うと、大袋に入った餌を扉の前に置いた。


「ありがとうございます。

それと、別に普通じゃないですか? ペットに餌って」


「召喚獣はペットじゃないんですよ。そもそも、召喚獣はあなたの魔力を使って顕現するはずなんですよ? それがなんで、こんなに長くいるのか」


 どこかズレた恋華の言葉は、セシスの頭を悩ませ続ける。それそのはずだった、そもそも元居た世界でのペットとこの世界でのペットの概念は違う。


 この世界のペットは、顕現した召喚獣を特定の媒体に定着させてやっと手に入るもの、数十年と召喚魔法を使わないと成しえない技術。それと同等の技術を、いや、それに似た異様な技術を、恋華は無自覚にも持ってしまっていた。だからこそ、なのもあるのだろう、恋華の召喚獣に対する気持ちは、元居た世界でペットのハムスターを飼う程度のものだった。

 

 明らかにペットを飼う難易度の差がそこには在り、セシスは恋華のそれに振り回されていた。


「でも、魔法がこんなにも早く安定してよかったです。これで試験には間に合いそうです」


 動揺しながらも、ほっとした様子でセシスはそう言葉をこぼす。それに、不安げな様子で恋華は言葉を返した。


「あの……やっぱり帰れないんですか? 元居た世界には」


 恋華は元居た世界に帰りたがっていた。無理もない、というか、これが転移者のあるべき姿なのであろう、“転移”に望みをかけた馬鹿でもない限り、大抵は望まずして“転移”に合う。いきなり未曽有の地に飛ばされるのだ、帰りたいと思うのが当たり前である。

 

「私も昔はそう考えて、色々調べたんですがね、結局帰る方法が見つかることはありませんでしたよ。」


 過去を見つめる虚ろな目は、寂しそうに言葉を紡いだ。

 恋華同様、セシスも“元は”転移者である、この世界に足を踏み入れてからの年数の違いから、ペットに対する基準などが異世界に染まっていても、返りたいと思う心は、今もセシスの胸の内にあるのだろう。


「セシスさんは……界斗のこと、嫌いですか?」


「えぇ、嫌いですよ。転移に抗おうとしても、ただ絶望するだけなのに、それをわかっても突き進む馬鹿者を、私は許せません。」


「絶望させないために、保護しようとしたんですか? 優しいんですね」


 不意に吐かれた恋華の言葉に、セシスは少し動揺する。


「私は、ただ見たくないだけです。醜くも抗う愚か者どもを」


 恋華の言葉に、そしてなぜか自分に、やさしいと言ってくれた恋華の言葉を否定するように、セシスは一人でに呟いた。


「まぁ、いいんですよ、こんな話は。あなた、もう召喚術は安定してきましたか? 聞くまでもないとは思いますが一応。」


「はい、なんなく使えますけど……」


「では、本日の午後、私の部屋に来てください。色々とやりたいことがあるので、あと昼食はいつも通りこの部屋に持ってきますので」


 セシスはそう言い残して、部屋を後にした。


 数十分後、セシスによって部屋へと運ばれた料理はどれも気品のある器に彩られていた。

 食べるものもどこか高級そうなものばかり、ただの昼食だというのに、見栄えまでしっかりと考えられた料理たちは、恋華の目に高級フレンチのように映った。


 恋華はセシスに連れられてからのここ一週間、綺麗な花形の髪飾りを模した《ブロート》を手に入れ、魔術を使う練習に励んできた。

 セシスによって貸し与えられたのは、《ブロート》の他に、界斗が持っているのと同じ翻訳された魔術教本、セシスはどこからかそれを手に入れ、恋華に召喚術を使う技術を与えていた。

 使っているのが召喚術なのは、ただ動物が好きだからで、魔法の練習など全くしていない。今の恋華には下級の召喚獣を召喚することはどの属性でもお手の物だが、魔法となると未だ難しかった。



「あのー、色々したい事っていうのは……」


 セシスの部屋に足を運んだ恋華は、身体を震わせながらセシスに問いかけていた。

 身体が小刻みに揺れるのは、未だ恋華がこの屋敷に慣れていないからだろう。祷慈との戦闘の際、本人は否定していても祷慈によって四大名家と揶揄されたその事実は正しく、セシスに連れられ屋敷にやってきた際、目に映ったガードル家の屋敷は、元居た世界では考えられないほどの大きさだった。

 その屋敷の大きさに圧倒され、恋華が自分の部屋の生活にやっとの思いで慣れたのも2日前の事だった。

 だからこそ、自分の部屋でないセシスの部屋など緊張感を感じずには居られなかった。


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ、何もやましいことはしません。ただその《ブロート》を進化させようと思ったのですよ。後これをあなたに」


 セシスの言葉と共に、恋華に見せられたのは、綺麗な藍色の腕輪だった。

 今にも引き込まれそうな深い藍色は、すぐに恋華の心をつかんだ。


「これは?」


「私が使う杖だとでも思ってください。簡単に言えば召喚術を安定させるための武器ですよ」


 それは、界斗が選び取って刀のような物。武器というのが正しいかと言われれば、少しズレた回答のような気もするが、それがセシスの持つ杖と同じ働きをするのは間違いではなかった。ただ一点、セシスの持つ杖の異常な点を除いて。


「まぁまぁ、これはまだ使えないんですけどね。こちらに来ていただけますか?」


 セシスは握った腕輪を持ったまま、部屋の奥へと足を運ぶ。


 部屋の奥にあったのは祭壇だった。

 そう、今からセシスが行おうとしている儀式は、界斗に施されたもの同様、《血讐フェーデ》だった。


 恋華は少し異様なセシスの部屋の作りに圧倒されながらも、少し不気味にも備え付けられた祭壇へと向かう。

 

「あの……ここにいるだけでいいんですか?」


「いえ、《ブロート》をこちらに」


 そう言われて、恋華は頭に付けていた髪飾りをそっとセシスに手渡す。


 祭壇の上に置かれた藍色の腕輪と花形の《ブロート》に、これから何が始まるのかと疑問を抱いていた恋華に、次の要望が投げかけられる。


「少し恋華さんの傷を付けても大丈夫ですか?」


 セシスは優しくそう問いかけながら、ポケットから刃渡り数センチの小さなナイフを取り出す。


「傷を……ですか?」


「指先を少しだけ……ですよ」


 怯えながら恐る恐る恋華は手を差し出した。

「世界よ、この誓いを聞き給え」


 セシスの握ったナイフによって、恋華から少し流れ出た血が、祭壇の上の腕輪と《ブロート》に垂れ落ちる。


 界斗どうよう、それは《ブロート》の進化を促す儀式、《ブロート》に刻まれたのは、白色の紋章で、描かれたのは《ペンタクル》、セシスの予想通り、召喚術の適正を表すものだった。



――――――――


 恋華が部屋をあとにした後、セシスは儀式の終わった祭壇に向って呟く。


「やはり白色、『人ならざる者』ですか……、まったく。どこまで世界は私をコケにするのでしょうか。ねぇセシスお坊ちゃま、私にも何かああいった力があれば、あなたを救えていたのでしょうか」

 

 目を赤くしながら紡がれたセシスの嘆きは、無駄の大きなその部屋に静かに響き渡った。

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