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14話 神の慈悲

 全身を覆う黒い布に、頭には白い被りもの、首からぶら下げた十字架は、やはりトゥレイアが聖職者であることを示しているのだろう。


 やっと教会の中にそれらしい人物が現れたことに、界斗は少しだけ安堵した。


「ゆ、歪・界斗です。よろしくお願いします」


 少しぎこちない挨拶で、界斗はトゥレイアに言葉を返す。

 『人モドキ』、それに立ち向かうと決めても異世界人との会話には少しの恐怖心がついてくる、トゥレイアは噛み噛みの挨拶を披露する界斗に少し笑う。


「大丈夫、私は君たち転移者は人間派だから。安心して、軽蔑したりなんてしない。この隣にいる馬鹿を除いてね」


 そう優しくトゥレイアは言うが、界斗に向けられる優しい視線とは違い、祷慈に向けられるのは突き刺すような鋭い視線だった。


「んなこた、どうでもいいから。さっさとこいつを治療してやってくれ」


 祷慈がそう言うと、トゥレイアは仕方なさそうに界斗の元へと近づく。

 

 目前に近づいてきたシスターに界斗は少しドギマギするが、平常心を装うとする。が、


「服、脱いでくれる?」


 突如放たれた言葉に、界斗の心はかき乱される。


 界斗は言われた通り服を脱ぐ。祷慈にもらったシャツを脱ぎ、あらわになる包帯に巻かれた身体は、眺めるトゥレイアの顔を渋くさせる。


「よく動いてられるわね」


 そう言い放つトゥレイアの先には、白い包帯にしみこんだ赤色の血が、明らかに欠けた肩が、穴の開いた足と腹があった。


「治せるか?」

 

 深刻な傷を目の前にため息を吐くトゥレイアに、祷慈は問いかける。


「当たり前よ、なめないで」


 トゥレイアは祷慈の問いに強気な口調でそう返すと、腰の横に携帯していた本を取り出す。


「《祝祭ヨール》」


 トゥレイアの言葉に反応するように、手に持った本が宙に浮かぶ。さっきまでとは違う口調で放たれる詠唱のようなものには、やはり聖職者としての貫禄が生まれる。


「聖典よ、我が願いに答えたまえ。」


 トゥレイアによって詠唱と思われるものが紡がれるに連れて界斗の周りを光の粒子のような物が覆っていく。


「神リディアに願う。我が目前の迷える子供に祝福を与えよ」


 光の粒子が、祭壇を築き上げる。宙に浮いていたはずの聖典は、気が付けば完成した祭壇の中央で、その姿を輝かせていた。


「《第一音 癒シノ歌(コンフォート・ソング)》」


 教会の鐘が、旋律を奏でる。鐘だけではない、どこからかピアノの旋律のような音も聞こえてくる。笛の音も、バイオリンの音も、一つの旋律を奏で始める。


「これは……」


 魔法ではない何か、界斗は目の前に広がる光景に目を奪われていた。


「《響奏神歌リディア・ソング》、っていうのよ」


 目を奪われている界斗に優しい口調でトゥレイアは言った。

 《響奏神歌リディア・ソング》、それは魔術の内には入らない外部の力。神リディアによって、聖典を持つもののみに与えられる術の一式である。


 《第一音 癒シノ歌(コンフォート・ソング)》、トゥレイアの詠唱によって奏でられた旋律は、徐々に界斗の肉体を癒していく。旋律が続くにつれて、やがて光の粒子は、人の形を象り、手にはそれぞれが武器を持っている。


 粒子に象られた楽団は、美しい音色を奏でている。その姿に目を奪われていると、気が付けば界斗の身体は元通りになっていた。


「終わりね」


 トゥレイアの言葉と同時に、旋律はとまり楽団は姿を消す。見惚れていた光景の終わりに、界斗はふと自分の身体を見ると、包帯は取れており、傷も綺麗に無くなっていた。


「ありがとな、トゥレイア」


「あんただったらやってないわよ」


 祷慈の感謝の言葉に、トゥレイアはそう言い返す。


「どう? 身体の調子は」


 トゥレイアの言葉に、界斗は身体をそれとなく動かしてみる。

 腕を回したり、柔軟をしてみたり、青年に傷を負わされてできなかった動きが問題なくできる。


「動ける……、ありがとうございます」


 やっと動くようになった自分の身体に目を輝かせながら、界斗もトゥレイアに謝意を述べた。


「うし、じゃあ次はこっちだな。界斗、どれが使いたい」


 祷慈の言葉に指さされたのは、壁に置かれた武器だった。


 飾られているのは数多の武器、剣一つを取っても大剣、短剣、通常の剣に、刀まである。

 武器はどれも丁寧に飾られており、刃こぼれ一つない刀身や、錆びのない武器の数々を見れば、どれも一級の品であることは、素人である界斗にも伝わった。


 またも界斗は目を奪われた、どれを自分の武器とするか、どの武器にも興味をそそられる。魔法を主体と使うために杖にするか、近接を主体にするために斧や剣にするか、選ぶ界斗の姿はあと数十分は続くだろうと思われた。が、界斗はスッと一つの武器を指さした。


 界斗は見惚れていたのだ。森の中で初めて救われていた時から、祷慈の振るう一つの武器に。


「俺は、これが使いたいです。」


 選び取られた武器は、一本の刀だった。

 黒い柄に銀色の刃、祷慈の戦いに見惚れていた界斗は、迷うことなく刀を選び取った。


「いいセンスしてんじゃねぇか」


 刀を指した界斗の姿に、祷慈は少しうれしそうにそう言った。

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