13話 教会の聖女
界斗と祷慈の二人は、少し時間が経ったあと、二人で食卓を囲っていた。
時間は7時ほど、青年との戦闘からは、丸一日ほどたっていた。
「なんで、あのお坊ちゃまに渡したんですか?」
少し納得が行かない様子で、界斗が祷慈に問いかける。
界斗は『人モドキ』という事実を受け入れ、それを背負ってでも生き抜くことを決意したが、祷慈が恋華をセシスに預けたことがまだ納得できていない様子だった。
「仕方ないだろ? こっちはお前だけで精一杯なんだ」
祷慈の理由は、界斗が予想していたよりも経済的だった。だからこそ、祷慈の言葉に少しだけ納得しかける。が、やはり自分を劣等種だと蔑んできたセシスの事を思い出すと、界斗は祷慈の判断に納得が出来ない。
「それでも、もっとやりかたがあるんじゃないですか? あいつは、危険ですよ」
「さぁ、どうだかな。俺はあいつは言葉通りお前らを保護する気だったかもしれねぇぞ。」
祷慈の言葉に、界斗は少し納得しかける。その裏には、セシスが言葉の端々に見せた妙な優しさとも捉えらる言動がちらつくからだった。が、それでもやはり自分の身体を傷つけた人間を信用することはできない。
「でも……、あいつは、」
「まぁ、何かあるんだろう。あいつはガードル家ってのも否定してたしな。」
祷慈の言葉に、界斗は氷の中から見ていたセシスと祷慈の掛け合いを思い出す。確かに、蔑んでいるにしては妙な言い合いだったし、セシスからは殺意が感じられなかった。それは界斗に対して魔法を放った時も同様、明らかに致命傷を避けていた。
「まぁ、文句があるなら勝つんだな。大丈夫、俺が教えてやるんだ、絶対勝たせてやる。」
「言われなくても、勝ちますよ」
祷慈の言葉に、界斗は強気な口調で、加えて確かな決意を持って言葉を返した。
二人が料理を食べるスピードは、時間が経つに連れて進んで行く。熱いスープも、辛い料理も関係ない。界斗は自分の力不足を実感していた。だからこそ、界斗は一刻も早く修行がしたかった。そしてそれに呼応するように祷慈も料理を食べ進め、二人はそそくさと夕飯を食べ終わった。
夕飯を食べ終わった界斗は、外はもう暗いというのに修行をしようと玄関の扉を開ける。一刻も早く修行がしたい、その思いから外に飛び出そうとした時、祷慈が呼び止める。
「今日はやめとけ、そのボロボロの身体でやっても悪化するだけだ。」
祷慈に呼び止められた界斗の身体は、祷慈が言った通りボロボロだった。セシスとの戦闘で負った傷がまだ直りきっておらず、体中が包帯に巻かれていた。
「でも、俺は強くならないと」
「身体がボロボロじゃあ、勝てる勝負も勝てねぇよ。」
勝利に必死な界斗はなんとか修行をしようとするが、祷慈の言葉に勢いを失う。
「とりあえず今日は寝とけ、明日になったら修行できるようにしてやる。あと、ついでにお前に必要な武器も渡してやる。だから今日は寝てろ」
明日には修行ができるという発言と、新たなる武器という力、祷慈の言葉に提示された希望に、界斗は目を輝かせる。
「本当ですか!?」
「あぁ、もちろん」
祷慈の言葉に言いくるめられ、界斗は寝室へと向った。
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次の日、二人は新たなる武器と界斗の身体を回復させるため、森を進んでいた。
「どこ行くにしても森なんですね」
日の光を遮る木々の中、代り映えしない景色に界斗はそう吐き捨てる。
「仕方ねぇだろ。数年前はここら辺も荒れてたんだ、下手に見えやすいと襲われて終わりだ」
祷慈の言葉に見え隠れする昔の時代背景のようなものに、界斗は仕方ないかと頭の中で納得した。
「見えてきたぞ」
足を進めていた際、木々の隙間から入ってくる光の量が多くなるのと同時、祷慈が口を開く。
「これが、武器庫……ですか?」
どこか微妙な反応をする界斗の目に映ったのは、綺麗な教会だった。
円描くように木々が無くなり開けた空地に、ひっそりとその教会は佇む。
白色の壁に、屋根の上には巨大な鐘を載せ、入り口と思われる扉の上には大きな十字架が飾られている。
「武器庫ってわけでもないんだがな、ここは偽神殿って言われてる。まぁ、色々なんでもできるところだよ。」
祷慈の言葉を耳に入れながら、教会のそばまで行くと、案外建物が大きいことに界斗は圧倒される。元居た世界ではこういう建物を目に入れたことがなかったこともあるのだろう。初めて感じる特異な雰囲気に、界斗は少し気圧されていた。
「何してんだ?」
祷慈の言葉ハッとすると、足早に教会の中に立ち入る祷慈の後を追いかける。
玄関は木製の大きな扉で、圧倒された界斗は、祷慈の後ろに隠れるように教会の中に足を踏み入れた。
教会の中は、界斗の予想とは少し異なったものだった。一般的に描かれる教会の内部のように椅子が並べられている訳ではなく、壁には武器が飾り付けられ、天井のガラスから入り込む太陽の光にその身体を輝かせており、その先には祭壇のような場所がある。
武器を手に入れに着た場所ならばその光景は正しいのだろう。が、教会という神聖的で平和的であるはずの場に並べられたそれとは真逆の位置にある武具たちは、やはりどこか界斗に異質さを感じさせる。けれども、その異質さは確かに神聖さを孕んでおり、界斗を緊張感に包み込む。
またも雰囲気に呑まれている界斗を置き去りに、祷慈は教会の内部を見まわす。
教会の内部を一周するように見回すと、何か気に入らなかったのか、ハァと大きなため息を吐く。
「ッチ、トゥレイアのやつ、今は居ねえのかよ」
ため息と共に、祷慈の口から愚痴があふれる。トゥレイアという聞いたことのない名前に疑問を抱いていると、あまり大きくはない声だったはずなのだが、教会に響き渡ってしまった祷慈の愚痴に、どこからか返答が返ってくる。
「あのねぇ、なんの連絡もよこさないで来たくせに、そんなことよく言えるわね」
教会内に響く足音と共に、どこにあったのかもわからない扉が開く。悪態をつきながらどこからか現れた女は、シスター服に身を包んでいた。
聖職者と呼ばれる存在なのだろうか、二人の前に姿を見せたトゥレイアと呼ばれた女は、界斗が元居た世界で何度かみたことがあるシスターの服装で現れる。
初めて見るそれらしいシスターという存在に、界斗は少しだけ目を奪われる。
「あぁ、君が例の少年か。よろしく、私はトゥレイア・ターンコート、この西の偽神殿、《リズスキャルフ》の管理をしている物好きよ、よろしくね」
トゥレイアは、優しい雰囲気とにこやかな笑顔を用いて自己紹介をした。




