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面白い話をする貴女がいけないのだと私は思う

作者: ameri_snow

社会人になって三年目の私には、一ヶ月に一度だけ会う友人がいる。


そんな彼女とは特別仲がいい訳ではないが彼女とは小・中学校が一緒だった。

程々の距離感が心地よく、友人関係も全くの別で、だからと言って出てくる名前が分からない訳でもなく共通の情報を持っていて、好きな事を好き勝手に話せる理想的な『お友達』だ。


そんな彼女は毎度変わった話を持ってくる。

特に刺激的なのはお金の話。


私は模範的な行動をなるべく取るようにしているが、彼女の周りは中々にヤンキー気質を持った人間が揃っているようで、お金の貸し借りやギャンブルなどで起きるトラブルでいつもいっぱいとのこと。


今日はとある焼肉店で彼女と向かい合い、愚痴なのか自慢話なのか分からない話を聴いている。因みにこの食事は彼女持ち。どうやらスロットに勝ってご機嫌のようだ。



「あいつ私から二十万借りてるくせに、また貸してくれとか頭おかしいだろ? しかも裏では新車買ってるし」


私はそれに対して相槌を打ちつつホイル焼きをひっくり返す。


「それでどうしたの?」


そう聞き返すと彼女はため息をつきながら「一万だけ貸した」と答えた。


「なるほどなるほど」


これは私が彼女に対してよく使う魔法の言葉だ。

正直私にとって一番変わっているのは「あなたです」と言いたくなるのを抑えてくれる。

同時にスロットの勝ちが思いのほか大きかったのだろうと察する。


「それで追加の一万も含めたお金は返ってきそう?」


「さあどうだろ。まあ悪い奴ではないし、長い目で見るつもり」


「お~~」


中々のどんぶり勘定に私は拍手をしたくなった。さては万枚出たな?

でもこの程度は軽いジャブである。


「それで彼氏の方はどうなの?」


「彼氏? 今の? それとも前の?」


「どっちもに決まってるじゃん」


すると彼女は難しそうな顔をして答える。


「元カレの分はもう諦めた。達也に関してはどうだろ……今月には返して貰える予定ではある」


「ほほう」


因みに彼女が発する「予定」という単語はいつも「未定」に変換される。

いや、これが冗談じゃないの……。


「彼が返してくれるって本当に思ってる? どこかで諦めてたりしない?」


私が更に深く突っ込んでみると、彼女は不満げに返す。


「そんなことないって」


ああこれは図星だ。

というか何故そんな男と付き合っている?


「あなたってどうしてこう人に対して甘いのかしら?」


「甘いって、別に誰彼構わず渡してるって訳じゃない。私だって人から借りることもあるし、そこはそれなりの関係があるというか……」


それなりとはどういった関係なのだろうか。

先日、彼女の友人は首が回らなくなり二人本土へ高飛びした。

別の友人は車の事故で檻の中。

更に別の友人は給料の未払いで、同級生たちから追い回され、私も話したことがある男子は大学生相手に詐欺をし、百名以上から金を騙し取った。

しかも一人当たり五十万以上。直ぐに儲けが出るからとア〇ムやプ〇ミスに借りさせる醜悪っぷり。もっとも糞野郎なのはまだ二人ほどいるが、ここで語ることが出来ないとだけ言っておく……。


そしてこれら全員が小・中学校私たちと同じなのである。

どれだけやばい地域なんだと突っ込みたくもなるが、三人に一人が母子、または父子家庭と全国二位の離婚率は伊達ではなく、彼女もまたその中の一人。


母と彼女の二人暮らしから、今は五歳になった娘を加えた三人暮らし。

今日は母親に娘を見てもらっているようだ。


「人付き合いも大事だけれど、周りの人間のせいであなたが苦しむの私嫌よ?」


「うーーん。そうなんだけどねぇ」


もしかして彼女はそういった人間なのだろうか。

非日常や不幸を感じる事によって自身の生を実感できるみたいな。

世の中にはそういった人がいるかもしれない。

でもそれは不健全だ。

こうやって目の前の肉をつつきながら駄話するぐらいが丁度いい。


「なんやかんやで人にお金貸している時ほど、臨時収入があるんだよね」


「ほう」


周りから集られるのであれば、経済的にも苦しいのかと思っていた。

その臨時収入とはなんだろうか。


「やっぱこれよ」


彼女は親指でボタンを押す真似をする。

やはりスロットか。


「いくら出たの?」


「そだね。万枚は行ったとだけは言っておく」


「おお~」


こんな話を聴くと真面目に働くのが馬鹿らしくなる。

その恩恵を受けているとはいえ、自分の月収に近い金額を彼女は一日で手に入れているのだ。正直羨ましい。時にはマイナス収支もあるだろう。でも会うたびに勝ったと聞けば刷り込まれるものがある。


「私も少し興味あるかな」


だからつい口から出てしまう。


「じゃあ今からうちに行くか」


なんて冗談交じりに誘われるが私は遠慮する。

だって「駄目」って言われているから。


「そういえばさっきから野菜ばっかだけどどうした。奢りなんだし好きなもの食べなよ」


そんなことを言われても困る。

人間好きなものばかり食べているとどんどんと汚れてしまうのだ。


「いや最近ダイエット始めてて、ある程度お腹に野菜溜めてから食べようかなって。そうするとエネルギーの吸収もゆっくりになって身体にいいんだよ?」


「へえ。そうなのか」


「あなたには子供がいるし、今後食事も含めて生活習慣はしっかりとしないと」


「まあ確かにそうだ。やっぱりおまえは昔から凄いな」


そんなことはない。

私はいつも失敗してばかりだ。

仕事だって、恋愛だって、友人関係だって今は彼女としか繋がりがない。

でも大丈夫。今の私には導いてくれる存在がいるから。


「そう思うのならあなたも少しは自分の行動を改めてみるとかしないの?」


「あなたもって、おまえは改めたのか?」


「もちろん。もし今のあたしが良く見えるのなら、話をしてもいいけど」


「へえ~おまえが話を振ってくるって珍しいな。いいぜ、聴かせてくれよ!」


「ええ。もちろん」


もう一度ホイル焼きを裏返す。

念には念を。じっくりと焼いていく。

中に火が通っていたとしても、万が一があるから。

時々私に対してやりすぎだって言う人がいるけれど、みんながおかしいと思う。

大丈夫。

結局は美味しいと感じることが大事なのだ。

互いにWIN-WINな関係。

罠に嵌めるとかそんな馬鹿みたいなことはしない。

ただ話し相手になる。それを続ける。

そしていつか。

私が必要と感じた時が来たら、ただ手を伸ばすだけなのだから。


さあお店を出たら少しドライブでもしよう。

きっとこれからの時間は夜空が良く見えるから。


END

必要のない人助けに駆られる弱い私。

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