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なろう公式企画

某ショッピングセンターのヒーローショーでの出来事

作者: 柊 風水

 その日の某ショッピングセンターは子供連れの家族が大変多かった。

 日曜日だった事も理由の一つだったが、当日のショッピングセンターでは子供だけではなく大人にも大人気の『仮面ダイバー』のヒーローショーが開催されるからだ。


 ヒーローショーが開催される広場では縦にA列からF列に振り分け、横に一席から十席とベンチが振り分けているが立見席も幾つも用意されている。

 此処まで席が用意されているのは人気のヒーローショーだからでもあるが、仮面ダイバー演じている主演俳優さんが実際にショーに出て、しかもショーの後に写真撮影があるからだ。だからその日のショッピングセンターは大盛況だ。

 ポツポツと早めに席に座っている親子連れが何にもいた。ニコニコしているサンタの様な立派な髭のお父さんに、風邪を引いているのかマスク姿のお母さん。その真ん中に、初めて来るのかイヤホンを着けている男の子が緊張した様な顔でじっとしていた。落ち着かせる為に指を四にしてそのままグーの形に握りしめる手遊びをし続けている。両親の何方かが息子の顔を見る度に男の子は手遊びを止めて持って来たお絵かきボードで何か絵を描いていた。この親子連れの背後で清掃員が忙しそうに小走りで動いている。やはり人が多いとその分ゴミが沢山出るのだろう。


 今は懐かしい中島美嘉の『Dear』のサビの部分がショッピングセンター全体に流れたが直ぐに『今から仮面ダイバーのヒーローショーが開催します』の放送でワラワラと子供連れの家族が集まり、会場は歩ける程度の通路以外満杯だ。


 最初に座っていた夫婦は予想外に集まった人数に驚き、身動きが取れなくなっていた。ヒーローショーが終わるまでトイレに立ち上がるのも難しいだろう。










『みーんなー! こーんにちはー‼︎』

「「こーんにちはー‼︎‼︎』


 司会のお姉さんの挨拶に元気良く答える子供達。最初から座っている男の子も小声で挨拶をしている。

 お姉さんのお話の途中で悪の怪人と手下達が現れた。此処に長く通っている親なら使われている怪人の着ぐるみが多少のアレンジがされているが、此処で行った前の戦隊ヒーローの怪人と同じ物を使われている事に気がつくが、子供達はそんな事気がつく事がない。



『デュハハハッ‼︎ 東の海から七つの夜を超えて俺様ヘドロ怪獣ヘドラン様が降臨してやったぞ‼︎ アクラツ共よ! 此処にいる子供達の中から誰か一人人質を取るのだ‼︎‼︎』

『アクラー!』


 手下達は舞台から降りるとキョロキョロと子供達を物色しているポーズを取る。その姿にワーキャー! と盛大に怯えて騒ぐ子供達。


 手下達が選んだのはあの男の子だった。男の子を抱き上げると素早く動いて舞台に戻る。突然の事に夫婦は驚き移動をしようとするが、大勢の人に囲まれて身動きが出来ない様子。



 人質に取られた男の子は不安そうな顔をしていたが、何かを見つけると泣きそうな顔で掠れた声で叫ぶ。


「助けて仮面ダイバーっ」

『フワハハ‼︎ こんな所に仮面ダイバーが来る訳無かろう!』

「助けてー」

『ヘドラン、今すぐその子を解放しなさい‼︎』

「たすけてー」

「フワハハハ! 誰が大事な人質を手放すか! 宿敵仮面ダイバーがいない今、我が組織の悲願である世界征服の第一歩としてまずはこのデパートから征服してやる!』

「たすけてー」

『皆! 仮面ダイバーに助けを求めましょう! せーのっ!」

「助けて仮面ダイバー!」

『もう一回!』

「助けて仮面ダイバー!」




『トウッ!』



 掛け声と共に現れた派手な見た目の若い男が人質を取っている手下を殴って(勿論本当に殴っていない)男の子を奪還する。この男こそが仮面ダイバーの主演俳優さんだ。此れには子供だけではなく、大人も思わず歓声を会場に響かせる。


『なっ⁉︎ 仮面ダイバー何故此処に⁉︎』

『誰かが仮面ダイバーに助けを呼ぶ声に。この俺、仮面ダイバーが助けに行かない訳がないだろう‼︎』



 人質に取られていた男の子を司会者のお姉さんに渡して主演俳優は変身のポーズを取る。『変身!』と叫んだのと同時にドライアイスの様な白い煙が舞台を隠し、煙が消えたのと同時に仮面ダイバーの変身した姿が現れたのだ。男の子の方も煙で舞台を覆っている間に舞台袖から出て行ったのか舞台から居なくなっていた。




 会場にいる子供達や大人達は舞台にいる役者さん達の手に汗が滲むアクションとストーリーに見惚れて気付かなかったのだ。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()
















 ヒーローショーやトークショー後の握手会や写真撮影も全て終え、控え室には主演の俳優さんだけではなく、着ぐるみを着ていた男の人達や司会のお姉さんが()()()()()を今か今かと待っていた。


 控え室のドアを二回ロックして開けたのはこのショッピングセンターの責任者。責任者の顔を控え室にいた全員が表情を固くして固唾を呑んでいた。

 そんな彼等を安心させる様に支配人を表情を柔らかくして、彼等が聴きたかっであろう()()をする。






()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてあの()()()()()()()()()()()()()()()()()






 最初に男の子のヘルプに気づいたのは手下役のスーツアクターの一人だった。


「あれ? あの子……」

「どうした?」

「……ヘルプサインを出してる」

「『ヘルプサイン』? 何だそれ?」

「親指を倒してそれを握り込むあの行為はSOSサインで、国際的に決められたサインなんです。オレ、教育関係の大学に通っていて、最近勉強しましたから覚えてます」

「……偶々かイタズラとかじゃないのか?」


 怪人役のスーツアクターの先輩は半信半疑だったが、念の為に清掃員の同僚にあの親子の観察を頼んでみたが疑惑がかなり深まる結果となった。


「ケンさん(怪人役の先輩の名前)あの大人達親じゃないよ。だってあの男の子()()()()()だよ」

「何であの子供が耳に障害があるって断言出来るんだよ」

「だってあの子供耳に()()()を着けているし、それなのにあの大人達は髭やマスクで口元を隠してる。あれじゃあ口元の動きで子供と会話が出来ないよ。勿論全員が全員そうじゃない事は分かるけど、少なからず()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは聴覚障害の子供のする親のする事か? 少なからず俺の息子夫婦は孫にそんな事した事はない」

「……警備員と警察に念の為に連絡。聴覚障害の男の子が迷子、もしくは居なくなった話がないか確認してくれ」




 警備員と警察に連絡した結果、ショッピングセンターの別館で聴覚障害を持つ男の子がほんの少し目を離した隙に居なくなったと連絡が入った。

 その子供の衣服や特徴がヒーローショーにいる男の子と一致したとの事。そのまま保護すれば良かったのだが、どうやら誘拐した男女は男の子の本当の両親と知り合いで、男の方が格闘技を若い頃に習っていたらしく、万が一の可能性があるとかで簡単に近付く事が出来なかった。


 ショッピングセンター側と警察とで話し合いをした結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()計画を建てたの。

 ちょうどヒーローショーが開催する時間だったし、演出で子供を人質に取るのがあるしコレを使って不自然がなく男の子を保護する事が出来ると思ったからだ。


 勿論、万が一この計画に気づかれて逃げられたり男の子に危害を加えられる可能性があった。だから中島美嘉の『Dear』の曲を急遽流したのだ。この曲が主題歌となったドラマは『誘拐』が題材の一つとなっていて、このショッピングセンターではこの曲が流れると誘拐事件が起きた事を知らせる隠語となっている。

 そして直ぐにヒーローショーの開催のアナウンスが流れると会場は人で溢れかえり、簡単に席から出られる事が出来ない。しかも万が一会場が出ようとしても誘拐犯の情報がデパートの従業員に周っているお陰で絶対にデパート外に逃げる事は出来ないのだ。


 万全の態勢で男の子の保護の為の計画はこうだ。


 まず普段通りにヒーローショーを進行し、司会のお姉さんが男の子と誘拐犯達が何処にいるのか把握し、監視する。そして怪人役のケンさんがステージの正面に立って男の子の位置を手下役達に知らせる。


 まずA席にいるなら笑い方は『アハハ!』B席なら『ブァハハ!』C席なら『キャハハ!』と言う風に笑い方を変え、左右の何番目の列にいるのかも右側なら『東』左側なら『西』と言い、そこからそれらしいセリフの中に数字を入れる。


 つまり、あの時の『デュハハハッ‼︎ 東の海から七つの夜を超えて』『D席の右から七番目の先に子供がいる』と言うメッセージだ。


 その言葉を頼りに手下役が子供を見つけて保護した。正直誘拐犯達の妨害も予想出来たが、子供の保護した手下役のスーツアクターが流れる様に連れていったから、誘拐犯がハッと気が付いた時は男の子はステージの上。



 そのまま保護しても良かったのだが、一応本当に彼等が誘拐犯なのか男の子に確認する必要があった。幸い男の子は平仮名が読めるので、男の子が正面から見える様に舞台袖で偶々あったフリップボードでやり取りをした。


 ボードを書いたのは仮面ダイバーの主演俳優。知らない人よりもテレビで見ている俳優さんなら心を開くと信じると思ったからだ。実際に彼が『もうだいじょぶだから、おれのしつもんに答えて』と書いて見せた所パァッと男の子の表情が明るくなったのだ。


『しつもんが『はい」なら『たすけてかめんだいばー』、『いいえ』なら『たすけて』で答えてね』


 このフリップに男の子は『助けて仮面ダイバー』と返答したので、怪人役のスーツアクターと司会のお姉さんのセリフの言い合いの合間にテキパキと俳優さんは男の子に質問をしたのだ。


『いっしょにいるのはきみのぱぱとまま?』

「助けてー(違う、パパとママじゃない)」

『いっしょにいるおとなはきみのしっているひと?』

「たすけてー(しらないひと)」

『かれらはきみをでぱーとのなかをつれまわすだけ?』

「たすけてー(外に連れ出す話をしていた)」

『ほうちょうのようなこわいぶきでおどされていない?』

「たすけてー(ううん。怖い武器は持ってない)」

『おとなしくしなければけがをさせるといわれてる?』

「助けて仮面ダイバー!(うん!)』


 ここまで証言を取れれば後は簡単だ。

 ショーで怪人役のスーツアクターさんから男の子を受け取った俳優さんは、すぐに司会のお姉さんに預け、司会のお姉さんは待機していた警察官さん達に渡した。そうして無事に男の子は警察に保護されたのだ。


 人質だった男の子がいない誘拐犯達の対処はとても簡単だった。従業員が男の子を引き渡すと言って控え室まで誘拐犯達を誘導。そして連れて来られた控え室にいたのは勿論男の子ではなく、沢山の警察官さん達。


 彼等が誘拐犯達を取り囲む。女の方はそのまま取り押さえる事が出来たが、男の方は暴れて抵抗したがそれを予想出来たので足払いをした後にガタイの良い警察官数人に抑えられて無事に手錠をはめる事が出来たのであった。

 因みに男の子からは包丁等の武器は持っていないと言っていたが、女のバックからは折り畳みナイフが所持していた。





「あの男の子を誘拐した二人組の動機って分かりましたか?」

「警察の取り調べをまだ受けているらしいが、両親から少し話は聞いたがどうやら相手と金銭のトラブルがあった様で、息子を使って大金を得ようとしたんだろう」

「お金の支払いを拒否したらあの子に危害を加えるつもりだったんですよね? 全く! 何て最低な人達!」

「ちょっと気になったんだけど、どうして犯人達は男の子を誘拐して直ぐにデパートから連れ去って行かずにショッピングセンターに留まり続けたんです? それもまだ取り調べ次第で?」


 俳優さんの疑問に、偶々一部始終を見ていた手下役のスーツアクターの従業員が誘拐犯達が逮捕された後の顛末を語りだした。


 何でも誘拐犯達を連行する際に挙動不審な動きをする運転手を見つけ、警察が職務質問しようと近づいた所運転手は車を急発進して逃走。

 パトカーは直ぐに逃走した車を追ったが、逃走した車がショッピングセンター近くの電柱にぶつかっていたのを発見。幸いエアバッグが作動して運転手に命の別状はなかったが、頭から血が流れて気絶していたのでそのまま救急車に運ばれた。


 その車が逃走した際に、女の方が『逃げるな!』とか『ふざけんな!』と罵詈雑言を大声で叫んでいたので逃げた車の運転手が誘拐犯達の共犯者と発覚。『運転手が目覚め次第、事情聴取を取って事によっては逮捕状が出る』と、警察官の一人がコッソリと彼に教えてくれた。






「成程なぁ。恐らくは渋滞かなんかのトラブルで時間通りに車が来なかったから、車が来るまでに時間を潰していたのか。それならショッピングセンターから出て他の場所に待ち合わせ場所を変える事が出来たのでは?」

「多分、警備員の数が予想していたよりも多くいたせいかもしれません。今日は日曜日の上に、今回のヒーローショーに主演俳優(貴方)が出演しますから、ショッピングセンターに沢山の人が来るのは分かっていましたし、人が多い分トラブルが起こりやすいのは火を見るよりも明らかでしたので、事前に警備会社から警備員の増員をお願いしていたのです。あの時は誘拐事件が発覚していたので、かなりピリピリとしていましたから恐らく下手に外に出るよりか、待っていた方が得策だと思ったのでしょう。屋上の駐車場と広場と繋がるエレベーターが近かったですし」


 支配人の言葉に俳優さんだけではなく他の従業員さんも納得した。







「……と言う訳で、警察からは感謝状が出ますしマスコミからの取材が沢山来るでしょう。ショッピングセンター(ウチ)の評判はうなぎ上りなのは間違いありません。これも全て誘拐された男の子のメッセージに気付き、迅速に救出出来たのは皆さんのお陰です。……君も俳優業で忙しい中、本当にありがとう」

「いいえっ。売れない俳優時代の頃からお世話になったバイト先の依頼ですからっ。それにケンさんの指示に従っていたから殆どケンさんのお手柄ですよ」

「いやー俺はショッピングセンターから渡されたマニュアルを元に指示しただけだ。そもそもヘルプサインとか言うメッセージに気付いた此奴のお手柄だ」

「いや~それ程でも~」

「そこは謙遜しなさい!」


 最初にヘルプサインに気付いたスーツアクターが照れたので、司会者のお姉さんが頭にチョップと言う愛の鞭を施すのであった。



 痛がる彼に周りは笑いが零れ、非日常だった一日にがこうして終わりを迎えたのであった。





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