崩落
「おはよう」寝ぼけた声でそう言う。あれから1週間。土曜日は俺とお母さんは家でゴロゴロしており、お父さんは土曜なのに珍しく会社に行っていた。昨日はゲームセンターに行っていないので、確定でゲームセンターに行ける。内心とても嬉しい。最高の目覚めだ。お父さんはいつもこの時間爆睡しており、いびきをかいているのだが今日は珍しくいびきをかいていない。「珍しい日もあるもんだな」と思い、お父さんの布団まで行くがお父さんがいない。今きずいたがお母さんもいない。
どーゆうことだ、「自分を置いてどこかへ行ってしまった」っと最悪の未来を想像してしまい泣きそうになる。俺は泣きそうな表情のまま1階へおりていく。そこにお母さんはいたのだがお父さんの姿が見当たらない。嫌な予感がする。俺は今にも泣き出しそうな声でお母さんに聞く。
「ママ、パパは?どこに行ったの?仕事?ねぇ、パパはどこ?」戸惑い泣きそうな顔になる。しかしそれはお母さんも一緒だ。お母さんも今にも泣き崩れそうな表情だ。「大事な話があるの」といいお母さんは俺を見つめる。小学四年生の思考回路でも大方予想がついてしまう。さっき想像してしまった「最悪の未来」をはるかに超える「最悪の未来」を思い浮かべてしまう。いや、そんなわけが無い、そんなはずは無いのだ。なぜならお母さんとお父さんはいつも仲良くて、最高の家族で、毎日幸せそうだった。そんなわけが無いそんなわけが無いそんなわけが無いそんなわけが無い。頭の中でそう繰り返す。俺はとっくに泣いていてそんな俺を見てお母さんも涙を零していた。お母さんが口を開く。何も聞きたくない。なんも知りたくない。そんな俺の思いは打ち砕かれ、お母さんから分かってもいたようなことが知らされる。
「ママはパパと離婚することにしたの。」
お母さんは泣きながら俺に抱きしめた。強く強く。俺はその事実を受け止めることが出来なく叫んだ。ただひたすら泣き叫んだ。喉がかれるほど泣き叫んだ。恐らく人生で1番大きな声で泣いたと思う。パパとの日常がもう無くなる。これから朝起きてパパの顔を見ることは二度と無くなる。もうパパには二度と会えないかもしれない。そう考えるだけで涙が止まらなかった。お母さんは俺を宥める。数分泣いてようやく落ち着く。
「パパにはもう会えない?」
俺がお母さんにそう聞くとお母さんは
「大丈夫。また会いに行こう。パパとママは仲が悪くなったわけではないの。まだママはパパのことが好きだしパパもきっとママのことを好きでいてくれている。だからいつでもまた会いに行こう。離婚したのはお金の問題なの。パパと離婚して母子家庭になったら国から補助金が貰えるの。だがらママはパパを嫌いになったわけではないよ。安心して。」
優しい口調でお母さんはそう言う。安心した。ものすごく安心した。それなのに俺は口から零す。
「嘘。」
自分でも驚いた。意味がわからないことを言った、という訳では無い。一瞬でも心が安心したのは事実だ。しかし、すぐにお母さんが嘘をついていることがわかった。お母さんの目線、態度、口調、涙、そして笑顔。全てがおかしかった。
お母さんは安心できることを言ってくれているのにこぼれる涙の量は増える一方だ。しかもお母さんは俺に笑いかけていた。おかしいだろ。笑えるはずがない。あの笑顔は心の底から笑ってなかった。正面上の笑顔。あれは偽りの笑顔だ。
「なんで……ごめんなさい。」
お母さんが謝る。やはり俺の予想というか勘は的中しており、お母さんが真実を話そうとする。
「凪は聞きたい?ママがパパと離婚した理由を。」
聞きたい聞きたくないで言われれば俺は聞きたくはなかった。しかし現実から逃げる訳には行かない。いつか知らなければいけない事実、今ここで立ち向かわなければならないのだ。心を病んでしまうかもしれない。俺は今ここで聞かなければならないと感じた。腹を括り、返事をする。
「いいよ」
お母さんは語る。今まで何があってのか、お父さんがどういう人なのか、何をしたのか。離婚の原因を語り始めた。