第8部~難攻した手紙の入手
あの手紙を処分しようとした一件があってから、再配達されてくる手紙を、母親が固くガードするようになりました。
あの手紙についての情報は、全く語らなくなったし、相変わらずあの手紙を返送していました。
ただ、自分は諦めませんでした。
「もう、こうなったら仕方がない!再配達してくる郵便配達員の行動パターンと、母親の行動パターンを調べあげるしかないな…」
…と、思いました。
調べるといっても、地道な作業でした。
郵便配達員がいつ頃あの手紙を再配達に来るのか?
母親があの手紙を受け取る前に、手に入れられる時間帯は無いのだろうか?
マンションの郵便受けが見える所で、来る日も来る日もあの手紙を待ち伏せしました。
すると、やっと分かったのです。
郵便配達員が比較的まとめて郵便物を持って来るのが、だいたい午後2時頃で、母親が買い物に出掛けるのが午後1時半頃で、帰って来るのが2時半頃でした。
ただ、その時間に都合よくあの手紙が来るとは限らないのですが、そこに賭ける事にしたのです。
仮に、その時間にあの手紙が来たなら、受け取るチャンスは、午後2時~2時30分迄の、30分しかないのです。
厳密に言うと、その30分以内にあの手紙を完全に消去しなければ、計画は失敗に終わるのです。
自分は、またいつものように郵便受けの見える所で張り込んでいると、何と!目の前であの手紙が配達されたではありませんか!
「よしっ!このチャンス逃してなるものか!!」
その時の時間が、だいたい午後1時50分だったのです。
あの手紙を上着の中に隠して、うちのインターフォンを何回か押しました。
返事が無い…。
母親は、買い物に出掛けているのだろうか?
鍵を開けて部屋の中に入ると誰もいませんでした。
「もう後には引けない!あの手紙を消去するなら今しかない!!!」
自分は、居間のガラスのテーブルに置いてあった、ガラスの灰皿にあの手紙を乗せました。
そして、兄のライターで手紙の角を燃やそうとしました。
「ジッ、ジジジッ、カチッ、カチッ、ボォォォォ」
何とか火が点きました。
そして、あの手紙の角を燃やしたのです。
「よっしゃぁ!このまま一気に燃えろ~!」
手紙は思った以上に激しく燃えました。
そして、一瞬でしたが火柱が上がったのです。
その直後…、
「ア、アチッ、アチッ…」
「ヒッ、ヒッ!、ヒャャャァァァ---…」
…といった、断末魔の叫びと共に、真っ白い煙のような物が飛び出して来ました。
それが、亡霊の様に見えましたが、ほんの一瞬の出来事でした。
これで安心してはいけない!この灰も完全に片付けなければ。
あと、手紙が燃えたこの臭いも掻き消さないと…。
自分は、燃えカスの入ったガラスの灰皿を慎重に運びました。
そしてそれを、洋式便器に残らず流したのです。
「…やったか、これで完全に消去したか?」
その後は、部屋の窓を全開にして、大慌てで団扇で臭いを拡散させたのです。
この時点で、母親はまだ帰宅していなかったので、自分の手によってあの手紙を消去する作戦は成功したのです。
その10分後に、母親が帰って来ました。
帰ってくるなり言った言葉が、
「あらっ、部屋の空気が澄んでいるわね」
「そ、そうかな~、あっ、窓を全開にしたからかな~」
…と、一応はとぼけてみましたが、母親の表情は平常に戻ったような気がしました。