1話 こんなカワイイ褐色美女が俺のお目付け役ってマジか
幼いころから俺は、光の勇者になるべく育てられてきた。
武器の扱いや魔法の習得など、ひたすらに強さを追い求めたのだ。
そして十七歳のとき、聖輝神エロイスの加護を受け、正式な光の勇者として認められた。
聖輝神エロイスは、暗黒神セラハの討伐を俺に命じる。
しかし、ずっと悪の権化であると教わった暗黒神は俺好みの美少女だった!
こうなったら口説くしかない。
敵とか味方とか言ってられない
俺は自分のハートに素直な男なんだ。
そういった流れで俺は、聖輝神を裏切って暗黒神セラハの手下となってみた。
タフな状況だが、カワイイ子の手下なんてのは俺にとってはご褒美以外の何物でもない。
オマケに、呪いでセラハと一蓮托生になってしまった。
よし、張り切ってセラハを守らなくては。
さて、何から?
「え? そんで、俺は何したらいいの?」
石柱の影にひそむ何者かを警戒しつつ、俺はたずねた。
「なんでタメ口なのよ。まあいいわ。あなたにはこれからこの暗黒神殿に向かってくる不届き者を成敗してもらいます」
細い腰に手をあてて、無駄にエロいポーズをとったままセラハが言った。
「不届き者……冒険者ってことか」
セラハを倒すためにここに送り込まれたのは、俺だけではない。
聖輝神エロイスは光都ヤヴーシェの人々に『暗黒神を倒すことだけが世界の平和を守る方法』だと説いている。
いや、今思えば刷り込んでいる、という方が正しいな。
それを信じたピュアな冒険者たちがパーティを組んで、セラハを倒そうと向かってきているのだ。
「でもほら、なんか手下にイカツイ竜とかいたし、わざわざ俺がいかなくても大丈夫なんじゃない?」
「バカね。その竜をあなたが倒しちゃったんでしょ? おかげでウチは大幅な戦力ダウンよ。代わりにあなたが働きなさいな」
「ウィッース」
俺はしぶしぶ了承した。
あの竜、番犬みたいな役目だったのか。
イキってぶっ飛ばすんじゃなかったな。
自分の強さがにくい。
とりあえず、この暗黒神殿に近づくものを片っ端から追い返すのが、当面の俺の仕事だな。
地面に転がっている、聖剣ヴァリメッサを拾おうとしたその時。
強烈な違和感が俺を包んだ。
「あれ? なんか黒くない? 俺の聖剣、黒くない?」
「黒くもなるわよ。あなたは暗黒神の加護を受けているんだもの。聖剣は魔剣に。光の魔力も闇の魔力に変換されているわ」
へえ~そうなんスね。
つまり、俺はもう身も心もすっかり、闇に染まったってことね。
じゃあ、これからは暗黒勇者やん。
「魔剣になったヴァリメッサって、どんな効果があるの?」
「与えたダメージ分、回復する力を持っているわ。便利でしょ」
ほう。
攻撃しながら回復できるなんて、ガシガシ攻めたい俺にぴったり!
よろしく頼むぜ、魔剣ヴァリメッサ。
「ってことは俺、もう光の魔法は使えないの?」
「基礎的な魔法は今まで通り使えるわよ。でも、光特有の魔法はすべて使用不可。これからは闇の魔法で戦ってね」
まじかー。
俺は自分が着ている鎧の色を、あらためて確認した。
白銀に輝いていたプレートメイルは、どす黒く変色している。
表面にほどこされた彫刻すら、なんかワルそうなデザインに変化しているではないか。
まあ、コレはコレでかっこいいやん。
良しとしよう。
「ところで、闇の魔法ってどんなのがあるの?」
「たとえば、そうね。闇影とか」
聞いたことのない魔法だ。
俺が今までに駆使していた光の魔法とは、真逆の属性だしな。
しょうがねえ、またイチから覚えなおすか。
「ダークネスって、なんか地味そう。どんな効果?」
「敵の目元に闇を発生させて、一時的に目を見えなくするのよ」
そういってセラハは、人差し指から真っ黒な霧を出した。
霧は濃く、向こうは透けて見えなかった。
「うわ、しょっぼ! 実戦で使わんでしょ、そんな魔法」
「うるっさいわね! じゃあ逆に、あなたが使ってきた光の魔法にはどんなものがあるの?」
「例えば光輝。まぶしい光で敵は、一時的に目が見えなくなる」
セラハははっきり俺に聞こえるぐらい、舌打ちをした。
光の加護を受けた魔法の効果は、やっぱりお気に召さなかったようだ。
「あなたと話してると頭が痛くなるわね。とにかく、ここに近づいてる冒険者たちがいるから、あなた殲滅してきなさい」
「ええ~セラハはいかないの? 寂しいんですけど」
俺は両手の人差し指で、セラハを指差した。
そしてそれを前後に動かしてツンツンする。
セラハは露出の多いスリップドレスしか着てないのだ。
動きまわる戦闘中は、さぞ楽しいシーンの連続だろう。
なんだったら敵なんかそっちのけで、セラハを見ていたい。
胸の高鳴りがおさえられない……そう思っていたのに!
俺の熱い期待を返して欲しい。
「なんで敵の最終目標であるあたしが、ノコノコ迎えに行くのよ。あなたのお目付け役を呼んだから、一緒にいってきなさい」
「ほお! 女の子? カワイイ?」
俺が言い終わるやいなや、暗闇からエグいデザインの短剣が飛んできた。
大きく開いたドクロの口から刃が突き出ている、趣味の悪い短剣だ。
俺は魔剣となったヴァリメッサをはね上げて、それを弾く。
金属がぶつかりあう甲高い音が鳴り、短剣は石柱に刺さった。
石に刺さるとか、どんな短剣やねん。
「ふん。少しはやるみたいだな」
柱の影から現れたのは、褐色の肌をした女戦士だった。
年のころはセラハよりひとつか、ふたつぐらい上だろう。
俺と同い年ぐらいか。
女性としては長身だ。
面積の狭いビキニアーマーで、グラマラスな肢体を惜しげもなく晒している。
けしからん。もっとやれ!
銀色のショートヘアが、キリッとした表情によく似合っていた。
猫のような目と、ぽってりとした唇が印象的な美女だ。
こんなカワイイ子が、俺のお目付け役だって?
いい人材がそろってるなぁ~暗黒神殿! 好き!
「俺は暗黒勇者ゴッツだ。よろしくナ!」
元気に挨拶をしながら、変態まる出しの視線を送る。
俺はどちらかというと色白な女性が好きだと思っていたが、褐色美女もいいもんだ。
新しい自分に出会えたことに感謝。
「ジェキル。このおバカに暗黒神殿での作法を教えてあげて。まずは、うざったい冒険者たちの始末をお願い」
「承知しました。セラハ様」
ジェキルと呼ばれた女戦士は、いかにも好戦的な雰囲気をかもし出していた。
しかし、セラハには従順なようだ。
短剣に負けないぐらい物騒な、柄にドクロをあしらった片手剣を持っている。
ドクロ好きなのかな、もしかして。
「行くぞ新入り。モタモタするな」
「ウィッス! ジェキルは普段から命令口調な感じ? でも俺、そういうのも嫌いじゃないよ。じゃあセラハたん、後でね!」
俺は駆け出しながら振り向いて、手を振った。
「バカ。いいから早く行きなさいよ」
セラハは冷たい視線を返す。
フフフ、照れてるな、さては。
まずは暗黒勇者となった俺が使える、闇の魔法について確かめよう。
聖剣から魔剣に変化した、ヴァリメッサの使い心地も試しておきたい。
あとは、となりを歩く褐色美女の腕前とフトモモにも注目したい。
かくして暗黒勇者となった俺の、最初の仕事がはじまったのである。
しかし、そこに現れたのは、俺にとってまったく予想外の相手だった。
おさらい
・ゴッツのお目付け役は褐色肌のムチムチ美女
・ゴッツが使える魔法はすべて闇属性になった
・冒険者を追い払うのが当面のゴッツの仕事
魔法
闇影
闇の魔力で生み出した霧で目をくらます
光輝
強い光で目をくらます
武器
魔剣ヴァリメッサ
ダメージを与えた分回復できる
場所
光都ヤヴーシェ
聖輝神エロイスを崇める人々が住んでいる




