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理葬境  作者: 忍原富臣
第二話「悪夢の調査」
13/51

~剛昌と青年~

 剛昌ごうしょうは青年に問いかけた。


「お前は村を出ないのか」

「まあ、家があるけんね、畑も出てった人らの耕してたら少しば収穫できちょるけんええんよ」

「そうか……」


「ところでさ、おっちゃんみたいな立派そうな人が何しに来たん?」

「立派に見えるか?」

「そりゃ服も汚れてないし雰囲気が偉いぞぉって言っちょうよ」

「商人や百姓には見えぬか?」


 剛昌は自分の服装を確認しながら青年に問いかけると、青年は笑って剛昌に言い返した。


「見えん見えん、それで商人百姓言いよったら嘘つき言われよーよ」

「ふむ、そうなのか。以降気を付けるとしよう」

「あと、そんな背筋真直ぐしよる人間こんな村来んけぇ。違和感しかなかよ」


 はにかむ青年に剛昌は気になっていたことを言葉を詰まらせながら述べた。


「俺も、言っていいのか分からんが、その、だいぶ言葉が違うんだな」

「ああ、これね。ちゃんと教えてもらっちょらんから、色んな人の言葉が混ざりよんよ。やっぱおかしいんかなぁ……」


 青年は少し残念そうにしながら溜め息をついていた。青年の言葉は確かに分かりにくい。だが、剛昌は自分の言葉よりも何か暖かがあるような気がした。


「人間らしくていいじゃないか」


 そう呟いた剛昌は珍しく頬を緩ませて、青年は剛昌の言葉に少しだけ嬉しそうな表情を浮かべていた。


「ほんとか?」

「うむ、俺は嘘はつかん」

「そっかそっか、これはこれでええんやね!」

「ふっ……」


 ボロボロの家と青年の純粋な性格に、剛昌は懐かしい気持ちに駆られていた。昔、泯と兄妹として会話をしていた時の事を思い返して……。ただ、もうあの時の関係に戻ることは出来ない事に、剛昌は一瞬だけ悲しげに俯いた。


「おっちゃん、どした?」

「……いや、なんでもない」


 剛昌は自然と態勢を崩して青年に問いかけた。


「お前、名前は何というのだ?」

涼黒りょうこくって言うんだ」

「涼黒か。俺の名前は剛昌だ」

「剛昌かぁ、おっちゃんの名前なんだか強そうだな!」


「ふっ、名前に釣り合わんだろう」

「いやいや、雰囲気出ちょるよ。こう、なんか、強いぞー、みたいな」


 青年が剣を構える姿を模して屈強さを表現すると、剛昌はただただ微笑んでいた。


 争い続けては敵を斬り伏せ、春桜や仲間と共に歩んできた。そのおかげで平和に暮らせる今がある。ただ、死んでいった者達は二度と会うことはない。


 剛昌は敵の屍も仲間の屍も、生きている者達の命運も背負って生きている。独り身で背負うには多すぎる荷物の量だった。


 この時、剛昌はこの一件が終われば大臣の座を退くことを決心していた。

 涼黒は剛昌の気持ちも知らずに積もりに積もった自分の話を延々と話していた。


「――んだらそん時、こう、ぐわぁって鶏が暴れてさ! 生きもん殺すんもてぇへんなんだなぁって」


 身振り手振りで楽しそうに話す涼黒の声に耳を傾けながら剛昌も和んでいた。

 だが、先程村の入り口で出会った老婆の事を思い出し、ここに来た目的を涼黒に問いかけた。


「涼黒よ、少しだけよいか?」

「ええよ、どうしちゃー?」


 涼黒は満足したのか両足を前に放り出し、上半身を支えるように両手を床についた。


「お主は死者の夢を見たことがあるか?」


 その質問に涼黒の動きがぴたりと止まった。


「おっちゃん、どこでその話聞いたん?」

「まあ、百姓達が話していてな。どんなものかと試しに来てみたのだが……」

「うーん……」


 涼黒は胡坐あぐらをかいて呆然としていた。

 普段ならば睨みつけて話を引き出すのが剛昌のやり方だった。だが、妹と重ねてしまって情が移ったのか、剛昌は優しく涼黒に問いかけた。


「何か知っているのか?」


 涼黒は腕を組み、何か思い出そうとしているようだった。


「うーん、直接見てないけん分からんけんど、大人がそんな話しちょったかなぁって」

「本当か?」


 剛昌の眉がぴくりと動く。涼黒は剛昌の目を見ながら問い返す。


「なんか夢ん中に死体がわーって出てくる話じゃろ?」

「そうだ。して涼黒よ、その夢を見た者は?」


 剛昌は喰いつくように聞くも、涼黒は曖昧な内容を剛昌へと伝えた。


「見たっちゅう人ばほとんど出ていったんじゃなかかなぁ……怖いゆうて、もう見た人ばおらんかもしれん」

「ここに戻ってくる大人達は?」

「そん人らは見てないけん、ここに残っちょるんよ」

「村には一人も残っていないのか……」

「なんか申し訳ねえ」

「いやいや、お前が謝ることではない。気にするな」


 涼黒の頭を撫でてから、彼に表情が見えないように剛昌はすっと立ち上がって礼を告げた。

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