ダンジョン農家
「今日もいつもので」
禿げ上がった頭を撫でつけながら、さえない中年は受付の優男に話しかける。
「はいよ。今日も豊穣の女神の迷宮だね。」
そういって、優男はカウンター越しに木札をハゲ中年にわたした。
「へへ、どうも」
木札を受け取ったハゲ中年は、どうもどうもと言いながら受付の周りの人混みをかき分けた。そのまま奥の部屋へと消えていく。
「あーあ、まったく豊穣のもあんな、冴えないハゲのどこがいいんだか」
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奥の部屋では、中央に怪しげな光を放つ魔法陣があった。脇には警備員と思われる、筋肉質で無愛想な男が立っている。
「どうもどうも、いつもすみませんねぇ」
ハゲ中年が奥の部屋にはいると無愛想な男が手を差し出す。
「今日もこれでおねがいしやす」
無愛想な男は、木札を受け取るとなにやらぶつぶつと呟く。
すると、中央の魔法陣の輝きが増した。
まるでため込まれたエネルギーが今にも爆発してしまう直前にようだ。
「じゃ、ちょっくら行ってきますか」
ハゲ中年はそう独り言をつぶやくと、何の気負いもなく、魔法陣の上に乗った。それをみて無愛想な男がまたぶつぶつと呟く。
次の瞬間には、ハゲ中年の姿はすっかり消えていた。
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ハゲ中年は、石造りと思われる部屋の中にいた。目の前には木の扉がある。
「さーて、今日も気合いを入れて稼ぎますかぁ!女神様どうぞよろしくお願いしますよ!」
ハゲ中年はそう大声を出すと、空中から鉄の槍が出てきた。
「これこれ、いやーやっぱり女神様はわかってらっしゃる!こういう細かい気遣いってもんが嬉しいもんなんですよねぇ」
すると、ハゲ中年のもつ鉄の槍が少し輝きを持つ。なにやら魔法による強化がなされたようだ。
ハゲ中年は笑顔になると、木の扉をあけ、奥の通路に進んでいく。道はぐねぐねと曲がりくねっているが、松明も灯っており、十分な明るさがある。
5分ほども歩くと、前方からグギャグギャといやな鳴き声が聞こえてくる。
「いつものゴブリンでさね」
ハゲ中年は鉄の槍を握り直すと、慎重に前へ進んでいく。すると、前から80cmくらいで緑色の肌を持つ醜悪なハゲ散らかった生き物が出てきた。ゴブリンである。
ゴブリンはハゲ中年を見つけるとグギャギャと鳴きながら飛びかかってくる。
ハゲ中年は慌てず後ろに下がると鉄の槍を突き出し、ゴブリンの身体を貫いた。
「ふぅ、いやーこれは凄い!流石は女神様のご加護だ!」
ハゲ中年が大げさに驚き、大声で独り言を喋ると鉄の槍の輝きがいっそう増した。また強化がなされたようだ。
そうして、1匹づつやってくるゴブリンを倒しつつ、道を進んでいると木箱があるのを見つけた。
「おぉ!これは幸運でさ!」
ハゲ中年は仰々しく慎重に木箱を調べると、ゆっくりとふたを開けた。中には青い色をした液体の入ったガラス容器があった。
「やりやした、ポーションじゃないですか!」
ハゲ中年は大袈裟に喜び、小躍りをする。また鉄の槍の輝きが少し増した。
そうやって、道を進んでいくと目の前に頑丈そうな鉄の扉が現れた。
「さてさて、今日のお仕事もおしまいでさぁね」
ハゲ中年はそう独り言を付くと、ゆくっりと深呼吸をして息を整える。
ゆっくりと鉄の扉を開き、隙間から中の様子を伺う。
中は大部屋になっており、奥に3つの人影が見える。2つは80cmより少し大きいくらいで、1匹は120cm程度でなにやら武器を握っているようだ。
「ゴブリンが3匹、1匹はソルジャーですかい。まずは雑魚から!」
ハゲ中年は、勢いよく扉を開き、走っていくとようやくハゲ中年に気がついたゴブリンに槍を突き刺す。素早くもう1匹のゴブリンにも槍を突き刺そうとするが、ゴブリンソルジャーが錆びた剣を突き出してきたため手を出せなかった。命拾いしたゴブリンは驚いて尻餅を付いていた。
ハゲ中年は後ろに飛んで距離を置くと、今度は細かく突きを繰り返し、相手に傷を負わせようとする。錆びた剣では豊穣の加護を受けた槍を完全に防ぐことは出来ず、ゴブリンソルジャーは徐々に後ろに下がりながら、傷を増やしていく。
すると、ハゲ中年の太ももに鈍い痛みが走った。すっかりゴリンソルジャーに気を取られ、もう1匹のゴブリンが体勢をなおして死角に移動していたのに気付かなかったのだ。ゴブリンは石を握りしめ、ハゲ中年の太ももに攻撃をしていた。
「くそっ!」
そう言うやいなや、ハゲ中年は槍でゴブリンを突き殺した。そして、ゴブリンソルジャーの方に向き直すと、目の前にゴブリンソルジャーがいて、錆びた剣を突き出してくる。
ハゲ中年は咄嗟に上半身を反り返りさせると、そのまま後ろに倒れ転がって距離をとる。ゴブリンソルジャーもここが勝機と果敢に攻撃を繰り返す。
「こんのゴブ野郎がぁ!」
ハゲ中年は転がりながら、槍でデタラメになぎ払うとゴブリンソルジャーに向かって立ち上がり、槍を突き刺した。
ゴリンソルジャーは槍で貫かれて絶命した。
「はぁ、はぁ、調子に乗りやがって・・・いてぇ・・・」
だが、ハゲ中年の肩には錆びた剣の先端が刺さっていた。錆びていたため剣先が折れ、深くは刺さらなかったようだが。
ハゲ中年は上着を脱ぎ、逞しい身体を晒すと、剣先を抜き取りポーションを掛ける。すると、傷口から泡があふれ、固まった。痛みはなくなり、血も止まった。あとは時間がたてば泡もとれるはずだった。
「はぁ、ポーションがなけりゃあんな無茶はできやせんでしたねぇ。女神様ありがたやありがたや」
ゴリンソルジャーを倒し、部屋に動くものがハゲ中年以外になくなると、いつの間にやら中央に鉄の箱が現れていた。
ハゲ中年は箱を前に熱心に祈ると、勢いよく箱を開けた。
中には木札が3枚だけ転がっていた。
「やったー!今日は引換券が3つも!!流石は女神様だ!!」
ハゲ中年は喜び小躍りをする。脱いだ上着を振り回し、感謝の気持ちを全身で表現をする。
ハゲ中年は気持ちが落ち着くと、上着着直して、いつの間にか現れた奥への道へと消えていった。
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「受付さん、見てくれよ!今日は引換券3つだぜ!いやー、俺の雄姿を見せたかったねぇ」
ハゲ中年はそういうと、受付の優男に絡んだ。
「あんたは毎回迷宮から帰ってくると、テンションがおかしいね?じゃあ、さっさと交換するよ。」
優男がハゲ中年から受け取った木札に手をかざすと、眩い光があふれた。
光が収まると、カウンターの上にはジャガイモと人参と玉ねぎがが入ったずた袋が置かれていた。
「いやー、今日は豊作だなぁ!」
ハゲ中年は嬉しそうにずだ袋をかかようとすると、優男が上からさらに袋を重ねた。中には豚肉が入っている。ハゲ中年が優男をいぶかしんで見る。
「豊穣の女神がサービスだって、いいもの見せてもらったお礼だって。よくわからないけど。」
優男は疑問符を浮かべながら、そう伝えた。
「そうですか!よくわかりませんが、よろしく言っといてくだせぇ!」
ハゲ中年はそういうと嬉しそうに袋を抱えて出て行った。
「ほーんと、神ってのは分からないねぇ」
優男はハゲ中年の後ろ姿を見送りつつ、そう呟いた。
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ダンジョン農家。ダンジョンに潜り新鮮な野菜を収穫する我々の食生活を支える大事なお仕事である。
おわり