第93話 高橋氏の仕事
「さて、長々と話してしまったけれども仕事のほうも終わらせておこうか」
高橋氏の仕切りなおしの言葉を聞いて俺は首をかしげる。
「え、仕事でこっちに来たんですか?
でもさっき……」
「もちろん、今ここに来ようと思ったのは知的好奇心のためさ。
仕事のほうは特に期限の決められていないものでね、いつでも良かったんだけどついでに終わらせておこうと思って。
さて、佐藤さん。
ジルからこの世界が一度滅んだことは聞いていると思うけどその詳細を知りたいかい?」
「それは……その……知っておいた方が良いとか、そういう……?」
「ん~……正直なところ、今の佐藤さんにとっては知っていようが知らなかろうがどちらでも構わないものだよ。
これは選択肢の1つって事さ。
今回の俺の仕事はこの選択肢を君に提示しておくこと。
場合によっては君は詳細を知っておかなきゃならなくなるって事。
そしてこの選択肢は君だけの問題でもなかったりするんだ。
ヴェルフールさん、貴女にも関係してくることになるだろう」
「……我輩にも何か関係があるのか?」
「間接的には、当事者ともいえるかも?
実のところここに来るまでは貴女には滅んだ詳細を教えておかなきゃと思っていたんだけど、直接会ってみて、色んな選択肢が見えてきたんだ。
だから貴女にも佐藤さんと同様に選択肢を用意しておくことにした」
「なんか実態がつかめませんね……」
「それは……まぁ俺の気持ちが揺れているからだろうね。
こっちの世界の人間が知ればそれは重責を背負うことになるんだけど、君は今はこっちの世界の人間じゃない、いうなればお客さんさ。
だからこそ、何も気兼ねなく愚痴を吐くように君に教えてしまう事もできる。
俺としては愚痴がてら聞いて欲しくもあり、一方で重責になってしまうかもとの懸念もあるんだ」
「その理屈で言うと、ヴェルさんが知れば……」
「そうだね、本来なら重責を背負うことになる。
でも言ったとおり、直接君達に会ってみたら、色んな選択肢が見えてきた。
進む道によっては知らなくても別になんら問題ない。
だから俺が今出来ることは提案。
君が帰る事になっている約10ヶ月後までに滅びた理由を知りたくなったら、俺を訪ねてくれ。
その時にそれにまつわる全てを教えようと思う」
「……我輩はどうすればいい?」
「ヴェルフールさんも色々と考えて必要だと思ったら来れば良い。
アドバイスをするとすれば何故俺がジルに知っていたのに何も教えなかったのかっていうのを考察してみると良いかもね。
この世界に住む者が知れば否応無くその事情に巻き込まれることだけは本当だから」
彼の娘の相手をしているジルベルトを見つめながら高橋氏はさびしそうに笑った。
「ジルにはさ、何も知らずに幸せに結婚でもしてくれればと思っていたんだよ。
あんななりでも奥さんの妹で女の子だ。
そういった普通の幸せを自分から手放して欲しくは無かったんだけどね……」
未来への不安に押しつぶされそうになっていたジルベルトを知っている俺としては、高橋氏の言葉にすんなりと頷くことは出来なかった。
俺は世界が滅んだなんて表現は今でも大仰だと思っている。
高々この大陸にある9割の国が蒸発した程度だ。
だがそう思えるのは俺が当事者じゃ無いからだろう。
異世界であることも相まって俺の想像力は地に足がついていない。
それがどのくらいすさまじいことなのか全く分からない。
出来の悪い俺tueeeの中二病ライトノベルを聞かされているのと変わらなかった。
それよりちょっと待て。
「あの高橋さん、ジルベルトさんは男では?」
「え? いや、女の子だよ?」
「だって、一緒に風呂に入ったこともありますけど」
「あぁ、今の姿でだろう?
ちょっと人化の魔法を使った際に事故があってね。
ドラゴンの姿だとジルは雌なんだ」
「「は?」」
「あの時は大笑いしたなぁ。
今じゃ研究も進んで人化の魔法のかけなおしが出来るようになったんだけど、ジルの奴頑なに今のままで良いって言うんだよ。
なぁ、どうしたらいいと思う?
さすがに女の子は女の子らしくなんていうつもりは無いけど、人化するたびに男になるのはなんと言うか違うと思うんだよね……これって俺が異世界人だからそう思うのかな?」
と言われても、俺もヴェルさんもたじろぎながら、真剣に義妹について悩む高橋氏を宥めに掛かっていた。
そんな事故があるような魔法だったのかよ、人化の魔法ってッ!?
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今800近いので結構現実的な数字……のはず。
ヾ(⌒(_´๑・ω・๑)_ジタバタ




