第86話 神様という存在
ヌマさんも帰って笹茶を飲みつつまったりしていると、ジルベルトがお腹を押さえてこちらを睨んでいることに気がついた。
「どうしたんです?」
「君のせいでお腹痛くて吐血寸前なんだよ」
「もしかして、食あたりでもしましたかね?」
「いや食事は旨かったよ、ご馳走様。
そうじゃなくてね、神さ」
「ヌマさんです」
「……ヌ、ヌマさ、さささ、んぅ……と突然食事する身にもなっておくれよってことだよ」
「そろそろ呼び方に馴れてくださいよ。
ジルベルトさんは地上最強の生物であるドラゴンですよね?
もっとこう、厚顔不遜に呼び捨てにするとか」
「おちょくってるよね、僕の事おちょくってるよね君?」
「ハハハ、単なる軽口ですよ。
前に来た時に貴方がヴェルさんに迷惑をかけたことを根に持っているわけじゃないですからご安心を」
「あの時は悪かったって」
「それと薬学に関しては門外漢だと言っているのに、隠しているだ何だとしつこく延々と聞いてくることに辟易しているわけでもないですよ」
「違った、遠まわしにその2つが原因で扱いが悪くなっているってことかい?」
「だから単なる軽口ですって。
ヌマさんの件は説明しましたし、今日は一般的な来客作法で彼女をもてなしただけですよ?」
「分かるけどさ、逆に何で君はあの方たちに対してそんなお気楽なのさ。
いや、よく考えてみるとうちの義兄もそうだったような気もするけど」
「そんなにお気楽ですかね?」
「ヴェルフール様に膝枕させている状態でそんなことよく言えるね」
「違うぞドラゴン、我輩はしたいからしているのだ」
「だそうですよ?」
「だからさぁ……敬うとか」
「ヴェルさんは敬われたいですか?」
「敬われるというのが分からん。
スズキ、ちょっとやってみてくれ」
言われてヴェルさんのモフモフな腿から離れて居住まいを正し、しっかりと正座して、両手を地面について頭を下げる。
「日頃より格別なるご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます」
「……何?」
「……スズキ、なんと言ったんだ?」
「えーっと……直訳すると、いつもありがとう、かな」
「なるほど……スズキ、今後一切我輩を敬うな。
良くは分からぬが、壁しか感じない」
そう言うとヴェルさんは手招きで誘い、俺はまた膝枕の体勢に戻った。
「騎士の礼に近いのかな、そっちにも作法があるんだね。
というかそういうことも出来るんだね、君」
「苦手ですけどね。
ビジネスマナーだとまた違うし、よく変わるし……」
ちょっと前の仕事のことを思い出して憂鬱になる。
「話を戻すけどそんな事も出来るのに何であの方達にはやらないのさ」
「まぁ……割と人間臭い人たちだっていうのが最大の理由ですけど……説明が難しいですね。
こういうことに無頓着だったというのもありますし、そもそもあっちの世界じゃ神様信じていなかったし、会話出来るなら人と変わらないんじゃないかとかも思っちゃうし……」
「話せる神様が居ないんだね、そっちの世界は」
「話せる神様がいたら俺の居た世界はしっちゃかめっちゃかになるかもしれませね」




