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第84話 ヤンデルメガミ

唐突にヌマさんが現れて漢方などの情報を見始めてから結構な時間が経ったが、彼女は一心不乱に出てくる情報を凝視し続けていた。


トントンとジルベルトに肩を叩かる。


「あれって……そう……だよね?」


「何度目ですかそれ……」


「ドラゴン、しつこいぞ」


ヴェルさんは俺の胡坐の上に座りながら視線だけジルベルトに向ける。

彼女のお陰であまりヌマさんが見えないんだけどそれを伝えたら、


「そんなにあの女を見たいのか?」


と返されて言葉を詰まらせてしまった。

見たいといえば見たいがなんだかヴェルさんが言っている意味とは違う気がする。


俺が気になるのは彼女の表情だ。

経験則からくる第六感的な何かが『アレは退職前の元同僚の表情に似ている』と言っている。

理想と責任感が強くて我が弱かった元同僚のあの表情に……。


俺は頭を掻いた後、『本当に異世界人って何なんだ……』と呟いているジルベルトを放ってやかんでお湯を沸かすことにした。


「何かするのか?」


ついてきたヴェルさんに俺は頷いて答える。


「何をするつもりか問いただして止めた方がとも考えたんだけどね。

 邪魔をしないでおもてなしすることにした」


「おもてなし?」


「ん~……まぁ自分なりの気遣い?

 といっても俺にやれることは限られてるけど……これ、覚えてる?」


そういって置いてある竹筒をヴェルさんに渡すと鼻をひくひくと動かして彼女は頷く。


「ちょっと前に採りに言ったハーブ? というものだろ?

 様々な効能があるという……そうかこれも漢方の一種なのか」


「厳密には違うとは思うけど、俺には説明できないかな。

 前に言ったとおり、俺自身はあんまり薬のお世話になったことは無いからあんまり興味も無かったし」


二日酔いのときの胃腸薬程度だろうか。

それも市販されているやつ程度。


「奥が深いのだな……それでこの草は確かレモンバーム? だったか。

 なるほど、今になって気づいたがあのレモンに近しい匂いがするような」


「昔の仕事仲間が良く飲んでたんだ」


沸かしたお湯を使ってハーブティーを淹れる。


「旨そうな匂いだ」


「ヌマさんに渡したら一緒に飲もうか。

 冷やしたほうが良かったはずだからお願いできる?」


ヴェルさんは頷くと器を受け取り、適温に冷やしてくれた。

ありがとうとお礼を言った後、俺はヌマさんの横にハーブティーを置く。


「……ハーブティーですか。

 きづかいはむようです」


ホラー的首かしげをしながら射抜く勢いで見つめてくるヌマさん。

俺は首を横に振り答える。


「ヌマさんはこれから馬車馬のように“働く”つもりなんですよね?

 働くのは難しい……最高の状態で最高のパフォーマンスと作業効率を求めなければいけません。

 これはその一助です」


俺は意識的に黒い笑顔を浮かべながら彼女に言い放った。


「……」


彼女が俺に無言で身体を向ける。


「それにヌマさんがやろうとしていることはきっと1人では出来ない」


「できます」


「言い方を変えましょう。

 1人では効率が悪い」


「……」


「“自己満足”だけでは貴女は納得しなかった。

 “免責理由”となる“結果”をまとめる人位は居る方が良い。

 その方が“働く”時間が長くなります」


「……かんがえておきます」


「ええ。

 それと疲労を感じたら言ってください。

 作業能率が低下してしまいます」


「わたしはつかれません」


「知性がある限り誰であろうと“疲れますよ”」


「……ではもしそうなったらおねがいします」


そう言うと彼女はお茶に一口つけて画面に戻った。

離れたところに居る二人の居るところに戻り、ヴェルさんからお茶を貰う。


「スズキを怒らせると怖そうだな」


クツクツと笑いながらヴェルさんが俺に寄りかかる。


「またあの女からあふれ出していた。

 どこかで言うべきじゃないか?」


「……かもね」


「いやサトウくん、なんであんな空間の中で普通に話できたのさ!!?」


「うるさいぞ、ドラゴン。

 そこからか?

 そこから説明しなきゃいけないのか?」


2人の言い合いを聞きながら俺は空を見上げる。

俺はヌマさんがこの世界にある漢方を調べるため毒を飲む事になることを止めるべきだったんだろうか。

良心ではそうするのが正しいと分かっていた。


だがやっとのことでやりがいを見出してしまった彼女を止める事は俺には出来ない。

それを奪われることが最大の悪手である事を俺は知っているから……。

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