第78話 湯の語らい
「ということをやってましたね」
俺、ヴェルさん、アルさんの3人で夜の入浴を楽しみながら俺はここ最近していたことをアルさんに話した。
あの後、泥レンガを使って簡易な窯を作成したり、炭作りの成功にガッツポーズを決めたりとなかなか有意義な時間を過ごした。
釉薬に関しては素材不足でまだ手を出していない。
思った通りの色を出そうとすると途端に良くわからなくなってしまっていた。
閑話休題。
ここ最近見かけていなかったアルさんだが、ベッド作りに服作りにと昼夜を問わずせわしなく創作活動に勤しんでいたようで、ぶっちゃけ納品時の彼女は少しばかり獣臭がしていたのは内緒だ。
今は身ぎれいになり特に問題はないのだが、個人的に正直前の時よりも目の置き場所に困ってしまっている。
何しろ今のアルさんは人化の魔法を使用しているのだ。
アラクネの矜持とかないんですかね?
と質問したところ、
「あれはあれで便利な身体なんだけど、こういう場所では特に少し幅を取っちゃうのよ。
まぁ今の姿でも問題なく糸は出せるんだけどね」
と冗談めかして言われてしまい、さすがの俺も閉口してしまった。
話の流れで元人間だったことなども聞いたのだが何と言うか、どんな姿でもアルさんの事はアラクネだと認識しようと心に決めた。
進んで異形化するとかこの人割とヤバイ。
「は~……案外そこら辺の物でなんでも作れちゃうのね」
「被服関連だってそうじゃないのか?」
「ん~……糸は自前だけど他のものはある程度決まったものから採集しているわ。
個人で栽培していたりもするし」
「染物用の花とかですか?」
「なぬ?」
「あら良く知ってるわね」
「なんの種類の花が向いてるのかとかそう言ったことはわからないですけどね」
「ど、どんな花を育ててるのだ?」
「アリよ」
「蟻?」
「……なんだか豚が変な顔してるけど、朝に咲く花なの。
ほら杖使って画像出しなさいな」
言われて気づいたのでアリという花の画像を出す。
夜なのだが杖で出すウィンドウはディスプレイのように光っているので普通に見ることが出来る。
「鮮やか……それでいてどこか涼しげな花だな」
うっとりしながらその画像を見入っているヴェルさん。
にしてもこのアリって花……。
「アサガオ?」
「あら朝の顔なんてしゃれた呼び名ね」
「スズキの世界にも似たような花があるのか?」
「うん、子供の頃に育てたことがあるんだ。
あ、でも葉っぱの形が違う」
アサガオの葉は三又なのに対して、アリと呼ばれる花の葉はもみじ型だ。
「その朝顔というのも染物に使うのかしら?」
「さぁ……あ、でもよく浴衣のモチーフになってましたね。
俺のいた国では昔から馴染み深い花だったから」
「へぇ……確か浴衣というのも竜王国を跨いだ向こうの国で流行っていると聞いたわ。
それも貴族の間でね」
浴衣が高級品か……確かにあっちの世界でも良い物は高かった記憶がある。
「もしかしたら和服とかもあるんですかね?」
「……あらその和服というのは知らないわね。
どういったものなの?」
「俺のいた国の伝統的な民族衣装ですよ。
浴衣と似たような構造の物ですね」
「ちょっと見せなさい」
おっぱいが近づいてきたので、思わずのけぞりながら離れる。
「……生意気な」
「アルケニー、スズキが困っている。
やめろ」
ヴェルさんに一喝されるアルさん。
だが、いつもとは違って彼女は不敵に悪役っぽい笑みをヴェルさん向けていた。
「……ヴェルフール、貴方は気にならないの?」
「和服とやらか?
別に気にならんな」
「貴女あの豚の話をしっかり聞いていたの?
あいつは“民族衣装”だと言ったのよ?」
「それがどうした?」
「民族衣装というのはね、古今東西重要なものよ。
祭事や冠婚葬祭に密接しているものなの。
わかっていなさそうだからもう一度言うわ、祭事や【冠婚】葬祭に密接に関わっているものなの」
「……なるほど。
スズキ、我輩も見たい」
「いや、見たいなら見せるけどあの……なんで2人してにじり寄ってきてるの……?」
「早く実物を見たいからよ」
「アルケニーの胸ばかり見ているからだ」
そんなことはない、ヴェルさんの胸もガン見してました!
と、正直に言うわけにもいかないので、出来るだけ見向きもせずにウィンドウのみを凝視するように努める俺。
端から見れば両手に花状態ではあるのだけれど何故か俺の心境は蛇に睨まれた蛙であった。
ヘタレ根性バンザイ!!
次回更新は25日になります。




