第67話 ウソツキ
カグヤは体内の魔石を割られあっけなく逝った。
「ドラゴン、遺骸は要るか?」
「……酷い侮辱ですね」
「そうか、貴様はそう感じるのだな」
ククと笑いながらヴェルさんはもう一度カグヤを見た。
「スズキ、墓を建てるべきか?」
「……ヴェルさんはどうしたい?」
「そうさな……こやつにとってこの部屋こそ全てなのだろう。
このまま寝かせてやりたい」
「ならそれで良いと思う」
「そういうものか?」
「そういうものだよ」
「……そうか」
ヴェルさんはさびしそうに笑った。
その後、念のため遠藤という異世界人を探してみたが、遺骸は見当たらなかった。
それ以上に残っていたのは書類の山。
ジルベルトは多少目を輝かしていたが、がっついた様子も無く、淡々と調査を進める。
文字は全て日本語で書かれていたのだが、ジルベルトは日本語を読めるようだった。
「サトウくん、僕はあのカグヤという魔物に取引を申し込もうと思っていたんだ」
「どんなです?」
「簡単さ。
“遠藤”という異世界人が死んでいるのであればその足跡を追いたくはないか、とね。
追っている間は死にたいとは思わないかも知れないから」
「それもありかもしれませんが……」
「いや、無しだった。
ヴェルフール様は彼女を“優しく殺した”んだ」
そう言いながら、ジルベルトは俺に一冊の革の装丁の本を手渡した。
中を見てみれば、それは日記であり、あの魔物にとって残酷なことが書かれてあった。
端的に言えばここは転移魔法を使える遠藤にとっての別荘で、最初は好ましいと思っていたカグヤの存在が疎ましくなって放棄した旨が書かれてあった。
「他の書類には最後にこの別荘を“光学迷彩”なるもので2重に偽装して隠したと書かれているよ。
遠藤という異世界人にとっての最後の優しさだったのかな?」
「……かもしれませんね」
実際のところは当事者にしかわからないだろうな。
蔵の動力炉は現在も変わらず動いているようで、使われているものを売れば一財産になるそうな。
「いる?」
「我輩はいらん。
スズキは?」
「いりませんね。
ジルベルトさんは?」
「是が非ともってわけじゃないかな」
歴史学者というのは儲かるらしい。
蔵の外に出るとジルベルトはあごに手を当てる。
「しかし、光学迷彩が何故切れたのかは分からなかったね」
「杖で検索してみます?」
「それは味気無いなぁ」
「おい、アレではないか?」
ヴェルさんの見つけた方向に行くと庭と思われる庭園に一本だけ竹が生えていた。
その竹の横には倒れた灯篭。
ピンポイントに撃ち抜いたのか。
ジルベルトも同じ結論に至ったんだろう。
彼は空を見上げた。
「あの魔物、嘘つきだったね」
「誰に嘘をついたんですかね」
「さぁな……」
ヴェルさんがその灯篭をそっと元に戻すと、俺達はその屋敷を後にした。
屋敷は現在、外から全く見えない。
あの動力炉が動き続けている限り、彼女の屋敷は誰にも邪魔されず、ずっとそこにあり続ける。
その夜、ジルベルトの持っていた日本酒を頂いた。
この世界で初めての酒であったが、味はあまり覚えていない。
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٩(*´∀`*)۶
最近はしっとり気味ですが今後ともよろしくお願いいたします。
(っ´ω`c)




